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150702腰痛の時のステロイド療法

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 この連載でも腰痛に関しては時折触れている。重いものを持つ消防職員にとってはいつ腰痛に襲われるか分からないからである。

 整形外科やペインクリニック(痛みを治療する専門分野)に行くと、急性の腰痛では背中や尾底骨に注射をすることがある。私も病理をやる前はペインクリニックで毎日注射をしていた時期もある。ただこの注射、どれだけ効果があり、また効果が持続しているのか医者として当時から疑問を感じていた。今回この疑問に答える論文が出たので紹介したい。


脊柱管狭窄症へのステロイド投与


 New England Journal of Medicineの2014年7月3日号に掲載された論文1)である。硬膜外腔(脊髄の外側にある膜の、さらに外側にある空間)へのステロイド投与は腰椎脊柱管狭窄症の症状軽減のために広く行われている治療法である。だがこの治療法の有効性を示したデータはなかった。筆者らは400人の患者を対象にこの療法の効果を検証した。脊柱管狭窄症とは老化の過程で腰椎の脊柱管(脊髄を入れている管)が狭くなったり神経の出口が変形したりして、慢性の腰痛と下肢痛が出現するもので、ひどくなると感覚が低下したり力が入らなくなるものである。

 この研究は二重盲検、多施設研究である。中心性の腰椎脊柱管狭窄症に起因する中等度から重度の下肢痛を訴える患者に対して、硬膜外リドカイン注入か硬膜外リドカイン+ステロイド注入かのいずれかを行った。ステロイドとは副腎皮質ホルモンのことで、消炎効果に優れている反面、糖尿病や骨粗鬆症などの重篤な副作用も引き起こすホルモン剤である。リドカインは歯を抜く時など、局所に注射することで痛みがなくなる代表的な薬剤である。患者は評価時点の6週間後までに硬膜外注射を1回か2回受けた。評価項目はRoland-Morris Disability Questionnaire(RMDQ:生活の困難さを最低の0から最高24まで点数化するもの)であり、下肢痛スコア(痛くない0点最大に痛い10点)も評価した。

 6週間後の評価時点ではステロイド使用の有無はRMDQの点数に有意差はもたらさなかった。また薬を注入した場所(椎間板と椎間関節の比較)でも差は認められなかった。

 結論として筆者らは脊柱管狭窄症での硬膜外ステロイド注入はリドカイン単独問うように比べて長期的には効果がわずか、もしくは全く利益のない治療法であると結論づけている。


短期的にはわずかに効果あり

 この結果は私の経験して来た印象に一致する。急性腰痛症(ぎっくり腰など)のように、時間が経てば治って行く腰痛と異なり、脊柱管狭窄症は老化現象の一つとして症状が出るものであり、そのまま放置しても決して直るものではなく、逆にゆっくりではあるが進行して行くものである。「狭窄」と名の付いている通り、背骨の中の管が狭くなって症状が出るのだから、管を太くしてやらなければ根治はできない。

 ただ、長期的には効果がなくても、数日や1週間と言った短い期間では症状が良くなることを多く経験する。この論文でもこの短期効果は示されていて、3週間目にはRMDQと下肢痛は有意に低下している。ただその効果も6週間で消滅してしまうのがこの療法の限界である。

 また、ステロイドが持つ作用もこの療法の限界となる。ステロイドは全身作用が強く、感染症にかかりやすくなったり顔が浮腫んだり血圧を上げたり骨をもろくしたりする作用があり、いずれも老人には天敵と言っていい副作用となる。アトピーでステロイドを使うか使わないかは今でも議論されることがあるし、喘息では気管に留まって全身に影響を及ぼさないステロイドが次々開発されていることからも、軽々しく投与してはならない薬であることが分かる。


名人技=ニッチ手技

 ペインクリニックでは神経ブロックが治療の中心となる。神経ブロックとは神経の近くに局所麻酔薬などを入れることによって痛みを改善したり、気になる症状を抑えたりするものである。この神経ブロックがくせ者で、神経は外から見えないので、神経のありそうな場所を探して針先を進める必要がある。当然神経のある場所の目星を付けてから針を刺すのだが、人によっては良い場所が分からなかったり、変な場所に薬が入ってしまうことがある。このため、ペインクリニックに携わっている人間は、神経ブロックを極めようと努力をする。

 だが、世の中の流れはそうではない。一握りの人しかできない危険かつ特殊な技術はどんどん廃れ、誰でもできる安全な方法が世の中の主流になる。医学でも初期の癌なら内視鏡の進歩によって腹を切らなくても癌を取り切ることができるようになったし、高度な読影技術を必要としたレントゲン所見はCTやMRIの出現によって専門外の医者でも所見を拾えるようになった。これらに比べ、神経ブロックのような名人技に頼るような治療法は発展しないだろうと当時も思っていたし今もその考えに変わりはない。ペインクリニックはなくなることはないだろうが、細々と続いていくだけの分野となるだろう。


文献

1)New Eng J Med 2014;371:11-21


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15.7.2/12:01 PM