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HTMLに纏めて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


月刊消防2001 2月号「最新救急事情」

最新救急事情

転院搬送の問題点

転院搬送は救急業務の中で大きな割合を占めている。重症患者を救急隊員だけで診なければならない場面も多い。

事例:北海道阿寒湖温泉

阿寒湖温泉には直近に診療所と、40キロメートル離れた本町には入院施設のある町立阿寒病院がある。2次、3次救急医療機関のある釧路市とは約80キロメートル離れている。平成11年度阿寒湖支署の全救急搬送件数のうち釧路市内への搬送は44%であった。
1)62歳男性。主訴は背部痛。降雪中で路面は荒れてでこぼこであった。16時10分、釧路市内の循環器専門病院への転院搬送要請。意識清明。脈拍66回、SpO2
99%。血圧・心電図は道路状況悪く振動騒音により測定不可。本人の一番楽な右側臥位を取らせるとともに、酸素投与、車内暖房と毛布による保温を行った。17時15分、傷病者が尿意を訴えたため車内にて尿瓶に排尿させた。17時36分嘔気をもよおすが嘔吐できず、何度も繰り返した。17時39分胸痛を訴え苦しそうに暴れだした。JCS10。17時40分病院到着。狭心症の診断で入院加療。覚知から病院到着まで1時間30分。
2)62歳男性。主訴は意識障害と痙攣発作。11時17分脳外科への転院搬送要請。診療所到着11時20分。傷病者は診療所ベットに背臥位で酸素吸入・点滴実施中であった。JCS30。医師及び看護婦に同乗を求めたが診療所が人手不足で同乗してもらうことはできなかった。JCS30、脈拍126回、血圧160/120mmHg,SpO2 91%。酸素投与実施。11時55分から頻回に痙攣発作を起こした。12時25分病院到着。痙攣重積発作で入院加療。覚知から病院到着まで1時間08分。
3)74歳男性。5時32分、家族より「父が居室で倒れ、呼びかけに反応がない」と出場要請。5時36分現場到着。傷病者は背臥位で倒れていた。傷病者の負担を考え直近の診療所を搬送先に選定した。JCS−20、脈拍54回/分、収縮期血圧120mHg、SpO2 89%。高濃度酸素投与し搬送開始する。5時47分診療所到着。医師より釧路市内の脳外科に転送を命じられる。6時00分転送開始。JCS−20、脈拍54回/分、SpO2 90%、7時00分病院到着。脳梗塞(左麻痺)の診断で入院加療。覚知から病院到着まで1時間28分。
先日、釧路市内の救急出動の帰署途中に観察体験訓練を実施した。分かったことは、10分おきにマンシェットを絞められることの不快感、長い時間指先に装着されたパルスオキシメーターの不快感、毛布により体動を抑制され意思表示がしずらいといったものであり、その精神的・肉体的な苦痛は搬送するわれわれが予想する以上のものであった。

搬送の現状
転院搬送について書かれたものは見つからなかったので、一般的な搬送について考察する。ケンタッキーでは人口千人当たり52人が搬送されているが、地域によって差がとても大きい。年齢構成を補正した値では地域の構成人口が高齢なほど搬送件数が高くなっている1)。人種では黒人が非ヒスパニック系白人の3倍を占めており、これは高齢者になっても同様であった2)。

