OPSホーム>救急隊員日誌目次>060201胆石だった不整脈?

胆石だった不整脈?

作:ゆうたん

 僕は心電図が大の苦手です。それを克服しようと、書店で勉強の為の本を探しても分厚く見ただけで嫌気が差すような本ばかりです。波形ばかり見ていると頭痛がしそうになり、自分の心臓がどうにかなってしまいそうにもなります。
 しかし、とある心電図に関するセミナーで、苦手意識を少しだけ克服する事が出来ました。そのセミナーでは、波形等を学ぶのは最後の方で、まずは心電図の意味を基礎から学びました。何故心臓の動きが電気的な信号としてモニター上に現れるのかということからスタートします。そして波形から心疾患の見分け方を覚えるのではなく、心疾患は心臓がどのような状態になっていて、それがどのような信号としてモニター上に現れるのかを理解し、それから波形を覚えていきます。
 一般的な心電図の学習といえば、まず波形を見て「これはどんな疾患なのか?」等と覚えていく方法が主だと思いますが、逆から覚えると意外と分かりやすく、複雑な波形を見ても混乱する事が少ないです。多少は心電図を読めるようになったかなと思った矢先の出来事でした。

 深夜1時過ぎの119番通報。
 70代男性、胸が苦しいので救急車をお願いしますという妻からの要請でした。
 現場到着、傷病者は強く胸の痛みと苦しみを訴えていました。直ちにバイタル測定し、車内収容。痛みと苦しさからか呼吸が多少速いほかは、バイタル等に顕著な異常はみられないものの、傷病者の訴えと脈拍触診で不整脈を強く疑いました。
 車内収容後、モニター装着。明らかに異常なST上昇等は見られないものの、波形はバラバラ、HRも80?120超を行ったり来たり。それだけ脈拍が変動しているので、当然脈拍触診でも不整が出ます。
 出てくる波形はいわゆる教科書には一切載っていないような複雑な波形です。「P波は?」「RR間隔は?」「QTの長さは?」「STは?」見れば見るほど複雑怪奇。自分の知識を総動員しますが、該当する疾患が見当たりません。しかし現れている波形は、明らかに正常なものとは異なります。
 これもAMIの一つなのだろうかと考え、搬送に30分以上かかりますが、隣の隣町の循環器科がある総合病院を選定。座位にて搬送中も胸の痛みや苦しさ、吐き気を訴えます。念の為と考え腹部を触診しますが、痛みなどは訴えません。
 搬送中の波形も、時々明らかな筋電図が出るものの、やはり複雑怪奇な見たこともないような波形が出ています。車の揺れや、苦しがる事による筋電図を考慮しても、やはり不整脈を疑わざるを得ません。
HRも120を超える事が多くなってきます。「心停止にならないよな。」等と思いつつCPRボードを用意し、機関員に急ぐように命じます。
 病院到着し直ちにモニター装着。やはり同じような複雑な波形が出現、医師による所見もAMIです。「すぐ手術室に入る準備して。」等と医師の指示が飛んでいます。
 到着したら、この波形の読み方を教わろうと考えていましたが、緊急処置室はそれどころではない状態になりました。
 やはりあの波形はAMIで間違いなかったのか、まだまだ勉強不足だなと思いつつ、帰りの車内、「途中でCPAにならなくてよかったなぁ。」等と話をしながら帰署。
 後日病院から来た収容書を見て驚きました。そこに書かれていた傷病名はなんと「胆石」です。胸痛は胆石が原因だったのです。
 痛みをこらえる余り、HRが120を超えたのか?じっと痛みに耐えていたようで体は痛みで小刻みに震え見たこともないような波形が現れたのか?
 赤面する思いでしたが、「胆石」の文字を見ながら、「まぁ医師もAMIと間違った位だから、俺たちも間違うよなぁ」等とは冗談交じりで恥ずかしさを隠し反省。
 自分の未熟さを痛感した事例でした。


OPSホーム>救急隊員日誌目次>060201胆石だった不整脈?


http://ops.umin.ac.jp/