OPSホーム>最新救急事情目次>151105 新しい方法はなかなか出てこない

151105 新しい方法はなかなか出てこない

月刊消防のご購読はこちらから




蘇生効果の判定が病院前の心拍再開率であった頃はちょっとした工夫や薬で蘇生効果が上向いたのだが、現在のように蘇生効果を生存退院率や1ヶ月後の神経学的後遺症の程度で判定するようになってからは、どんなことをしても蘇生率は上がらないような感じを受ける。今回はそれでも果敢に生存率をアップさせようという動物実験を紹介する。


ブタでの実験

雌のブタ25頭を使った実験である1)。ブタは入手しやすく体格がヒトに似ているため動物実験ではよく使われる。18頭のブタに心室細動を起こし、12分放置した後、3つのグループに分けて実験を行った。グループAは3分の標準的な心肺蘇生と除細動を行い、必要であれば2分間の二次的救命処置を行う。グループBは3分間の標準的な心肺蘇生と除細動を行うのはAと同じ、その後必要なら2分間の二次的救命処置とcompression-decompression(加圧と減圧)胸骨圧迫と胸腔内圧力調整器具(CirQLator)を用いた人工呼吸を行う。グループCは初めから加圧と減圧胸骨圧迫と胸腔内陰圧発生装置(ResQPOD)を用いた心肺蘇生を行い、その後必要なら2分間の加圧と減圧胸骨圧迫+規則的胸腔内加圧+二次的救命処置を行う。ここでいう二次的救命処置とはアドレナリン0.05μg/kg静脈内投与を含む。第一の評価ポイントは24時間後の脳機能評価スコアである。残り7頭のブタに対しては、心室細動前と蘇生中の血行動態を手技別に測定した。

24時間後、普通の蘇生しか行わなかったグループAのブタは1頭を残して死亡した。それに対してグルーブBとグループCのブタは6頭全て生き残った。脳機能評価スコアはグループAが4.7であったのに対し、グループBは1.7、グループCは1.0であった。脳機能評価スコアは、正常もしくはごく軽度の異常が1点、死亡が5点である。グループAで生き残ったブタのスコアは3.2になり、スコア表によると高度機能障害で植物状態の一歩手前である。血行動態については、脳血流量はCirQLatorを用いたほうがResQPODを用いたものより多かったが、心筋の血流量は2つの方法で違いはなかった。またアドレナリンを投与することで、脳血流量も心筋血流量も投与前より有意に上昇した。

このことから筆者らはCirQLatorを用いた人工呼吸と加圧と減圧胸骨圧迫が24時間後の生存と神経学的後遺症の軽減に有用であるとしている。


加圧と減圧胸骨圧迫

この論文で言いたいことは「加圧と減圧を行う胸骨圧迫と人工呼吸補助器具の組み合わせは有用だ」ということなのだろう。だがやっていることが多すぎて、何が本当に有効だったのかはっきりしない。それに加圧と減圧を行う胸骨圧迫が有用なのは前から分かっていたことだ。

20年くらい前、洋式トイレが詰まった時に使う大きな吸盤の付いた棒を使って胸骨圧迫を行ったところ蘇生できたという症例報告がでた。これに刺激を受け、一時は吸盤を胸に貼付けて胸骨圧迫をする器具も発売されていた程である。日本でも多くの消防署がその器具を購入したものの、押すだけでも疲れるのにさらに引っ張るという、余りの重労働に皆付いて行けず、現在は倉庫の肥やしになっている署も多いと思う。ただ、今はルーカスなど自動で胸骨圧迫を行う機械が出回っているので、それを改良することで胸郭を引き上げる胸骨圧迫も可能になるだろう。


人工呼吸の補助

この論文では二つの人工呼吸補助器具が用いられている。

ResQPAD(レスキューバッド)は人工呼吸のときにバッグとマスクの間に噛ませる円筒形の器具である。これは単純に言うと一方向弁である。胸骨圧迫を下あと、除圧すると胸腔内に陰圧がかかる。通常はその時に息を吸い込むため胸腔内は陰圧にはならないが、ResQPADはこの空気の流入を防ぐので胸腔内は陰圧に保たれ、その結果胸腔内に血液が多く戻って来る。販売元の情報では心臓へ戻る血液の量は2倍、脳血流量は1.5倍になる。蘇生時の収縮期血圧も2倍。呼吸器系に作用する器具なのでどんな不整脈であっても効果があり、除細動成功率は上昇し、生存率も上昇するとしている。その他、バッグを付ける側には人工呼吸のリズムを知らせるLEDが付けてあり、1分間に10回点滅する。

一方のCirQLator(サーキュレーター)は情報が少ない。こちらも円筒形の装置で付ける場所はResQPADと同じ、バッグと患者の間ある。写真を見ると気管挿管チューブに付けているので、マスク換気での使用は余り考えていないのかも知れない。CirQLatorでできることは多分ResQPADと同じだろう。


新しい方法は出づらい

ResQPADの理論はよく分かる。単純だから故障もない。良いところに目を付けた良い製品だと思う。ただ問題なのは、人工呼吸廃止まっしぐらの現在、これがどれだけ普及するかだろう。ルーカルやオートパルスのように救急隊員の負担を軽減するものでもないから、それほど需要はないかも知れない。

閉胸式胸骨圧迫+人工呼吸や除細動のような、画期的な蘇生技術はこれから出て来るのだろうか。




文献

Debaty G: Crit Care Med 2015 Mar 9 Epub


OPSホーム>最新救急事情目次>151105 新しい方法はなかなか出てこない


http://ops.umin.ac.jp/

15.11.5/3:32 PM