搬送中の医療行為
アメリカでは訓練を受けたパラメディックには投薬が認められている。一般的な救急薬を救急車に搭載して使用頻度を比べたところ、喘息時の吸入薬アルブテノール、末梢循環改善剤50%デキストラン、冠血管拡張薬ニトログリセリンの順であり、それらだけで使用薬剤の68%を占めた。これらは使用頻度が高く投与も簡単で危険性が少ないために、すべての救急車に搭載することを著者らは勧めている3)。事例1ではニトログリセリンが、事例2ではブドウ糖とジアゼパムが、事例3ではデキストランが適応になる。特に事例1では対応が遅れると心筋梗塞になりかねず、横で見ていて冷や冷やだっただろうと同情する。
搬送時間が長いということは、それだけ医療過疎地であることを示している。救急事例も少ないため、日頃からの訓練が欠かせない。地方の救急隊員を対象に訓練方法を検討した結果では、教官が生徒に直接指導することは昔から行われているが継続が難しく、教官にも当たりはずれがある。電子メディア(ビデオ・インターネット会議を含む)を使った訓練は初期投資が必要で習得の評価が難しい。書物と電子メディアを併せて訓練に用いることで遠隔地であっても有効かつ高度な訓練が実施できるとしている4)。

日本では
できることは限られているし、救命士も全隊にいるわけではない。頼んでも医師は同乗してくれない。そんな状況で患者の容態を悪化させないようにすることは基本に立ち返るしかない。まずは時間を短くすること。救急車のスピードを上げるのではなく、無駄な時間をなくすことである。次には細心の注意の元での患者観察。揺れてうるさい救急車内では血圧計に頼るのではなく、触診での血管の張り具合で血圧を推測する技も必要であろうし、患者との会話一つが意識状態の変化を知る手がかりとなる。搬送時間短縮のためには、近年注目されているヘリコプター搬送やドクターカーの要請を視野に入れた搬送手段の選択もこれからは大切となる。

結論
1)転院搬送でも基本は変わらない。
2)ドクターカーやヘリコプターの選択も必要となる。

本稿執筆に当たっては 釧路西部消防組合阿寒湖支署 沼田一成・新川貴志 両救急隊員の協力を得た。

文献
1)Am J Emerg Med 2000;18(2):130-4
2)Prehospital Disaster Med 1999;14(4):232-5
3)Am J Emerg Med 1994;12(6):625-30
4)Prehosp Emerg Care 1999;3(3):231-8


オリジナル

釧路西部消防組合阿寒湖支署

沼田一成

新川貴志

 阿寒町の阿寒湖温泉は北海道の東部、阿寒国立公園内に位置し、まりも、丹頂鶴、温泉で有名な観光地であります。気候は、四季がはっきりしており、夏は気温30度以上、冬は氷点下30度以下になることもあるというように、年間の気温差は60度以上にもなります。

 阿寒湖温泉の医療事情は直近に診療所(内科、小児科)と、40キロメートル離れた本町には入院施設のある町立阿寒病院(内科、外科、小児科、整形外科、泌尿器科、眼科)があります。

 2次、3次救急医療機関のある釧路市とは約80キロメートル離れており、阿寒湖温泉から釧路市へ向かう国道240号は秋から春にかけて野生のエゾ鹿や北きつね、時には狸も車窓から見ることもできますが、この野生の動物と衝突する交通事故も少なくありません。

 平成11年度阿寒湖支署の全救急搬送件数のうち釧路市内への搬送は44%であった。

転院搬送 事例1

平成12年1月 天候、雪
道路状況 降雪中でまだ除雪はされておらず路面は荒れていた
覚知時刻 16時10分 男性62歳、釧路市内の医療機関へ転院搬送要請
診療所到着 16時12分 医師から循環器の専門院へ搬送願うとの要請
車内収容 主訴は背部に疼痛
搬送開始 16時20分 搬送時間が長時間になることが予想されるため本人の一番楽な体位を取らせた、右側臥位、意識清明、状況聴取すると、連日の除雪作業で筋肉痛かと思い受診した。
観察 16時25分 脈拍66回SPO2 99% 意識清明、 血圧、心電図は道路状況悪く振動騒音により測定不可、橈骨動脈で脈拍触知
処置 搬送中酸素投与、毛布で保温、車内暖房最高
16時35分 脈拍60回 SPO2 99%その他変化なし
17時15分 傷病者尿意を訴え、車内にて尿瓶に排尿させた
17時36分 嘔気をもよおすが、嘔吐できず、何度も繰り返す
17時39分 胸痛を主訴、JCS10、かなり苦しそうに暴れだす
病院到着 17時40分 病院到着(釧路市内)
診断名 狭心症 程度 中等症
転帰 数十日後退院 職場に復帰している
覚知から病院到着まで1時間30分を要した

