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060824理想と現実・・・

作)ヤットデタマン

 「傷病者本位の救急活動を実践していきたい」
 私はいつも、そう考えていました。最近、よく耳にする言葉に“顧客満足”という言葉がありますが、救急車を要請してきた方の満足をいかに得るかということを全ての出動において考え、行動しなければならないと感じています。積極的な意味では、傷病者本人、またその家族から信頼を得るために、一方で、無用なトラブルを避けるためといった消極的な側面からも「傷病者本位の活動」が求められ、意識されているものと思います。しかし、理想と現実の間には時として、埋めることのできない深い溝が存在してしまうこともあるのです。そのことを、正に思い知らされる結果となった出動がありました。

 その日は朝から何事もなく、ただ平穏な一日として過ぎていくかに思われていました。いつものように書類に目を通し、いつものようにお茶を入れ、そして、いつ何時でも出動できる態勢でいつものように時を過ごしていました。でも、119番に助けを求める住民の声は、その日も私たちを現場へと走らせたのでした。
「お父さんが、様子がおかしいんです。ろれつが回らなくて、立ち上がれないんです。以前に、○○病院の脳外科に脳梗塞でかかったことがあります。」
「わかりました。すぐに救急車が向かいますので・・・」

 署から10分ほどの場所にある要請先の家へと向かう車内で、私は思案していました。
「(○○病院にかかりつけかぁ・・・家族はきっと、○○病院への搬送を希望しているんだろうなぁ。)」
「隊長、現場到着です!」
「よし、行こう!」

 傷病者とその家族が待つ家の中に、私は隊員とともに入っていきました。そこには、不安げな表情を浮かべた傷病者の奥さんと数人の家族がおり、「遅いぞっ」と言わんばかりの形相で私たちを待ち構えていました。
「救急隊の□□です。わかりますか?お話しはできますか?△△隊員、バイタルを測定して。これから救急隊が血圧とかを測りますからね・・・」
 私は普段通りに傷病者の観察を始め、隊員に指示を出し、家族に対して説明を行いました。
「ご主人の状態ですが、ご心配なされている通り、症状からも脳神経外科がある病院への搬送が必要だと思われます。しかし、○○病院には直接行くことができません。とりあえず、脳外科はありませんが最も近い総合病院へ搬送したいと思います。」

「どうして、まっすぐ○○病院へ連れて行ってくれないんですか!」

「すみません。私たち救急隊は規定により、管轄外の医療機関には直接搬送することができないことになっているのです・・・」
 何が正しい判断なのかを簡単に言うことはできません。ただ、常に「傷病者本位の救急活動」を求め続けなければならないことは正しいことだと信じています。


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06.10.31/11:13 AM