「初めて」と「効果」

作: はさみ

 とある日の勤務中、「国道上にて土止め用の壁に乗用車が衝突し男性1名が脱出不能」との指令により私は、救急車の隊員として出場しました。その国道は、海沿いで見通し良好、ほぼ直線の道路です。逆に言うと交通事故が発生すると大事故が多く、外傷初療で言うところの「Load & Go」を考慮しなければならない場所です。
 現場に到着すると案の定、車両は土止め用のコンクリート製の壁に正面衝突しており、車両の前部は大破。男性1名が車両に閉じ込められ、下腿部は床とペダル、大腿部は座席とダッシュボードに挟まれていました。

 観察したところ、結果はCPA。
 「え、外傷CPA?」一瞬自分の判断を疑いましたが、間違いありません。

 私はこの時まで外傷のCPAを体験したことはなく、今症例はまさに「初めて」の事案でした。戸惑いながらも上半身の固定処置をし、CPRを開始。しかし、どうしても座ったままの傷病者に対し換気が上手くいきません。

 ちょうどこの事案の1年前に受講した外傷初療プログラムの中で、講師の1人が見せてくれた、座ったままの気管挿管を思い出し「この状況ではやるしかない」と判断し実施することを決めました。しかし、隊員の人数が限られているためその間のCPRが手薄になってしまいます。現場での特定行為は様々な副作用がつきまとうものですが改めてその重大さを思い知らされました。

 でも、そんな悠長なことは言っていられません、こんな時こそ付近住民に協力してもらおう・・・と、またまた外傷初療プログラムの講義を思い出した私は思いきって「心臓マッサージやったことある人いませんか!?」と一抹の不安を覚えながら叫びました。しかし、みんな顔を見合わせるだけで、一瞬、その場が静まりかえってしまうほどでした。

 「わー、やっぱり誰もいないか・・・」と諦めかけたとき、1人の青年が手を挙げて進み出て来るではありませんか。見ると私達が実施した「普通救命講習」の受講者で、「こんな時に効果を発揮するなんて、やっていて良かった」と思わず叫びたくなるほどでした。すぐに心臓マッサージを交代してもらい、救命センターの医師に特定行為の指示を受け、2つ目の「初めて」となる座ったままの特定行為を実施しました。結果は成功。換気は良好で胸部の挙上も確認できました。

 そんな時、通信員の同僚から「救助に時間要するのであれば医師要請しますか?」との無線。この時の通信員も外傷初療プログラムを一緒に受講した同僚でした。同じ現場を想像し、同じ様に外傷から傷病者を救うことを考えた結果、意志がリンクしたのだと思います。しかし、私の所属では医師要請のシステムは整っておらず、近隣の救命センターでもドクターカーはもちろんのこと医師の現場活動を実施していない地域です。私自身も救命センター医師との面識は何かの折りに雑談した程度でした。

 「医師要請なんて、したことないのに・・・」と思いながら、救助隊長に確認したところ「救出にはもう少し時間がかかる」と言われ、隊長の許可を得て当署「初めて」となる医師要請を決断しました。

 他の救急隊に医師搬送してもらい、医師が現場に到着するのとほぼ同時に救助完了、搬送となりました。車内でも医師による高度な救命処置が施されましたが、残念ながらお亡くなりになったそうです。

 今回の症例は「初めて」と「効果」の凝縮された事案だったと思います。
 初めての外傷CPA、初めての変わった形での特定行為、それに伴う普通救命講習の効果、外傷初療プログラム受講の効果、そして初めての医師要請。
いずれをとっても、各々が外に出て学び吸収した事の結果だと思います。これからは住民も消防職員も積極的に外部に出て各々の立場から学び、吸収し、それらを地域性に照らし合わせ使える「技」にすることが大切なのだと思います。

 「普通救命講習」や「外傷初療」これらは小さいことかも知れませんが、底辺は広いのです。救命という大きな石を最終的に積み上げたいのなら、小さい底辺の石を敷き詰めることが第1歩なのだと感じました。


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