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040405顔が分かる仲の救急活動

作:北のまんぞう

 いつもの勤務中「こないだ○○のばあちゃん運んだってか」、119受信中に「○○商店の横の○○さんかい?どしたの?」小さな町ではほとんどの顔が分かってしまうというような、なんだかノンビリとした地域性があります。そんな中でしばしば付近の方々に協力お願いする現場もあります。

 ちょっと前にこんな事がありました。

 「漁船で操業中に受傷、なんだか体が動かない。」
これはもしや・・という思いで現場到着、やっぱり巻き込み事故だ。操業中にあやまってロープに巻かれて、運良く外れたのち漁船甲板上に倒れていました(お腹から下肢の運動知覚麻痺、意識清明)。

 そこは幅が約60cmと強烈に狭く、一方が海、一方は船室の壁、手も足も入れることが出来ない。無論バックボードも差し込むことが出来ない。救命胴衣、ゴムカッパを切断し双方の切断部をつかんで広い甲板へ移すこととなりました。救急隊だけではその保持は不安があります。そこで関係者へ協力のお願いです。
「ほとんどの顔が分かってしまう」
だって、その関係者は漁業を営む消防団員です。みんな顔なじみです。いつもは馬鹿話をするような関係です。

 「丸太みたくして、背骨真っ直ぐしたままとうさんの体ば動かすから、ちょっと手伝って!」
まってましたと言わんばかりに
「おおっ、分かった、どやって、やるってよ?」
うんぬんかんぬんと説明をしながら
「頭側に10cm移動するど・・おい!ちょっと待てや!こっち端っこ引っかかってるって・・・よし!いくどー、いち、にの、さん!」
漁船の端に足掛け、もう一方を船室の壁に押し当てて、患者をまたぐような格好で救急隊とカッパを着た漁師が入り乱れての活動です。足を滑らせると海へ落ちてしまいます。なんだか浜特有のガヤガヤした現場です。

 浜のかあさん達は心配そうにエプロンの端を握って見ています。

 さてさて、なんとか広い甲板へ移動完了。やっと患者を観察できます。がっ、下着に肌着にトレーナーにジャージ、防寒ジャンパー、ゴムガッパ、救命胴衣・・超厚着です。観察どころかボード固定もままならない。そして協力者達はオレンジ色の平たい板を見て「ポカン」としています。余計に不安定な固定になってしまいます。

 「今からその板に固定するから」
その言葉に漁師達は我先に患者に手をかけようとします。
「ちょっ、まてまて、先に服脱がすから、さっき言ったように丸太みたくして・・・」
ピンときた漁師達は
「おおっ、分かった、どやって、やんのよ?」
いつもは荒々しく声を上げる漁師達の真剣な眼差し。ログロールを幾度か行い厚着を除去(大変だった〜)、無事に観察、ボード固定することが出来ました。

 いつもの外傷プログラムに沿った訓練では考えがつかない現場でした。それは地域特殊性のある受傷機転、狭隘、横が海、厚着などの活動の困難性です。しかし、「力を貸して」の一声でその場に居合わせた関係者がチームと化す、そのことで難しさを克服できた症例でした。小さな町の顔見知り、というよりも大きい都市部であっても、「力を貸して」の一声で目的がひとつになるんでしょうね。

 今、その患者さんはリハビリを頑張っていると聞きます。もちろん救急隊はもとより協力者であり消防団員でもある同じ漁師仲間も早い回復を願っています。そしてまた「漁師の○○さん運んだってか?」なんて会話が署の中で行き交っているのです。


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08.3.6/10:17 PM