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170820 理屈通りにいかない胸骨圧迫マシン

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2年前にアメリカでLifeline ARM(アーム)という胸骨圧迫器が発売された。見た目も仕組みもルーカス2とそっくりで、ルーカスの欠点、かさばることや装着しづらいことを克服した製品となっている。ルーカスより安いようなので日本でも普及するだろう。
機械を使えば手で圧迫するより質の高い胸骨圧迫を提供できる。しかし現実には用手より優れているという論文はまずない。なぜなのだろう。

LIfeline ARM

まずはアームの紹介。日本でもおなじみのルーカス2と同じ形をしている。患者への装着はルーカス2より簡単そうで、背板を敷き、のぼりを立ててピストンをそののぼりにセットし、電気をいれるとピストンが上下する。説明の動画を見たところでは、ピストンの装着はLUCASより簡単そうだが、LUCASとの違いはそれくらいしか分からなかった。アメリカの救急隊向けの掲示板「EMTLIFE」にも、「LUCASと変わらない。値段は安い」と書かれている。

そのアームの文献を二つ紹介する。一つ目1)。78人の救急隊員を集め、マネキンに対し自身が胸骨圧迫を行った時とアームを取り付けて胸骨圧迫を機会にさせた時の比較をしている。胸骨圧迫の平均回数はアームが毎分100分だったのに対し救急隊員は43回、時間が経ってもアームでは無効の胸骨圧迫は少なく、5cmの深さまで押せていたのはアームが97%に対して隊員は63%であった。胸骨圧迫のテンポがガイドライン内に収まっている比率もアームの方が高く、心拍出量もアームが多かった。胸骨圧迫をしていない時間(ハンドオフ時間)はアームで少なかった。機械が心臓を押すのだから当たり前の結果である。ハンドオフ時間が少ないのは、アームの装着が容易であることを示している。

次は小児マネキンでの検討2)。こちらは37名の看護師が胸骨圧迫を行っている。看護師が行った胸骨圧迫に比べてアームの方が2分間の胸骨圧迫回数、圧迫のテンポ、深さ、胸骨圧迫の質のすべてで優秀であった。

搬送時に力を発揮する

ルーカスなどの機械が最も役立つのは、患者がストレッチャーに乗せられて移動している時だろう。救急隊員では満足に胸骨圧迫できない。患者搬送にルーカスを使った研究がある3)。患者に見立てたマネキンを2階に置き、心肺蘇生と除細動をした後に一階に降ろして救急車に乗せ5マイル離れた病院に運ぶというものである。参加した救急隊員は23人.ルーカス群と用手群で発見から除細動までの時間の中央値に差はなかった。胸骨圧迫のテンポはルーカス群が毎分112回なのに対して用手群は毎分125回であった。テンポが心肺蘇生ガイドラインに合致している割合はルーカス群が71%、用手群は40%であった。正確な深さを押せていたのはルーカス群が52%、用手群が36%。ハンドオフ時間の割合はルーカス15%,用手20%であった。筆者らは搬送時では機械を使うことによって質の高い胸骨圧迫を行うことができるとしている。

ヒトではマネキンのようにはいかない

アームにしてもルーカスにしても機械なのだから胸骨圧迫の深さとテンポと除圧は完璧だし、それを患者の胸にしっかりと取り付けさえすれば質の高い胸骨圧迫を患者に提供できて患者もみんな生き返りそうなものだが、そうはいかないのが不思議なところ。イギリスから、ルーカス2を使用した場合の生存率が出ている4)。筆者らが対象とした心肺停止症例は4471例。内訳はルーカスが用いられたのが1652例、用手が2819例である。心肺蘇生から30日後の生存率はルーカス群6.3%、用手群6.8%で差はなかった。生存者のうち神経学的後遺症の軽い症例の割合はスー貸す群の方が高かった。12ヶ月後の生存率はルーカス群で5%、用手群の生存率は6%であった5)。経済的評価ではルーカス群の方が用手群より社会的費用負担が高かった。

院内で使用した報告も紹介する。心臓カテーテル中に心肺停止となった患者に対してルーカスを使ったところ良好な結果が得られたというものである6)。患者は43名.男性が67%、平均年齢は58歳である。心停止となったあと、31名は圧迫器で、12名は用手で胸骨圧迫を受けている。自脈再開は機械群74%用手群42%であり、機械群31名のうち22名は心臓カテーテル手術を終了することができた。しかし30日後の生存率と30日後の生存退院率では機械群と用手群に差はなかった。筆者は良好であったと結論付けているが、30日後の成績を見ると、心拍が再開しても結局止まってしまった患者が多数いることになる。多数の患者でカテーテル手術を成功させたにもかかわらず、である。

楽にはなるが期待はできない

胸骨圧迫マシンは何度かこの連載で紹介して来た。ルーカスにしてもその前から出ているオートパルスにしても、患者の転帰を見れば使っても使わなくても変わりはない。だが救急業務で最も重労働である胸骨圧迫から隊員を開放してくれる、自分の代わりに文句も言わずに胸を押してくれる機械と考えればたいそう有り難い機械である。

文献
1)Am J Emerg Med 2017;35:96-100
2)Kardiol Pol 2016;74:1499-1504
3)West J Emerg Med 2017;18:437-445
4)Health Technol Assess 2017;21:1-176
5)Resuscitation 2017;117:1-7
6)Resuscitation 2017;115:56-60


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17.8.20/8:11 AM