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161024_i-gelの評価

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i-gelの評価


 写真撮影のためにi-gel を貸してもらった。i-gelとは救急救命士が使用できる上気道エアウエイの一種である。見た目といい大きさといい伝説の動物ツチノコにそっくりである。カフの部分はラリンゲアルマスクのマスク部分を小さくしたように見えるがカフではなくシリコンである。説明によるとラリンゲアルマスクのカフは下咽頭に位置して喉頭蓋を含む喉頭部分をすっぽり覆うのに対し、i-gelは喉頭だけを覆うらしい。

世界標準はラリンゲアルマスク

 統計はないものの、日本の救急救命士が現場で最も使用している上気道エアウエイはラリンゲアルチューブであろう。ラリンゲアルマスクは2番手で、新参者のi-gelはラリンゲアルチューブが定着した後の発売なのでこれをメインに使っているところはほとんどないようだ。

 ラリンゲアルマスクは「フェイスマスクを喉に入れる」という発想により1983年にイギリスで開発されたもので、30年間そのままの形と素材で生き残っている、素晴らしい製品である。開発者の特許は既に切れているため、誰もが類似した製品を作ることができ、真っすぐなものや曲がったもの、気管挿管の補助として開発されたもの、1回のみ使用のものなど、選べる幸せが味わえる。長い歴史から、後発の上気道エアウエイはすべてラリンゲアルマスクとの比較で優劣が議論される。Pubmedで「laryneal mask」と検索すると3590編ヒットする。

 ラリンゲアルチューブ1999年に発表された。それまであった食道閉鎖式エアウエイの改良型である。Pubmedでの「laryngeal tybe」ヒットは203編。それほど多くはない。これはラリンゲアルチューブの使用がほぼ救急現場に限られるためである。

 i-gelは2005年発表。ラリンゲアルマスクが喉全体をマスクで覆うのに対し、i-gelは喉頭蓋とその下の声門だけを覆う。最大の特徴はカフに空気を入れる必要がないことで、その分手間が減り、救急隊の現場離脱が早くなる。Pubmedでのヒットは254編である。i-gelは救急現場ばかりでなく手術室や病棟でも使われるため短期間で多くの論文が出されている。

 現場で求められる上気道エアウエイの条件は次の3つであろう。すなわち、(1)簡単迅速に挿入できる(2)確実に換気できる(3)願わくば生存率を高める、である。ただ、生存率の報告は調べた限りでは見つからなかった。ラリンゲアルマスクをi-gelにしたからといって蘇生率や生存退院率が上がるとはとても思えないので、これからも出ないかも知れない。なので残りの2つの条件を見てみよう。

簡単迅速に挿入できる

 オーストラリアからの報告1)では、救急外来でラリンゲアルマスクかi-gelのどちらか無作為にを挿入し、その成功率を見た。その結果i-gelの挿入成功率が90%であったのに対しラリンゲアルマスク(ソフトシール)の挿入成功率は58%であった。

 ドイツでは病院外心肺蘇生患者70例に対しi-gelを挿入した。救急救命士による挿入が63例、医師による挿入が7例である。一度で挿入に成功したのが90%、2度目で成功したのが7%、3度目で成功したのが3%であり、挿入を試みた全例にi-gelの留置を行うことができた。挿入の印象では、簡単に挿入できたのが80%、少し難しかったのが16%、とても難しかったのが4%であった2)。

 手術室ではなく、実際の現場を想定し研究も行われている。日本からは、暗闇で6種類の上気道エアウエイをマネキンに挿入するという面白い研究が出ている3)。それによるとラリンゲアルマスクは暗闇で挿入するには明らかに難しく、それ以外の(i-gelを含む)上気道エアウエイはそれより簡単だったこと、経験者は未経験者より暗闇で挿入するための時間がかかったことが報告されている。

 麻酔時の研究4)では、挿入開始から完了までの時間はi-gel 23.6秒、ラリンゲアルマスクsupreme 25.1秒であった。抜去時に出血を認めたのはi-gelでは誰もいなかったのに対し、supremeでは18%に出血を認めている。

 麻酔中の患者の循環動態に対する影響もラリンゲアルマスクとi-gelで差はなかった5)。

空気漏れはラリンゲアルマスクと同等

 i-gelはカフがない。ツチノコの頭の部分はシリコンの塊で空気の入る場所がない。しかし空気漏れはほとんどないらしい。全身麻酔患者を被検者とした論文4)によると、ラリンゲアルマスクsupremeが23.6cmH2Oの圧力で空気漏れを起こすのに対し、i-gelは27.3cmH2Oで空気漏れを起こす。また一回で挿入に成功した割合はi-gel 100%, supreme 90%であった。

 ドイツの報告2)では、挿入後に空気漏れがなかったのが80%、中等度に空気漏れしたのが17%、空気漏れのため患者の胸が挙上しなかったのが3%であった。挿入が簡単であった症例では換気も良好であった。胸骨圧迫を中断せずに人工呼吸を行うことができたのが74%であった。

 空気漏れについてはラリンゲアルマスクの方が漏れづらいという論文もある6)ので一概には言えないのだが、おおざっぱに言うとラリンゲアルマスク程度の気道内圧に耐えられるようである。

評判のいいi-gel

 論文を読む限り、i-gelの評判はとても良い。i-gelは声門の直前に換気口が空いているので、i-gelを通じて気管挿管もできる(医師ならば、であるが)。皆さんも機会を見つけてi-gelを武器の一つにしたらいかがだろう。

文献
1)Resuscitation 2014;85:893-7
2)Resuscitation 2013;84:1229-32
3)J Aesthe 2015;29:887-92
4)Singapore Med J 2016;57:432-7
5)Turk Anaesthesiol Reanim 2015;43:304-12
6)J Clin Anesth 2016;33:298-305


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16.10.24/8:33 AM