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110116「僕の後ろに道はできる」

作)草食男子

 「僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる」

 私の消防人生は、突然終わりを告げました。2年と8ヶ月過ごした町や、苦楽をともにした仲間たちと離れることは大きな決断でしたが、自分の人生を真剣に考えた上決めた選択でした。

 そんな時、ある自動車メーカーの試験場でレスキュー隊結成に際して救急救命士を探しており、ぜひ採用したいとのお話をいただきました。現在、救急救命士の職域は狭く、消防以外の職種、しかも自動車会社の試験場で働くなど未知の世界。当然不安もありましたが、これも何かの運命かと腹をくくりお引き受けすることにしました。

 民間企業の救命士として活動をスタートさせたものの、自動車メーカーの試験場で私のような救命士を採用し常駐させている施設は他になく、すべてが手探り状態。消防でのキャリアも現場での経験も少ない私には、なにから始めたらいいのか、どこにどう進めばいいのか目指す道が見つからず、途方に暮れる日々が続いていました。

 そんな時、友人が私に「おっぱいバレー」という小説を薦めてくれました。タイトルだけ見るとちょっぴりエッチな想像をしてしまいそうですが、中身は中学生たちの爽やかな青春物語です。昨年、綾瀬はるか主演で映画化もされたのでご存知の方も多いと思います。この小説の中で主人公の女性教師が自分の人生を変えた詩として紹介しているのが、高村光太郎の「道程」。その中に出てくるのが冒頭にある「僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる」という一文です。

 消防にいたころ私の前には立派な道がありました。消防の先輩方が何代にも渡り踏み固めてくれた大きくて頑丈な道です。しかし、私の前にはもう道はありませんでした。そのことに混乱し自分を見失いかけていた時、この一文を読んで気がついたのです。目の前に道はないかもしれないけど、もしかしたら後ろには小さな道ができているかもしれないと。

 そう考えることができてから、私は臆病で引っ込み思案な自分を変えることができました。

 実習や講習会には積極的に参加し、消防や病院の医療従事者の方たちとも交流が生まれました。もちろん道なき道を進むのにはリスクが伴います。進む道を間違えれば崖から落ちてしまうかもしれないし、急に獰猛な肉食獣に襲われるかもしれません。それでも前に進むしかないと、この時思えたのです。

 あれからもう3年以上の月日が経ち、昨年の2月には待望の救命士の後輩もできました。入社した当初はなんだかおどおどして頼りない印象を受けた彼も、1年半たった今では立派に成長し実習や講習会で学んだことや、そこで交流することができた人たちのことを笑顔で話してくれます。そんな時、私は、自分の作った小さな道を彼も歩いてくれているのかなと実感することができます。いつか、後ろを振り返った時、私の後ろに後輩たちが安心して歩ける大きな道ができていたら嬉しく思います。


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11.1.16/11:32 AM