転院搬送 事例2
平成12年10月 天候 晴れ
覚知時刻 11時17分 脳外科への転院搬送要請

病院選定は、診療所医師が釧路市内の脳外科を選定済みであった

診療所到着 11時20分 傷病者は診療所ベットに背臥位で酸素吸入、点滴実施中であった

既往は糖尿病、意識障害を起こしており、痙攣を 繰り返す状態.JCS30

医師及び看護婦に同乗を求めたが診療所が人手不足で同乗してもらうことはできなかった

車内収容
搬送開始 11時26分 酸素投与し搬送
観察 11時28分 脈拍126回、血圧160-120 SPO2 91%, JCS30
11時35分 脈拍120回、血圧153-110 SPO2 97%, JCS30
11時55分 痙攣、約1分間継続
11時56分 脈拍100回、血圧142-108 SPO2 97%
12時02分 痙攣し、1分くらい継続し、その数分後また数回、痙攣した
病院到着 12時25分 病院到着(釧路市内)
診断名 痙攣重責発作 傷病程度 中等症
覚知から病院到着まで1時間08分を要した


急病(転送) 事例3
平成12年8月 天候、晴れ
覚知時刻 5時32分 覚知内容、家族より「父が居室で倒れ、呼びかけに反応が無い」
現場到着 5時36分 74歳男性、背臥位で倒れており、JCS-20、脈拍54回/分(橈骨動脈)

座っている状態から倒れた模様で、このような症状は初めてと関係者から聴取。

泌尿器系の疾患で釧路市内の病院に通院中との事であったが釧路市内の病院まで約70kmあり、1時間以上要するため傷病者の負担を考慮し、直近の診療所を搬送先に選定した。

車内収容 JCS-20変わらず、脈拍54回/分、収縮期血圧120、SPO2 89%

脳疾患を疑い高濃度酸素投与し、搬送開始する。

診療所到着 5時47分 医師より脳疾患の疑いがあるため、専門的治療を要すると診断を受け、脳外科の診療が可能で掛かり付けである釧路市内の病院に転送となる。
転送開始 6時00分 JCS-20、脈拍54回/分、SPO2 90%、高濃度酸素投与継続し搬送開始した
6時45分 JCS-3に改善
病院到着 7時00分 病院到着(釧路市内)
診断名 脳梗塞(左麻痺) 傷病程度 重症
覚知から病院到着まで1時間28分を要した
覚知から帰署まで2時間56分を要した
走行距離153km

転院搬送(転送を含む)の問題点とその方策について

 先日、釧路市内の救急出動の帰署途中に観察訓練を含め、実際に1時間以上ストレッチャーに背臥位で毛布による2重保温、酸素マスク、モニター装着し10分おきに血圧測定などの体験訓練を実施した。10分おきにマンシェットを絞められることの不快感、長い時間指先に装着されたパルスオキシメーターの不快感、毛布により体動を抑制され意思表示がしずらい、狭い救急車内で、揺れや振動に対する緊張などを1時間以上に渡り体験したところ、精神的、肉体的な負担は予想以上のものであった。また、搬送中、夏は暑く冬は寒い救急車にはそれなりの装備をしているが、搬送時間に比例して傷病者の負担も増大するものと推測される。

 搬送時間が長いということは医療行為を初めて受ける時間までが長いということであり、場合によっては、意識レベルの低下や心停止、呼吸の停止が搬送中に発生する確率も高い。

