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150702脳梗塞のトピックス

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 脳梗塞では一刻も早く病院を受診しましょうというテレビコマーシャルを見かける。脳梗塞治療は血栓溶解剤の適用時間の延長、血管内手術の発達など、日々進歩を遂げている。今回は「神経進歩の研究」という雑誌から、脳梗塞のトピックスを紹介する。


一過性脳虚血発作の定義


 一過性脳虚血発作(Transient ischemic attack, TIA)は「24時間以内に消失する局所的脳虚血症状」が一般的な定義である。TIAが重要視される理由は大きな脳梗塞の前ぶれであることと、適切な治療を施すことで脳梗塞の予防が可能となるためである。多くの症例では症状は1時間を越えない。にもかかわらず定義の「24時間」は1975年に米国脳血管障害分類が提唱して以来日本では30年以上踏襲されてきた。

 1990年のアメリカの診断基準では「画像上の梗塞層の有無は問わない」との文言が加えられたが、これはCTの限界によるものである。しかしその後のMRIの普及により、症状出現の1時間後にはMRIでは高率に虚血性変化が見られることが明らかとなった。CTは出血の検出には強いが、虚血には弱い。これに対し、MRIは水の分布を調べるもののため、虚血であっても早期から検出できる。この結果を受け、2002年には「神経症状が1時間以内に消失し、かつ画像上脳梗塞巣が見られないもの」となり、さらには2009年には時間の区切りはTIAの本質ではなく症状の消失と画像上の梗塞巣の欠如がITAの本質であるとして、「局所の脳、背傷、網膜の虚血によって生じる一過性神経学的機能障害で、画像上脳梗塞巣を伴っていない」という定義が提唱された。アメリカでは持続時間ではなく、画像でTIAを診断しているようだ。

 これに対して日本では、1985年の厚生省研究班の報告から24時間以内という時間の定義がなされ、1990年に頭部CT所見が加えられている。日本で一番新しい定義は2009年に提唱されたもので、「24時間以内に消失する、脳または網膜の虚血による一過性の局所神経症状」であり、「画像上の梗塞層の有無は問わない」としている。この定義はCTやMRIを持たないクリニックであっても診断できる実用的な診断基準である。「24時間」が残ったのは医者の間に定着した概念であるため変更が難しいからでもあるし、臨床上理解しやすいからでもある。


診断は難しい

 有名なTIAであるが、診断は難しい。短時間で症状が消失する病気であるため、診察する段階では症状を見ることがほとんどないからである。症状は突然発症して数分以内に完成する。症状としては運動麻痺、言語障害、歩行障害の順である。日常の診察では箸を落とした、言葉が一瞬出なくなった、という訴えが多い。50%が30分以内に症状が消失する。アメリカの救急医がTIA以外の疾患をTIAと診断した率は60%もあり、神経内科医であっても病歴のみからTIAと判断した場合の正解率は42-86%に留まる。私が診たのはたった1例で、腕が15分間動かなくなったというものである。診察した当時はTIAだと思ったが、このように誤診が多いという文献を読むと、本当にTIAだったのかよく分からなくなる。


血栓溶解療法は4時間半に

 脳梗塞に対する血栓溶解剤の投与が認められたのは2005年である。当初は発症後3時間までしか適用がなかったため、例えば入院するために準備をしてから救急車を呼んだりした場合には診察までに3時間過ぎていて血栓溶解剤が使えないことがあった。現在は4.5時間まで投与が認められている。

 4.5時間という数字は2004年からあった。だいたい3時間という数字は欧米での研究、3時間か6時間(1つは5時間)かと二者択一の結果である。だがこの研究のデータを見ていくと、4.5時間までは血栓溶解剤の投与により患者は有意に良好な転帰を辿っており、6時間であってもオッズ比が1を越えることが2004年に報告された。この結果を受けてさらに大規模研究を進めた結果、発症から3-4.5時間経った患者であっても血栓溶解剤投与によって3ヶ月後に完全自立に至った患者が投与しなかった患者に対して有意に多いことが明らかになった。また血栓溶解剤による頭蓋内出血については、溶解剤投与によって出血の危険性は有意に増加するものの、死亡率には差は認めなかった。この結果により2008年から各国のガイドラインが順次変更されていき、日本においても2012年に4.5時間が認められるようになった。


溶解の限界は6時間

 複数の研究では、発症後6時間経った脳梗塞患者に血栓溶解剤を投与することによって発症3ヶ月後の機能的自立患者の割合が上昇することや慢性期の転帰改善を認めている。しかし4.5時間の時点で明らかになった頭蓋内出血の発症率は6時間後ではさらに増加し、死亡率も増加することが明らかになっている。このことから、血栓溶解剤の適用の時間は4.5時間が限度であり、6時間まで延びることはないだろうと筆者は推測している。


6時間以降は血管内治療

 脳梗塞治療は、発症から4.5時間までは血栓溶解剤が用いられ、それ以降は血管内治療が行われている。これは血管の詰まっている部分までコイル状のカテーテルを進め、このコイルに血栓を巻き付けて引っ張るか、カテーテル先端で血栓を砕いてそれを太い管で吸い取ることによって血流の再開通を行うものである。その仕組みを動画で見てみたが、なるほどこれならうまく除去できそうだと思えるものであった。雑誌では超音波を用いた血栓溶解療法や脳保護療法なども紹介されており、治療は着実に進歩していると感じる。


文献

神経研究の進歩 2013;65(7)


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15.7.2/11:15 AM