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160306 心肺蘇生ガイドライン2015他の注目点

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 余り注目する項目のないガイドライン(G)2015。その中でもちょっとだけ注目する項目を紹介する。

遅延換気(Delayed ventilation)

 初めて聞く言葉で何のことだと思われる方も多いだろう。私も最初分からなかったが、どうやらEwyらのグループがアリゾナでやっている、「救急隊員も人工呼吸不要」の話らしい。これならこの連載でも過去に取り上げている。Ewyは2008年に救急隊員が胸骨圧迫のみを行う方法を「胸骨圧迫中断最小法」と名付けて発表している。2008年ならG2010の発表に十分間に合ったはずだが、G2010では取り上げられていない。それがG2015で取り上げられたのは、その影響力や普及の程度が無視できなくなったからだろう。

 具体的には、患者に取り付いたあと胸骨圧迫を1セット200回連続して行う。場合によっては3セット600回連続で胸骨圧迫を行う。人工呼吸は行わないが、患者の顔に酸素マスクを当てて酸素を流しておく。飽きるほど胸骨圧迫をやったあとに人工呼吸をするので「遅延換気」と名付けたようだが、もっと分かりやすい名前はなかったのかと思う。この遅延換気が行われるのは卒倒が目撃された患者か取り付き時に心電図波形が心室頻拍もしくは心室細動の患者に限られる。日本の消防では蘇生の仕方が細かく決められているので、当面採用されることはないだろう。

ルーカスの評価は今ひとつ

 ルーカスやオートパルスといった胸骨圧迫をやってくれる機械については、日本語では否定的なニュアンスで書かれている。つまり、「ルーチンには使用しないことを提案する」「用手胸骨圧迫の継続が実行不可能な状況...代替手段として、機械的CPR装置を用いる」とある。ところがAHAを読むと淡々と書いてあるだけ(自分の読解力が足りないだけかも知れない)なので、単なる言語の違いだけかも知れない。

 機械だからいくら押しても疲れることはない。なら、ルーカスのピストンの先端を吸盤にして、20年位前に流行ったcompression-decompressionを機械にやらせたらどうだろうと思い、業者に聞いてみた。すると、「どれだけ胸郭を引き上げれば分からないので製品化は難しい」とのことだった。このアイディアは11月の救急勉強会のあとの懇親会で聞いたことなのだが、私たちが思いつくくらいだから業者はもう検討しているのだろうと思う。

アドレナリンの評価は変わらず

 アドレナリンは使っても使わなくても予後に無関係との論文がいくつか出ており、逆に使った方がいいという論文も出ている。G2015では除細動可能の心停止と不可能の心停止(心静止など)に分けて勧告しており、除細動可能の場合はいつ使っていいか不明とし、除細動不可能の場合はすぐ使えとしている。現実には除細動可能なら点滴を待たずにすぐ放電するはずなので、胸骨圧迫→除細動→アドレナリンの順になる。アドレナリンには心拍再開率は上昇させるが生存退院率を上昇させるだけの力はない。

 G2010でアドレナリンと同等の効果とされたバソプレッシンについては評価が下がり、既にバソプレッシンを第一選択としている場合以外は取り立てて第一選択にする必要はない、と述べている。それぞれの薬を使った研究ではっきりとしたさが認められなかったのがその原因だが、その前に値段が違う。アドレナリン1本165円に対してバソプレッシンは1本756円もする。財政は有限なのだから効果に差がないのなら安い方を使うべきだろう。

「低体温療法」から「発熱阻止療法」へ

 これもかこの連載で触れている。G2010で低体温療法は32-34?で12-24時間冷却するとしていたが、36?でも転帰が変わらなかったという大規模臨床試験の結果を受けて、「32-36?の間で目標体温を選び、その体温を24時間持続させる」との文言に変更された。体温を冷やすことが予後を改善するのではなく、発熱を防ぐことが予後を改善するというのである。

 発熱阻止は24時間を越えても良い。だが、G2010で効果ありとされた病院前低体温療法はその後の研究で効果が認められなかったためG2015では推奨されなくなった。

緊急帝王切開は心停止後4分で

 妊婦で心停止になった場合は、目撃心停止後4分もしくは心停止発見から4分で帝王切開を考慮するとされた。G2010では心拍再開なしを帝王切開の条件にしていたのでかなりの変更である。そのままでは死亡する胎児を救うだけではなく、妊娠子宮による大動脈の圧迫も解除されるため蘇生に良い影響を与えるとしている。

抜けた歯を卵白に浸ける

 ガイドライン2015からは応急処置も本編に含まれるようになった。G2010以前も応急処置の項目があったが、それはガイドラインの付属という位置づけに過ぎなかったので大きな出世である。

以前からの応急処置に比べて変わったことは書いていない。その中で面白いと思ったのが
・脱臼した歯を卵白に浸ける:唾液や牛乳は知っていたが、卵白に浸けてもいいのは初めて知った。家に卵がある家庭と牛乳がある家庭はどちらが多いか考えると多分卵だろうから有り難い話である。
・どうしても止められない四肢の出血に対して止血帯を用いる:ガイドライン2010ではかなり否定的に書かれていたはずだが、5年間で止血できない症例がたくさんあったのだろう。どうしても血が止まらない時には縛るしかない。
救急隊員以外はネックカラーは使わない:JPTECでおなじみネックカラーは有害という報告がたくさん出ている。そのため訓練された救急隊員以外はネックカラーは使わず手で頭を保持するべきである。


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16.3.6/1:28 PM