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外傷性ショックって、何!?

作:山イルカ


100417還暦のロックスター セミナーを斬る 其の二 セミナーを切る 其の一 「S・A・H」 初夏の風 星になれたら 外傷性ショックって、何!? 


 若い頃の苦い思い出を紹介します。

 もう、15年程前になります。私は消防士になってまだ2、3年の駆け出し当時の救急I課程を取得して間もなくでした。
 3月だというのに、前日の雨が雪となり、そして夜中には道路に大きな轍ができ、路面はアイスバーンになるような寒い日でした。いまだに救急活動に自信のなかった私は、「今日は寒いなぁ。事故、なけりゃいいなぁ・・・」と情けない呪文を唱えながら仮眠に入りました。

 しかし、消防はそんなに甘くはありません。時計が夜中2時をまわった頃、「大型トレーラーと、乗用車の衝突事故。負傷者多数」との出動指令が入りました。
 現場は、普段から大型車の往来が多い国道で、夜中とはいえ交通量はさほど減りません。いやな予感がしました。
 

 行ってみると、案の定事故車両が道路を塞ぎ、テールランプの行列が見えてきました。おまけに折からの風雪は激しさを増し、負傷者の確認さえもままならない状態でした。
 後着の救助隊と警察官数名が到着し、ようやく事故の概要が見えてきます。衝突した乗用車はワゴン車で、負傷者はワゴン車に乗車していた成人男女5人。うち2名はすでにCPAで、残りの3名もそれぞれ重症です。今だったら、応援隊を呼んで、トリアージを行い、CPAの2名を後回しにして、生存の可能性のある3名から救出したでしょうが、当時は、自分も含め消防自体にそんな知識もなく、すぐに車外に出す事ができたCPAの2名を、まず消防車に収容しました。
 次いで顔面からの出血と大腿部の変形著しい男性と、外傷のない女性を相次いで救急車に収容し、残り1名は救助隊へ引き継ぎ、病院へと向かいました。

 処置といっても何をしていいのか解らず、おまけにCPA患者を他車で搬送しているため、救急車は2名乗車になり、処置室にはボーゼンとする私一人。女性の「苦しい・・」「助けて・・」という声にも、大腿の変形と鼻出血著しい男性に掛かりっきりで、病院に着くまでの約20分間何もする事ができなかったのです。 まさに、見た目の派手な外傷に囚われの身・・・。私の頭の中での優先順位は、完全に男性でした。

 そして、翌日の新聞で、女性死亡の事実を知ります。死因は「外傷性ショック」でした。
 「外傷性ショックって、何!?出血してなかったのに!?」愕然としました。大した知識はなくとも、酸素投与くらいはできたはずですし、なにより「助けて・・・」という声が耳から離れません。

 その後、救急に没頭した私は、「ショック患者は早期の処置で救える可能性がある」という事を知り、自ら「現在の搬送スタイルでは助けられない」と考えるようになりました。

 今考えれば、あの頃の「助かったはずなのに」という気持ちが、救急を志す糧になったのでしょう。そして今、PTD(防ぎえた死)撲滅のため、JPTECインストラクターとして活動しているのにも、少なからず影響があると思います。

 小さな当消防署も、高エネルギー事故が予想される通報には、「バックボードだな」「負傷者の数は?」「ドクターヘリ呼ぶべ!」などとどこからともなく聞こえるようになりました。

 平成15年、交通事故死亡者数は8000人を切りました。警察の取り締まりの強化や、メーカーの努力による車両構造の向上など様々な要因があるのでしょう。しかし、私は救急隊員や医療関係者の意識変化も、そのひとつだと信じています。あの苦い経験を、忘れる事はないのです。


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10.4.17/12:46 PM