 救急隊員は傷病者の痛み苦しみを少しでも軽減しようと、処置をする。しかし車内では隊員主体の看護になる傾向は否定できない。プレホスピタル・ケアの中心的担い手である救急隊員の看護に対する姿勢を見直すことが必要だと思います。

 このようなことから、我々救急隊員は十分なインフォームド・コンセントのもとで応急手当をより確実にそして効果のある方法で実施しなければならない。

 そのためには、特定三行為を実施できる救急救命士の乗車は必要不可欠であり、必要資機材を積載できる高規格救急車の配備も必要である。

 また、観察については傷病者にとって過度な負担にならないよう方法及びタイミングに注意することが大切であり、全てを機器にたよるのではなく五感を使っての観察も重要だと思います。

 搬送時間を縮めることは、交通安全上不可能であるが一刻も早く搬送する必要がある傷病者と、それとは反対に振動などのストレスが傷病者の状態を悪化させる傷病者が、あるので、搬送には十分に神経を使います。道東では、道路に野生動物が飛び出すことは、珍しくないのでなおさらです。

 搬送時間短縮のためには、近年注目されているヘリコプター搬送やドクターヘリの要請を視野に入れた搬送手段の選択もこれからは大切ではないかと思います。搬送ばかりでなく、山岳部での事故などでは車内収容までにかなりの長時間を要する場合も多く、ヘリコプターで救出、収容しそのまま医療機関まで搬送する、その場から応急手当、さらには医療を開始することも考えるべきではないかと思います。

 今後、このような救急医療体制が確立されれば、より充実した救急業務、救急医療が可能と思われ、それが傷病者に与える負担の軽減につながり、良好な予後になると思われる。
これらのことから、地方の救急隊員ほど特定三行為を実施できる救急救命士が必要であり、傷病者のストレス軽減のために高規格救急車での対応が必要と考えます。

 本町の病院では札幌医科大学とコンピューターや電話回線を使用して、患者のデータをやり取りして治療に反映させるシステムを構築したと聞いています。これらのシステムを何らかの形で救急活動に反映させることができれば傷病者の長時間搬送による負担の軽減をすることができる可能性もあるのではないかと考えます。

 以前、外国でのロボットを使用しての外科的手術がテレビで放映されていました。これは将来的には通信設備を使用して遠隔地から操作し、地方で高度な医療を受けることが可能になるかも知れないと放送していました。このような夢のようなことが実現すれば、地方でも設備さえ整えることさえできれば、遠隔地の病院まで搬送する必要のない時代もくるのではないかと思います

 北海道は面積が広く、専門的又は高度な医療を受けられる医療機関は地方都市に集中している場合が多く、地方にはまだ少ないのが現状ではないでしょうか。地方で専門的治療や高度な医療を必要とする場合、どうしても遠隔地の病院まで搬送する必要があり搬送時間が長くなる傾向にあり、さらに冬季は天候や道路状況により、一層搬送時間が長くなる場合もあります。これらの問題は北海道内の多くの地方の町村において共通していると思います。

 専門的、高度な医療を必要とし地方から地方都市の病院へ転院搬送及び転送となる傷病者は特に軽症ではないことも忘れてはならない。

 最後に、阿寒湖支署は現在2B型救急車1台配備され、平成13年度から年次計画をもって、救急救命士の養成に着手、救急救命士の確保がなされ、更に救急車の更新時期には高規格救急車の導入を計画に位置づけをしている。

結論

「転院(医)搬送の問題点」

1、 専門的治療の可能な医療機関への長時間搬送
2、 傷病者の精神的、肉体的な負担の増大
3、 医療開始時間の遅延
4、第2救急出動の初動体制の遅れ

方策

1、的確な判断による病院選定及び搬送手段の選択
2、傷病者の立場にたったインフォームドコンセント、高規格救急車の導入
3、救急救命士の乗車、医師の同乗による搬送
4、予備車の配備と人員の確保


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06.10.8/4:51 PM