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151105 ガイドライン2015の展望

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今年は2015年。救急に携わる人たちにとっては、5年に一度の心肺蘇生ガイドライン改訂の年に当たる。今の時点ではまだワークシートも予告も何も出ていないが、インターネットの情報を元にガイドライン改訂の方向を探って行く。日本語は誰でも読めるので、私は英語で欠かれた情報を拾うことにした。

今回の記事は噂の域を出ていないものも扱うので、実際にガイドラインが発表されるとそれとは異なる内容も出てくると思うがご容赦願いたい。

2010と特に変わらない

現場の救急隊員にとってガイドライン(G)2015はG2010とほぼ変化のないものになりそうだ。この連載のために5年間文献をあさっていた私にとっても、驚くような論文は後半で述べる低体温療法くらいなもので、胸骨圧迫がどうだとかアドレナリンがどうだとかいってもG2010以前から分かっていたものばかりである。だいたいにおいてG2010になって蘇生率や生存退院率が有意に上昇したという論文も見ていない。だから変更点は全体においては小さな部分に留まるだろう。

例えば胸骨圧迫の回数。私は一般人には「なるべく速く」押すように指導している。そうすると元気のいい若者は毎分200回にもなるのではないかと思うほどハイペースで押し始めることがある。ここまで来るとさすがに速すぎるし、本人もあっという間に疲れてしまうので、もっとゆっくりと指導はするのだが、100回以上上限なしであるG2010から考えれば完全に合法である。一方、心肺蘇生モデルや動物実験では毎分125回が心拍出量のピークとなり、それ以上回数を増やすと逆に時間あたりの心拍出量が減少することが分かっている。このことから胸骨圧迫回数の上限を毎分120回か130回に設ける可能性がある。

上質な胸骨圧迫を行うためのモニターについても議論されているようだ。現在でも胸骨圧迫の時に患者の胸に取り付けて圧迫回数や押す深さを持続的にモニターできる機械が市販されている。この機械についても広く推奨されるようになるだろう。実際に押す時のことを考えると、目標なく漠然と胸を押し続けるより、機械によって明確な目標を随時示された方がやる気が出るだろう。

ルーカスやオートパルスといった自動胸骨圧迫機についても書かれているサイトがある。自動胸骨圧迫機は救急隊員など蘇生に携わる人間にとっては大きなメリットがある。だが、この連載でも度々取り上げているように、患者にとってメリットがあるというエビデンスは弱い(もしくはない)ので、余り派手な扱いはされないようだ。

アドレナリン投与についてはどのように扱われるか分からない。大規模研究では生存退院率を向上させないとされているが、小さな論文では今でも利点を訴えるものがいくつか出ているからである。

脳低体温療法がどうなるか

G2015で最も話題となりそうなのが、蘇生後の脳低体温療法である。この連載でもH26年1月号で取り上げた論文1)が大きな波紋を起こしたからである。内容は33℃でも36℃でも有意差がなかったというもので、いままで脳低体温療法に従事して来た医師らの努力を台無しにする、非情とも言える論文である。950例という膨大な症例数、33℃という妥当な低体温、New England Journal of Medicineというブランド雑誌と、背景も一流で眩しいばかりだ。

脳低体温療法はG2010では推奨される治療法とされていた。この推奨レベルが下げられるのは間違いないだろう。この療法を行うためにはコストもマンパワーもかかる。合併症も多い。それに、G2010発表の時点においてもエビデンスの乏しさは指摘されてたし、「助かるべき人だけが助かる」つまり助かる人は脳低体温療法などしなくても助かるし、助からない人は脳低体温療法をやっても助からないという印象は脳低体温療法が始まった当時から臨床医から聞かされていたことである。この論文があっても脳低体温療法が推奨に留まるのか保留に下げられるのか、G2015で最も興味のあるところである。

評価の仕方が変わる

内容に余り変化がないためか、インターネットで最も多く取り上げられているのはエビデンスレベルの評価方法が変わるという点である。今まではClass分類をしていた。これはエビデンスを推奨から危険までの一直線に並べたものであり、エビデンスのレベルがそのまま勧告レベルになっていた。これに対しG2015ではGradeという方法を採用している。これはエビデンスレベルと勧告レベルを分離したのもである。エビデンスレベル(Quality of evidence)は高、中、低、最低(最低と言っても否定的な意味ではない)の4段階があり、勧告レベルは強い、弱いの2段階がある。勧告レベルについては、「強い」は情報を得た患者のほとんどがその行為を行うことを了解できることと、その場に立った治療者のほとんどがするべき行為とされている。それに対して「弱い」は過半数の患者が了解しその場にいる治療者が考慮する行為とされており、「強い」との差はかなりある。日本人ならその中間が欲しいところだが、アメリカを中心とした社会では2者択一で十分なのだろう。

そのままでよさそう

以上のように、現場の救急隊員にとってはあまり変化のないガイドラインとなりそうだ。安心して日常業務をこなすことにしよう。

文献
1)N Engl J Med 2013; 369:2197-206


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15.11.5/3:28 PM