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160306平熱低体温療法

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 2日前の夜、脳低体温療法の文献を集めていたところ電話があった。知人が倒れたとのこと。あわてて病院に駆けつけると冠動脈インターベンションの最中であった。2時間後にCCUに通されるとそこには低体温療法中の知人がいた。経口挿管されて人工呼吸器に繋がれ、右内頸静脈からはスワンガンツカテーテルが入っている。足下には大きな冷却装置があり、現在の深部体温と目標体温を表示していた。

 今回はガイドライン2015でも大きく取り上げられている脳低体温療法の現在の評価を見てみる。

平熱低体温療法

 平熱と低体温療法とは変な組み合わせだが、現在臨床で進む方向はこれである。低体温療法は臨床に導入されてから、目標体温がどんどん上がってきている。当初は30?未満の目標温度も試みられたようだが、次第に32?から34?に落ち着いた。また低体温に置く期間も7日弱から24時間程度の短時間になった。2012年には目標体温32度と34度の比較を行い、32度の方が生存率が高いという報告も出ていた1)。

 潮目が変わったのは2013年。目標温度33?でも36度でも転帰は変わらないという論2)が出たことによる。今まで33度に冷やすことで血圧低下や電解質異常と闘ってきたのに、蘇生後の発熱を抑えるだけでいいというのだから、苦労は少なくなるだろう。

 メタアナリシス論文3)でもこの平熱低体温療法がさっそく取り上げられている。ここでは無作為前向き試験を行った6つの論文を元に、32-33度と36度の比較を行っている。論文は2000年に出た54例の報告から2013年の、右に挙げた平熱低体温療法939例まで。症例数として大きいのは2013年の報告で、次に2002年の275例である。この論文を見ると、32-33度の報告が2000年から2006年に出て、突然2013年の平熱低体温療法に飛んでいる。空白の7年間は検討に値する論文は何もなかったようだ。論文では数えるのが面倒なほど多くの項目を検討しているが、どれも32-33度と36度で全く差がない。メタアナリシスは結果が有力な論文に引っ張られるため、今回の結果をそのまま信じることはできないが、過去の低体温と比較して平熱でも効果があるのかな、と考える程度の根拠にはなるだろう。

今までの治療法をすぐ変えることは困難

 平熱低体温療法の論文が出た後に治療法が変化したかどうか検討した報告がフランスから出ている3)。これはフランスの臨床医にアンケート調査をしたものである。3229名の臨床医にアンケートを行い、518名から回答を得た。平熱低体温療法の論文が出てからも60%の臨床医は32-34度の低体温療法を実施していた。36?で実施しているのは14%であった。低体温療法の実施時間は12-24時間が40%、24-48時間が36%であった。

除細動できない症例でも有効

 この脳低体温療法は心電図を選ばない。アメリカ・ヒューストンから論文4)では、2007年から2012年までの病院外心停止症例のうち、病院外で心拍再開しその後脳低体温療法の症例を抽出したところ9479例あった。そのうち7839例が心電図装着時に除細動適応外の心電図波形であった。病院到着前に心拍再開した症例は2609例、1768例が心拍再開のまま病院に到着している。脳低体温療法の適応と考えられたのが696例で実際に脳低体温療法を行ったのが48.1%であった。適応があっても実際に治療が導入されるのは半数に満たない。症例をマッチさせるために、VF/VT症例と除細動適応外症例を合わせて260例を抽出した。これらVF/VT症例と除細動適応外相令で、生存退院率に差はなかった。

救急隊に感謝

 昨日も知人の元を訪れた。すでに低体温ではない。CCUスタッフに尋ねると、血圧が維持できないため復温したとのこと。それでもノルアドレナリンを投与され、収縮期血圧は120mmHgとなっていた。フェンタニルとミダゾラムで鎮静されてはいたが筋弛緩薬は使っていなかった。看護師が「声に反応しますよ」というので声をかけたところ反応して眼を開けてくれた。

 救急隊や医師の記録も見せてもらったが、心停止から心拍再開まで30分はかかっている。バイスタンダーCPRは行われていない。それでも(不完全かも知れないが)意識が回復するということは、救急隊の胸骨圧迫がいかに適切であったかを示している。紙面を借りてお礼を言いたい。

文献
1)Circulation. 2012;126:2826-33.
2)N Engl J Med. 2013 ;369:2197-206.
3)Critical Care 2015;19:147
4)Acad Emerg Med. 2016 Jan;23(1):14-20


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16.3.6/1:33 PM