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160605バイタルサインより年齢

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バイタルサインより年齢

 先日、日本一寒い陸別町(りくべつちょう)で行われた救急研修会に参加してきた。

 午後の1講目は札幌消防期待の若手:阿部隼也(あべとしや)氏による「観察の要領と意義について」であった。

 質疑応答では「バイタルサインの観察で最も重要なものは何か」との質問に対して、呼吸だろう、意識だろうと、いろいろな意見が出た。だが、素朴な疑問として、バイタルサインのおのおので優劣はあるのだろうか。もし優劣があるのなら何をもって優れていると言えるのか知りたくて文献を調べてみた。

病院内トリアージ

 今回の論文1)の舞台は現場ではなく病院である。まずは病院内トリアージについて説明する。災害現場では患者を黒、赤、黄、緑の4段階に分ける。これに対して病院では5段階に分けるのが普通である。レベル1が黒に相当し、病院なので蘇生をする。レベル2は赤に相当する。レベル3は準緊急、レベル4は低緊急、レベル5は非緊急としている。トリアージを行うのは外来なら看護師、救急外来なら医師や看護師である。災害現場の死亡を除いた3段階でも大変なのに、レベル2からレベル5までの4段階に外来患者を振り分ける作業はもっと大変だろう。

バイタルサインなどと死亡リスクの関係

 トリアージの判断材料となるのがバイタルサインである。この論文ではバイタルサインと死亡率について過去の論文を調べて報告している。論文では1966年から2009までの論文を調べ、バイタルサインと予後に関する論文を抽出した。その結果、抄録の段階で検索に引っかかったものが4185編あったが、ちゃんとした論文になっているのはわずか4編、論文の室としては中レベル3編、低レベル1編と、余りレベルの高いものは発表されていなかった。そのつもりで結果を見て頂きたい。

 この論文で挙げているバイタルサインについて、異常値と死亡リスクの関係を順に述べる。この論文では、信頼できる指標は酸素飽和度、意識レベル、年齢の3つとしている。

1.呼吸回数
呼吸回数が極端に早いか遅い場合は、正常の呼吸回数の患者に比べて30日以内の死亡率が1.9倍になる。だが呼吸回数と死亡率を比較した論文は1編のみで信頼性は低い。

2.酸素飽和度
酸素飽和度が低ければ死亡リスクは1.4-1.7倍になる。

3.心拍数
心拍数が高いか低い場合には死亡リスクは1.7倍になる。これも1編のみの指摘で信頼性は低い。

4.意識レベル
3つの論文が意識レベルを取り上げており、それぞれリスクが2.1倍、1.7倍、11.7倍になるとしている。

5.血圧・体温
死亡リスクとは関係しない。血圧は薬で、体温はブランケットなどで上げ下げできるのがその理由であろう。

6.主訴
死亡リスクとは関係しない。主訴は当てにならない。

7.年齢
30日後の死亡率と最も関連するのは年齢である。4つの論文全てで関連を指摘しており、そのリスクは1.1-26倍、年齢が1歳上がるごとに死亡リスクは5%上昇する。

 結局のところ最も当てになるのは年齢であった。年齢はバイタルサインに含まれない。薬や治療で誤魔化すことのできないものが最も信頼できる指標なのである。
また、病院内トリアージをするのは重症患者に早く治療を行うためである。重症患者なら当然入院率も増えるだろう。これに関しては紹介された全ての論文でトリアージレベルが上がるほど入院の率は高くなるとしている。

病院内トリアージには客観性がない

 現場のトリアージなら、赤タッグなら誰がやっても赤タッグになるだけの客観性を持っている。特にスタート法を厳密に行えば、誰がやってもほぼ同じ色の札を患者に付けることになるだろう。だがこの論文によれば、病院トリアージは方法によって、またやる人によって全く異なる札を付けることになる、非常に客観性に乏しいものらしい。例として、レベル5の非緊急群の割合は、ある方法を用いれば3.1-17%、別の方法では0-7%、さらに別の方法では1.4%となっている。患者数が少なければばらつきも仕方ないが、最初の方法は合計13万人を対象としており、他の方法も最低で1万人を対象としている。1万人もいれば0%から17%にまでばらつくことはないはずだ。またこのいい加減さは、病院内トリアージの方法が乱立する原因ともなっている。

 この原因は、分けるべきレベルの多さにある。5つに分けたレベルのうち、誰が見ても間違いないのはレベル1「蘇生」だけだ。レベル3「準緊急」レベル4「低緊急」の2つは、その日の気分によって患者分けが変わって来るような気がする。そんないい加減な物差しで治療の順番を決められては困るのだが、多くの国と病院で普及しているところを見ると、有用性は認められてるのだろう。機会があればレベル3.4.5の3つの仕分け方を教わってみたい。


文献
1)Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2011;19:42


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16.6.5/10:17 AM