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170820 緊急の気管挿管は危ない

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気管挿管ができる救急救命士は着実に増えていて、今年参加した神戸での救急隊員シンポジウムでも気管挿管した症例報告をいくつか聞くことができた。救急領域、特に心肺停止直後の挿管に関しては死亡率を高めることが明らかとなっている。今回は病院内の心停止について、成人と小児のデータが発表されたので報告したい。

成人の場合

成人1)、小児2)ともアメリカ心臓学会の蘇生ガイドライン委員会によるものである。院外での心停止患者に対する気管挿管の効果については多くの研究がなされているが、院内での研究は少ない。委員会では気管挿管を受けた院内心停止患者の生存退院率を調べて気管挿管の効果を見ることにした。
研究期間を2000年から2014年までとした。心停止から挿管に至るまでの時間を拾い、挿管していない患者と挿管のリスクをマッチさせることで経時的に挿管リスクを決定した。第一の評価点は生存退院率であり、第二のそれは心拍再開と神経学的機能評価である。

結果1)として、研究期間中の院内心停止患者数は668病院から108079例が集まった。平均年齢は69歳.42%が女性、22.4%が生存退院していた。66.3%は心停止後15分以内に気管挿管されていた。挿管されていない33.7%の患者は気管挿管患者とのマッチングが行われた。生存率は挿管あり16.3%に対して挿管なし19.4%であり、挿管なし群が有意に高かった。心拍再開率も挿管あり群57.8%, 挿管なし群59.3%と挿管なし群が高かった。神経学的後遺症のない、もしくは軽微な患者の割合は挿管あり群10.6%, 挿管なし群13.6%と挿管なし群が高かった。患者をサブグループに分けて比較した場合は、いかなる条件で比較を行っても挿管なし群のほうが挿管あり群より良好な結果であった。

気管挿管する時はするだけの理由があるはずで、逆に挿管しない時は手元に挿管道具がなかったのかも知れない。だが10万人以上のデータからは、挿管すること自体が死亡率を高めることを示していると考えるのが普通だろう。心停止後15分以内ならスタッフが慌てふためきながら蘇生をしている最中である。手術室と違い、慣れない場所で慣れない人が気管挿管を行うことがリスクとなることを示している。


小児の場合

小児も同じグループの仕事である2)。対象は18歳未満の院内心停止患者。研究期間は成人と同じ2000年から2014年までである。この15年間で2294例を集めた。小児なので成人より2桁少ない。平均年齢は生後7ヶ月であり、25%から75%の年齢分布は生後21日から4歳なので、小児というより新生児や乳幼児の研究である。2294例中挿管させたのが155例、全体の68%であった。生存率は挿管あり群36%に対して挿管なし群41%で、成人と同じく挿管なし群が高かった。ところが自脈再開率はともに68%で両群で差はなく、神経学的後遺症についてもないか軽微な患児の割合は挿管あり群19%なし群21%と差はなかった。生存率については患児をサブグループに分けた検討でも挿管あり群がなし群より生成期は悪かった。

小児は挿管により死亡率が高くなるが、自脈再開率や神経学的後遺症につていは挿管の有無は関連しなかった。脈は挿管のあるなしで同じ割合が戻るのに結局多く死んでしまうのだから、心臓以外の原因で死亡していることになる。気管挿管がもたらす合併症は肺炎、無気肺、気胸などがある。挿管のリスクは小児でも証明されたと考える。


人手の少ない時間は危険が多い

緊急の気管挿管が患者の命を縮めるのは、人も準備も整っていないところで侵襲的な手技を行うためであろう。人が大切なのは「夜と週末に事故が多い」とする論文3)でも伺うことができる。

論文では小児ICUで気管挿管に関連した事故がどの時間帯、どの曜日に発生しやすいか調べたものである。小児ICUでは以前から挿管をする人や解除をする人を原因とする事故が多いことが知られていた。筆者らは小児ICUの勤務者が少なくなる夜間や週末に事故が多発するだろうと考えた。20の小児ICUで2010年から2014年までに起こった気管挿管に関連する事故の発生頻度を調べたところ、日中より19時から翌朝7時前の夜間までが、また平日より土日が有意に高かった。データは日中16%夜19%で、日中8時間より夜間16時間の方が時間が長いから当たり前だ賭することも可能だが、平日6%週末7%に関しては週末は2日間なので週末の方が危険なのだろう。詳しく見ると、緊急挿管では夜間や週末の事故割合が多いが、予定されていた挿管では夜間や週末でも事故頻度は同じであった。


現場での気管挿管は危ない

3つの論文から言えることは、人数の少ない不慣れな場所で慌てて気管挿管を行うことは患者のためにならない、ということである。救急隊に置き換えると、現場での挿管は避けて救急車内で現場出発前に挿管せよ、となる。現場で挿管を決めれば格好は良いだろうがリスクも高いことを覚えておこう。

文献
1)JAMA 2017;317:494-506
2)JAMA 2016;316:1786-97
3)Crit Care Med 2015;43:2668-74


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17.8.20/7:41 AM