HTMLに纏めて下さいました粥川正彦氏(滝川消防)に感謝いたします

最新救急事情2000/08月号

動物に気を付けろ

犬にかまれて病院にかかる患者は後を絶たない。猫も病気を持っている。同じ動物でも牛や馬になると、その被害も交通事故なみになる。でも最も危ないのは人間かも知れない。 事例:北海道別海(べつかい)町1) 別海町は北海道の東部に位置し香川県とほぼ同じ面積を有する。人口約1万7500人に対し乳牛の数が約12万頭と、人より牛の数の方が多い。酪農家が自ら飼育している乳牛に襲われたり、または不慮の事故から受傷する事が年間の救急出動で数件発生しており、過去には牛に突かれたことによる外傷が原因で死亡した例もある。

54歳男性。牛舎の壁(コンクリートブロック製)と牛(体重約700kg)に体幹部を挟まれ受傷。自力歩行可能で自宅玄関まで移動している。8時50分出動。自力歩行可能との通報内容から、外傷セットのみの準備にとどめていた。9時12分現場到着(現場まで約25km)。傷病者は自宅玄関で腹部を押さえうずくまっており、腹部の痛みを訴えていた。外見観察上特に目立った外傷はないが、顔貌蒼白、表情は苦悶状態であり、通報時とは違い自力歩行困難な状態であった。

救急車内での傷病者の体位は、膝を折りたたんだ状態の腹臥位であり、腹部触診等の観察を行うため体位変換を行おうとしたが傷病者が激痛を訴えた。病院までの距離(約25km)を考慮し傷病者が一番楽な体位をとらせることとし、現状の体位で腹部の触診を行ったがブルンベルグ徴候、デファンスともに感じられなかった。9時38分病院到着し医師に引き継いだ。腹部CT画像上横隔膜下及び肝実質に低吸収領域を認め肝破裂と診断されたが、血管造影で明らかな動脈出血は認めず保存的療法とした。しかし、発熱炎症症状が強くエキノコックス症による肝膿瘍の診断で9日後肝膿瘍ドレナージ術を施行した。

雄牛は約1,000kgにも達するため交通事故と同様の外傷が発生しうる。また、大形動物による外傷はその動物を飼育する酪農家等に多く発生し、発生場所も畜舎等であるため発生環境を考慮し、外見上認識可能な創傷に対しては細菌感染予防のため生理食塩水により洗浄を行い、搬送中も清潔操作を心がけるとともに、病院収容時には傷口にどのような付着物があったか等、詳細について引き継ぐ必要がある。

馬による被害 乗馬で外傷を負った3歳から64歳の30人の治療成績では、18人は落馬し、12人は蹴られた。24人は頭部外傷、12人は脊柱損傷を認めた。6人は開頭術を、3人は椎弓固定術を受けた。5人が死亡し2人は四肢麻痺となった。80%はヘルメットをしておらず、10人の患者はただ馬の傍らにいただけで被害を受けていることから、馬に近づくときはヘルメットを着用すべきであるとしている2)。 犬と猫の危険性 犬は噛まれた傷が問題となるのに対して、猫は噛まれたことによる細菌感染が問題となる。ノルウェーからの報告3)によると、2年間でオスロ市区域で動物に噛まれた症例は1051例であり、男女は同数、小児は14%であった。噛んだ動物は犬76%、猫17%、馬2%。小児では80%が犬に噛まれている。犬のほうが重症度は高い。成人男性は犬に、成人女性は猫に、若い女性は馬に噛まれるのが多い。犬は小児では顔と手を、成人では手を噛む。猫は手を噛む。ほとんどの症例は軽傷で自然に治癒する。犬に噛まれたときの合併症としては、血管損傷が7%、感染が5%、骨折が4%、神経損傷が2%、腱断裂が1%であった4)。<

犬に顔面を噛まれた40例を検討した。年齢は2歳から76歳まで、平均は25歳。男女比は17:23。31例はそのまま縫合できたが、9例では他のところから皮膚筋肉を移植した。女性2例では感染のため移植組織が壊死し再形成術が必要となった5)。噛む犬種はジャーマンシェパード、ブルテリア、ブルーヒーラーズ、ドーベルマン、ロットウェーラーの順に高い6)。

細菌感染は11%であり、犬より猫のほうが頻度が高い7)。噛まれた後から細菌が検出される割合は犬50%、猫75%である。細菌は1カ所の傷から複数種類検出される8)。

ヒトも噛む アメリカでは、犬、猫に次ぎヒトに噛まれて救急外来を受診するものが多い9)。ヒトに噛まれた傷は長く感染やその他の合併症が起こる頻度が高い。手と他の部位では感染の頻度に違いはない10)。HIVウイルスは唾液にも含まれるため、感染の危険性はある。実際に感染した症例も報告されている9)。

喧嘩をしないこと。暴れる傷病者は大勢でねじ伏せること。注意深く事故を避けるしか身を守る方法はないようだ。

結論
1)大形動物による外傷は交通事故に匹敵する。
2)注意深く事故を避けるのが唯一の予防法である。

本稿執筆に当たっては根室北部消防事務組合別海(べつかい)消防署 山桑貴光 救急救命士の協力を得た。

引用文献
1) プレホスピタル・ケア 2000; 13: 印刷中
2) J Trauma 1997 ;43(1):97-9
3) Tidsskr Nor Laegeforen 1998 30;118(17):2614-7
4) Ann Emerg Med 1997 ;29(5):637-42
5) J R Soc Med 1998 ;91(8):414-6
6) Med J Aust 1997 4;167(3):129-32
7) Eur J Epidemiol 1998 ;14(5):483-90
8) N Engl J Med 1999 14;340(2):85-92
9) Am J Forensic Med Pathol 1999 ;20(3):232-9
10) J Am Acad Dermatol 1995 ;33(6):1019-29


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