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170820「エビデンス」は作ろうと思って作るもの

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この連載で「エビデンスって何」を掲載したのが2002年である。原稿の初めには「5年前からよく聞くようになったエビデンス」と書いてあるから私がエビデンスを意識しだしたのが今から20年前の1997年のようだ。今やエビデンス全盛で、ちょっと何かしようとすると「エビデンスはあるのか」と聞かれるようになった。

医師向けの新聞であるMedical tribuneに「EBM神話の終焉とPrecision medicineの裏側」題されたインタビュー記事が掲載されている1)。なかなか面白い内容なので、今回はこの記事を軸にエビデンスを見てみたい。なお、記事は医師向けなので、読者諸兄は「医師」を「救急隊」と読み替えて欲しい。さらに中身を端折っていると思われる部分が多いため、私が内容を補足していることをお断りしておく。

EBMとは

EBMとはEvidence based medicine(根拠に基づいた医療)の略である。ここではエビデンス医療と名付ける。エビデンス医療が初めて登場したのは1990年カナダのマクマスター大学においてであり、その後も同大学を中心とした精力的な活動によりエビデンス医療が広く知られるようになった。エビデンス医療の判断の中心となるのが論文によって統計学的に証明された事実であり、この事実を根拠とする判断をエビデンスと呼んでいる。「エビデンスはあるのか」というのは「君の判断には統計学的根拠はあるのか」と言い換えることができる。

エビデンスは金持ち会社が作るもの

インタビュー記事で語っているのは東海大学循環器内科の後藤信哉教授。今までの経験医療からエビデンス重視になったのは歴史の必然とする一方、これからは個別医療にシフトして行くとする。しかし個別医療も製薬会社などの有利なものしか出てこないとしている。主張を読んでみる。

エビデンス医療以前の医学は、人体を細かく分割することで生理学や薬理学が生まれ、その延長として病態生理を把握して薬剤などの医療介入をしてきたが、病態理解だけでは成果が得られず科学性も不十分であった。そこで患者集団を無作為に治療法Aと治療法Bに分けてそれを比較することで治療法の優劣を決めるエビデンス医療が誕生した。これは簡単に言うと、人体も病気も複雑すぎて理解できないので、外部からの介入結果で判断しようというものである。これにより予後は改善されたものの、医療の正解はすべて論文の中にあるという誤解を招いた。

また、エビデンス医療の普及と医療技術の進歩により医療が底上げされてしまい、治療法Aと治療法Bとで効果に差がほとんどなくなってしまったため、新たなエビデンスを作るためには膨大な症例数が必要となった。症例数が増えることは研究や開発にかかる費用も増えることになるため、膨大な費用を賄えるだけのスポンサーが、大金を出してでも回収できる項目に限ってエビデンスを作り出すようになって来た。抗癌剤で1ヶ月何百万円とか言われる新薬がそれである。

エビデンス鵜呑みなら誰でもできる

後藤教授はガイドライン中心医療にも否定的見解を述べている。エビデンスの行き着く先はガイドラインである。これは心肺蘇生ガイドラインを見れば明らかであろう。

エビデンス医療は勝者総取り方式である。治療法Aの有効率が49%, 治療法Bの有効数が51%なら、EBMは治療法Bだけを推すからである。多数決や民主主義によくフィットするからあっという間に世界に広まったが、そこには49%への配慮はない。

またエビデンス医療はマニュアル化に繋がると教授は述べる。ガイドラインそのまま診断治療を行うなら誰でもできる。頭を使わない医療を続けていけば、医師としての経験の価値は保健指導や医療介入を行うコメディカルに劣る、と判断されてしまうだろう。また「医師の手が触れることの治療効果」や「患者の表情を見ることの診断的意義」はマニュアル化できない。患者の個別性をどう位置づけ治療に反映させるか。「病気や患者の分からなさ」と悪戦苦闘することが、マニュアル化の対極にあると後藤教授は主張する。

エビデンスで儲かる人は誰か

話の骨子は昔から言われていたことと変わらない。「マニュアル医者になるな」「目の前の患者を大切にしろ」ということである。だが、このインタビュー記事を紹介したのは、「エビデンスは意図を持って作られる」という主張が新鮮だったからだ。

薬のエビデンスはカネがかかることは分かるだろう。では心肺蘇生のエビデンスはどうだろう。人工呼吸が廃止されて得をする人は誰だろうか。公衆AEDが有効だと触れ回り儲けている企業はどこだろうか。考えれば、エビデンスも常に疑ってかかった方が良いように思える。


文献
1)Medical tribune 2017;50(1):3


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17.8.20/7:34 AM