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151105ショックのタイミングとメタアナリシス

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CPRファーストとショックファースト。いずれもガイドライン2005で提唱されガイドライン2010で消滅した概念である。覚知から現着までの時間が長いか短いかで蘇生の手順を変更した方が生存率が良いという報告によりガイドライン2005で採用されたものの、その後の追加研究では差が見られなかったためガイドライン2010では放棄されている。2014年9月になってこれまでのまとめの論文1)が出たので、今回はこの論文を紹介する。

やはり差は明らかにならない

過去に何度か取り上げたことのあるコクランデータベースからの引用である。CPRファーストとショックファーストで生存率などに差があるのか、過去の論文を統合することによって検討している。対象は病院前心停止患者で救急隊などによる心電図装着時に心室細動か無脈性心室頻拍であったものである。これを現着直後にAEDを装着し放電した群と、現着後1分から3分の心肺蘇生を行った後に放電した群に分け、生存率と神経学的後遺症の程度を比較する。

対象となった論文は1948年から2013年5月までに発表されたものとし、MEDLINEなどの検索システム5つを用いて論文を検索する。筆者らは中国系なので中国のデータベースも検索に用いている。さらに過去の論文ばかりではなく現在進行中の臨床研究も研究対象としている。次に検索した論文からメタアナリシスにふさわしい論文を選ぶ。選択基準は無作為割り付けもしくは準無作為割り付け研究とした。

これらの選別に耐えて残った論文は4つのみ、合計の症例数は3090であった、3つの論文は患者全体の無作為割り付け、1つは施設ごとの無作為割り付けであった。3つの論文はバイアス(偏り)が低かったのに対し、1つの論文は偏りが強かった。

生存退院率を比較すると、CPRファースト群では338例中39例(11.54%)、ショックファースト群では338例中39例(11.54%)の生存退院であり、危険率は0.06であった。同様に神経学的後遺症の軽微な症例数、心拍再開率、1年後の生存率を比較しても有意差は見られなかった。

結論として、筆者らはCPRファーストとショックファーストとで有意差は見つけられなかったとし、どちらの方法が有用科結論付けは不可能としている。

コクランデータベースとメタアナリシス

専門用語が続いたので少し説明する。コクランデータベースとは雑誌の名前であり、対象とする項目にエビデンスが存在するのか検討する論文が多数掲載されている。コクランデータベースが用いる代表的統計学手法がメタアナリシスである、一つの論文だけでは症例数が少なかったり、同じ調査なのに結果が違ったりした場合に、それらの論文を統合させて一つの結論を導くためにメタアナリシスが用いられる。エビデンスとは客観的に証明できる有用性のことである。無作為割り付けとは今回の場合であれば誰かの意思で放電のタイミングを決めるのではなく、乱数など人智の及ばない方法を用いて治療法を割り当てることである。

論文を遡っても無駄

メタアナリシスは料理に似ている。元が悪ければいくら調味料を足そうがろくなものはできない。だから、採用する元論文の質を吟味することに研究者は多大な労力を注ぐ。この筆者らは論文の検索対象を1948年からとしているがこれは全くのはったりで、そんな昔に救急現場で無作為割り付けなどやってはいない。現場で無作為割り付けを行うようになったのはせいぜい20年前だろうから、それ以前の論文はメタアナリシスには使えない。さらに、新しいからと言って数だけ論文を集めればいいというものでもない。前向き研究で無作為割り付けの研究でなければメタアナリシスにはほぼ使えないし、そのような大規模研究を行える資金力と政治力を持つ国・施設はごく限られている。

統計を用いたこねくり回し

今回のこのコクランデータベース論文ではたった4つの論文だけで事の真偽を判断しようとしている。いずれもガイドライン2010ワークシートに載っており、この連載でも取り上げたものばかりである。4つの論文の抄録を読むだけでもCPRファーストとショックファーストの治療効果に差がないことはすぐ分かる。こういった、当たり前の結果を統計学を用いてこねくり回る必要はあるのだろうか。これからさらなる大規模研究が行われ、その結果で有意差が指摘されれば、メタアナリシスでもその結果に引っ張られて結果が変化するだろう。

情報で最も信頼できるのは一次情報である。必要な時にはすぐ元論文に当たろう。統計に惑わされてはいけない。


文献
1)Huang Y: Cochrane Database Syst Rev 2014;12:9, Epub


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15.11.5/3:00 PM