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星になれたら

作:山イルカ


100417還暦のロックスター セミナーを斬る 其の二 セミナーを切る 其の一 「S・A・H」 初夏の風 星になれたら 外傷性ショックって、何!? 


 子供は天使です。どんなに辛い事や悲しい事も、その笑顔で吹き飛ぶし、ふとした仕草に、例えようのない幸せを感じたりもします。なので、小児の救急事案には、いつも心が痛くなるのです。

 ある日の夕方、119番通報がありました。1歳にも満たない男の子で、痙攣を起こしたらしく、母親は慌てていました。「落ち着いて下さい。すぐに向かいますよ。」通信員のその声を最後まで聞かずに、我々は出場しました。

 家に着くと、男の子を抱いた母親が救急車に乗ってきました。
 男の子の意識ははっきりしており、呼吸・循環も異常ありません。体温も37℃で、「いつもの熱性痙攣じゃないんだな。」と思いつつ、小児医療施設のある総合病院へ。特に搬送中変わりもなく、いつもの救急活動が終わりました。

 数ヶ月後、同じ母親から、「子供がグッタリして起きない。」という内容の119番通報が来ました。到着後、車内収容してみると、意識レベルはIII桁で、呼吸・脈拍ともに弱く早い状態でした。すぐさまリザーバー付き酸素マスクで酸素投与。「前回の搬送の際はどうでしたか?」「お医者さんは何ともないって・・・。」「そうですか、専門の治療が必要のようです。そちらに向かいます。」

 注意深く観察しながら搬送し、医師、看護師らに引き継いだその時、男の子の心臓が止まりました。「CPR!CPR!」処置室が騒然となり、スタッフが慌ただしく行き交います。
 数分後、モニターに心臓マッサージとは異なる波形が出始め、徐々にはっきりとした基線を描きます。脈もとれるようです。「よかった・・・。」しかし、呼吸が戻りません。ドクターに人工呼吸を施されたまま、NICUへと運ばれていきました。
 我々も帰署し、CPAの原因をあれこれ詮索しますが、特定になど到るわけもなく、重い一日が終わりました。

 数日後、病院から連絡を受けた我々は、頭の上にコンクリート片を落とされたような衝撃を受けます。CPAの原因は脳出血で、なんと内因性ではなく外傷だというのです。他の所見を診ても、外傷を受けた事実があり、しかも、原因は父親の虐待らしいと言うではないですか。残念ながら男の子は植物状態で、救命の可能性は少ないとの事です。そう言えば、現場で一度も父親の顔を見ていません・・・。
 後悔しました。初回の搬送時にもっと注意すれば、外傷の痕跡があったのかも知れません。「救急隊員しか知り得ない情報がある。それを早期に医師に伝えるのが虐待児症候群の救命につながる。」と習ったのを思い出しまし、さらに自己嫌悪に陥りました。
そして、腹が立ちました。乳幼児です、守らなくてはいけない時期なのに。

 虐待のニュースの際、必ず誘因が推測されます。長引く不況や両親の未熟性、どれもこれも言い訳です。社会的犯罪と片づける訳にはいきません。必要なら行政がもっと介入すべきで、すでに対策を行っていても、功を奏していないのなら、考え直すべきです。
 立法が可能なら、旧約聖書「レビ記」に則り、虐待加害者には「目には目を、歯には歯を」を適用したいぐらいです。情状酌量の余地などありません。何より無限に広がる可能性を奪ったのですから・・・。
 我々、救急隊員に人を裁く権限は与えられていません。加害者に反省を促す事も、消えかけた小さな炎に鞴で風を送り、再び力強く燃えさせる事もできません。
 救急隊員は常に死と向き合う仕事ですので、センチメンタルに浸るつもりはありませんが、今日くらいはあの子の事を思い、祈ります。

 「せめて星になれたら。」と・・・。


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