040703独歩で受診した心筋梗塞患者の転帰

作:takurin

『救急外来』・・・・。ここでは、毎日のようにいろいろなドラマに遭遇します。悲しく辛い出来事。感動。感激するような出来事。などなど・・・。

 冬季に多い急性心筋梗塞(AMI)患者の2事例をご紹介したいと思います。

事例1  お水を飲ませてあげたかった患者さんの事例

 当院の救急外来における急性心筋梗塞患者は救急車での搬送ばかりでなく、独歩で来る方も多いのが特徴です。少し前ですが70代の男性が夜間に外来を受診、自覚症状は『吐き気と胸部の不快感』でした。遠方の仕事場から車の中で吐きながら冬道を5時間以上かけて運転し、自宅近くの当院に着きました。

 心電図を見てびっくり、異常なST上昇。完璧なAMIです。すぐさま治療です。本人は胸痛に疎く、また病識も今ひとつ、奥さんの深刻さとは裏腹に本人は程度の重さを把握できないようでした。

 検査前の処置中も『水飲みたい』を連呼していました。『治療が終わるまで我慢してね』そう答えていた私です。血管造影室へは20分弱とかなりの短時間での入室でした。ところが・・・・治療も後もう少しというところでの急変。突然の心拍出量の低下。救命・蘇生は及ばず、患者さんは二度と奥さんと会話する事はありませんでした。心筋梗塞後の再還流による心破裂という悲惨な結果でした。その場に居た私も『何が起こった?どうして?』いままで文句言いながら水を欲しがっていたじゃない。湿ガーゼで我慢していた患者さんが・・・・・まさか帰らぬ人になるなんて。お水を飲みたかっただろうな。そんな事を考えていた自分がいました。5時間以上もの道のりを運転しつづけて、治療までたどり着いたのに。廊下で待っている家族の気持ちを考えると、なんと言っていいのか?掛ける言葉も見つからない私でした。

『心筋梗塞』に対しては、いつも最悪の状況を予測しつつ関わっている私ですが、今回は予測以上に辛い結果でした。心筋梗塞は本当に恐ろしいと・・再認識した私でした。解剖の結果、心筋がかなり薄くなっていて、防ぎきれない事だったとの事でしたが、感情的には助かって欲しかったと滅入ってしまう事例でした。

事例2  受付でCPA?

 看護師が何気なく廊下を歩いていたところ、受付中の男性が突然後方にいびきをかいてばったりと倒れました。受付は救急外来の前。驚いた看護師がすぐにストレッチャーで初療室へ。日勤と夜勤の合間の時間、人数は充分確保できました。『急に受付で倒れました』の大声にみんな一斉に集まりました。見るからにショックであり、CPA? モニター上心室頻拍確認、すぐさま除細動連続3回で正常心電図波形が出てきました!呼名にしっかりとした反応も出てきました。本人はもちろん今の事は全く覚えていず『どうしたのだ?あれ?夢見ていた』などと言っています。搬入から約30分での血管造影室入室。結果は左冠動脈主幹部のAMI。

 数日前から胸が苦しく、今日はいよいよ受診しないとまずいのではないか?と思うほどだったようで、会社を早目に退社し近医に向かったのですがここが既に診療を終了しており、妻に電話で相談し、当院の受診を決めました。妻には『何だかとても辛い、病院までたどり着けないかもしれない』と話していたそうです。

 あと数分遅かったら、運転中に大惨事になっていた可能性もあったし、そうなると救命も難しかったかもしれません。本当に、間に合ってよかった。何の後遺症もなく、社会復帰できた症例でした。彼の運も多大にあったでしょうが、チームワークと迅速な対応、素晴らしい転帰、奥さんの心配と安堵の涙・・・に感動していたのはきっと、私だけではなかったはず。歩いてくる患者さん。必ずしも軽症ではないということはいつも念頭においていますが、これからもより一層その思いを新たに頑張らなくては、と感じるのでした。


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