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070527 枕の思い

作)ゆうたん

 先日、町の商店で偶然会った婦人にお礼を言われた事がありました。内容は、「夫の救急搬送の折には大変お世話になりました。」というものでした。小さな町ですので、お礼を言われる事は珍しくありませんが、とても印象に残るものでした。「大変お気遣いありがとうございました。」とこちらが恐縮する程頭を下げます。

 その出動は勤務交代直前の119番通報で、「夫の様子がおかしい。」との内容で出動し、活動的にはさほど印象に残るものではありませんでした。数日後、新聞のお悔やみ欄にその方の名前を見た記憶が残っている程度のものでした。

 既往歴がたくさんある70代の方で、倒れていた寝室から収容する際に、部屋の出入り口や廊下等の狭さから、取り回ししやすいようにスクープストレッチャーを選択し、布団の上で倒れていたので、枕と共に傷病者をスクープに収容しました。そのまま搬送先へ入院となり、亡くなるまでの数日間、そのまま当人がずっと使用していた枕を使っていたそうで、「最後まで自分の枕で寝ることが出来た夫は幸せだった。本当に感謝しています。」と婦人には丁寧にお礼を言われました。

 枕が替わると寝つきが悪い人はたくさん居ると思います。私もその一人で、仕事の折はなかなか仮眠できません。「亡くなるのは自分の家で・・」と願っても、今は大多数の人が病院で最期を迎えます。私も短期間ですが入院の経験があり、病院独特の雰囲気と慣れない枕とベッドでなかなか寝付けず、自分の枕が恋しくなった思いがあります。

 日本人にとって枕は特別な存在であったのか、古来ことわざや言い回しに「枕」がつく言葉はたくさん存在しています。また、近年も低反発枕がブームになる等、自分の枕には人それぞれ思いいれやこだわりがあるようです。人生の3分の1は寝ているという事を考えると、やはり枕は特別な存在であるかもしれません。自分が亡くなる事を想像した場合、病院のベッドの上よりも、やはり自分の家や布団で最後を迎える事を願うものでしょう。

 搬送中、傷病者に枕が硬いとか、枕について不満を言われた経験は少なからずあると思います。そんな時私たちは、「傷病者がわがままを言って・・・」と少々あきれた気持ちになる事もしばしばですが、具合の悪い時こそ自分の寝なれた枕が恋しくなるのかもしれません。

 何気なく傷病者と共に収容した枕でしたが、婦人に「枕にまで気を使って頂きありがとうございました。感謝の言葉もありません。」とお礼を言われ、傷病者や家族への些細な配慮はとても大切な事だと再認識させられました。傷病者や家族にとって大切なものを見落とさないように、今まで以上に観察と共に、気遣いも忘れないようにと心に誓いました。


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07.5.27/12:02 PM