HTMLに纏めて下さいました粥川正彦氏(滝川消防)に感謝いたします

最新救急事情1999年10月号

「除細動のボタンは誰が押す?」

救急救命士の特定行為の中で、救命に直接つながるのが除細動である。下手なコンビチューブやラリンゲアルマスクは上手なバッグマスクにかなわないし、静脈確保も実際の効果は疑問である。

除細動は違う。心室頻拍VTも心室細動VFも一発で洞調律に引き戻す。今回は医師の指示を24時間確実にもらうための体制「遠軽(えんがる)方式」を紹介するとともに、地方の救命士が直面している問題を記す。さらにアメリカで広まりつつある、バイスタンダーによる除細動について報告する。

遠軽方式1) 我が消防本部は北海道の北東部、流氷が訪れるオホーツク海沿いに位置する6町1村から構成される広域消防組合である。救命士数も10名と道内の組合消防としては多く、うち1名は北海道でも唯一の「女性救命士」が勤務する消防として知られている。年間に取り扱う救急件数は、組合全体で約1,200件であり、そのうち所属消防署(遠軽町)には6名の救急士が配置され、3分の1に相当する約440件を扱う。

特定行為の開始については、地元の二次救急病院の協力を得て院内3ヶ所に心電図伝送の受信装置を設置して、平成10年4月よりパートタイム方式(診療時間帯である月〜金曜日の午後5時まで)で循環器科医師5名により対応して貰っている。しかし、CPA発生は残念ながら夜間や未明にも多発していることから、夜間における医師からの指示行為を確保するため、近隣の救命センターに指示行為を打診したところマンパワーの不足等の理由により受け入れられなかった。

そのような時、北海道防災消防課より「地元病院からの24時間指示体制が整うまでの間、札幌医大救急集中治療部で指示空白時間帯をカバーする」との朗報が舞い込んだ。指示行為に関しての打ち合わせや伝送装置の設置のため札幌医大に何度も足を運んだ。また地元の二次救急病院からもこのシステムに対しての快諾を得た。その結果、平成10年10月より医療圏を飛び越え260kmも離れた札医大の医師からの指示を受け傷病者を地元の二次救急病院へ搬送する遠隔フルタイム方式(遠軽方式)が構築されたのである。

さらなる課題1) しかしながら、問題もある。「救急は、場所を選ばず発生する!」

私の町遠軽町では、携帯電話のエリア外にも民家は存在するし、山奥にも道路はある。現在の救命士法では、医師からの指示なしでは特定行為を実施することはできない。このため、携帯電話エリア外での事故発生時に早期の特定行為を行うことは困難を極める。携帯電話が使えなければ衛生電話の活用方法もあるが、アクセス時のタイムラグや、走行中の急カーブにより救急車が急に方向を変えた場合、衛生追尾アンテナが追いつくのかなど、1分1秒を争う救急現場で本当に支障なく使えるのか、私には疑問が残る。

救命を待ち望む対象者(住民)は地方も都市も同じであるのに、地方の「救急」は、こうした「環境課題」から頭を悩ませなければならない。この課題は、私達の地域だけではなく日本全土の地方都市の多くの救命士が同様に抱えている大きな課題でもある。

電話エリア外での指示行為といったさらなる問題を解決するために、今後「特定行為」について、「三点行為」全てとは言わないが、ある程度の行為は救命士を責任と判断で実施できる法体制の見直しこそが、私をはじめ全国の多くの救命士が待ち望んでいる朗報に違いない。

救命率向上のカギはバイスタンダーによるCPRは勿論ではあるが救急隊を取り巻く環境改善にも眼を向ける必要があると私は思う。

バイスタンダーによる除細動 2) 意外なことに、救急隊による除細動の有無が心停止患者の転帰を改善するという明確な論文はない。除細動は短期的には心拍を再開させるが、長期生存は改善しないためである。ところが、除細動を行った患者を検討すると、意識消失から除細動までの時間が短いほど救命率は改善する。このことから、救急隊は除細動器を持つだけでは意味がなく、迅速に除細動をして初めて救命率が上昇することがわかる。

今注目されているのはバイスタンダーによる除細動である。コンピュータを内蔵し小型で持ち運びができる自動除細動器は、患者の心電図を解析し、VFであれば放電する。一般市民でも普通救命講習の一部として使い方を教わることにより除細動器の使用が許可される。空港やカジノで警察官が除細動を行うことを主に想定している。現在アメリカ心臓学会では、一般市民が除細動を行えるように活発に議会活動を行っている。法律施行により、バイスタンダーが4000人以上を、警察官が2万人以上を救うと試算されている。

除細動の前には必ず90秒のCPRを 3) アメリカ・シアトル市では、最初に到着した救命士がすぐ除細動するよう15年前からマニュアルを変更したが、生存率は逆に悪化してきた。除細動をする前にCPRを数分行うほうが転帰がいいという動物実験から、人間でも除細動の前に必ず90秒間CPRを行うことにした。その結果、生存率と神経学的転帰が向上した。特に覚知から現着まで4分以上かかった症例で顕著であった。90秒のCPRにより除細動に反応するための酸素とブドウ糖を心筋に補給できるためである。

日本では現着から除細動までは確実に90秒はかかるので、あまり参考にならないかな。でも、将来救命士独断で除細動ができるようになった時には役立つかも知れない。

結論 1)遠軽方式は24時間指示体制を作る上での有力な選択枝となる。
2)特定行為のある程度は救命士の判断で実施できるように法を見直す必要がある。
3)除細動前のCPRは心拍再開に有用である。

本稿では北海道・遠軽地区広域組合消防本部 中村清治 救急救命士の協力を得た。
引用文献
1)プレホスピタル・ケア 1999; 12(3): in press
2)Circulation 1998; 97():1315-20
3)JAMA 1999; 281(13): 1182-8


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