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060823相手の立場になって・・・

作)ヤッターマン

 長年、救急隊員として仕事をしていると、プロとしての直感が無意識に働き「軽症」事案を瞬時に判別してしまうことが往々にしてあります。もちろん、バイタルサインをしっかり取り、五感を駆使した観察を実施した結果として、重症度も緊急度もそれほどではないということを判断するわけですが。当然のことですが、傷病程度が軽かろうと重かろうと、その対応に差があってはいけないですよね。もっとも大切なことは、常に相手の立場になって活動すること、言い換えれば相手のニーズをつかむことだと出動するたびに感じているところです。

 そんなある日、とても慌てた様子で119番通報をしてきた女性の救急事案に出動しました。119番通報を受けたのも私で、隊長として現場に赴いたのも私でした。通報内容は「子どもにミルクを飲ませていたら、急に少し吐いて、そのあと息をしていないみたいなんです。」というものでした。通報してきた方の切迫して、混乱した声の調子から、私はすぐに最悪の事態を想定しました。誤嚥してしまったか?窒息しているかも?CPA状態では!しかも乳児だぞ!署からそれほど遠くない要請先の家へと向かう救急車内で、必要資機材を直ちに準備しながら、現場での行動を頭の中でシミュレーションしていました。

 救急車は、私にほんの少しの間も与えることなく、119番に助けを求めてきた家の前へと到着しました。そこには、赤ちゃんを抱いた女性と、その傍らに付き添うもう一人の女性が救急車の到着を待ちきれないといった様子で立っていました。助手席から駆け下りた私は、家族から状況を聴取しながら赤ちゃんを抱き受け、すぐに車内へと乗り込み観察を開始しました。母親を、そしてその家族を大いに慌てさせたその赤ちゃんは、私の腕の中でスヤスヤと寝息を立てていたのでした。不安げな表情で私と赤ちゃんの状態を見守っていた家族の方に、私は今の状態を知らせるとともに、とりあえず差し迫った状況ではないので心配しなくても大丈夫ですよ、と伝えました。サイレンが鳴り響く救急車の狭い空間の中に、ほっと安堵した空気が流れました。

 「初めてのことで、すっかり慌ててしまって・・・やっと安心できました。本当にありがとうございました。」

 付き添って来られた女性の顔に、初めて笑顔が浮かんだ瞬間でした。ようやく落ち着きを取り戻したその女性に、私はことの経過を詳しく尋ねてみました。お話しを伺っていく中で、通報されてきた時の状況やその時のお気持ちがとてもよく伝わってきました。「大事に至らなくて、本当に良かったですね。」小さな命を腕に抱きながら、私は心から家族の方々の思いに共感をし、救急隊員として果たすべき責務について、その思いを新たにしたのでした。


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06.10.31/11:13 AM