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120610 仮病

作)みいたん


 仕事に行きたくない気持の時は、仮病を使って休みたくなるような事がある。思い返せば学生の頃も、病気を理由にさぼったりした事があり、考えている事は成長していないような気がする。

 そんな仮病だが、私たち救急隊を巻き込むようなものになると、話は違ってくる。

 公営住宅に住む妻子がある40代の男性がいる。肉体労働をしている事もあり身体もガッチリしていて病気とは無縁のように見え、仕事の評判も悪くはなく、傍から見ると幸せな家庭に見える一家だ。

 ある夜、その家の妻から「夫の具合が悪いようだ」と救急要請があった。現場へ到着すると、腹痛で苦しんでいる。バイタルに顕著な異常は認められず、腹部の観察を行おうとしたところ、少し触れただけで異常な程痛がり観察を拒否するような状態であった。酒にやや酔っている様子もうかがえ、腹部の充分な観察も出来なかったが、腹部全体の激しい痛みを訴えており、すぐ近医へ搬送となった。

 病院に到着しても痛みの程度は変わらないようで、医師が観察しようとしたところ、我々の時と同じように触診を拒否するような態度をみせている。「触らないと、どこがどう痛いのか分からないので診させて下さい。」と医師が言っても、「痛いって言っているのだから、触らなくても分かるだろう。」と押し問答のようになってきた。

 そのうち医師も「診療拒否ですか?」と口調が強くなり、我々も看護師と共に傷病者を説得し、なんとか医師の診察をうけるよう促し、ようやく納得して頂き、我々は一旦帰署する事としました。

 「あれだけ激しく痛みを訴えていたので診療所では処置出来ないだろうから、すぐに転院搬送となるだろう」と、帰署後その準備をしていましたが要請はなく、後日届いた収容書に書かれていた傷病名は「腹痛(疑)」。何か狐につままれたような気分になった。

 数ヵ月後、また同じ家から「夫が痙攣している」との救急要請があった。

 現場へ到着すると、確かに四肢を小刻みに震わせ痙攣をしているが様子がおかしい。晩酌中であったらしくお酒の匂いはするが、意識もしっかりしており呼吸状態に異常も無い。瞳孔所見等にも異常は診られず搬送先の選定に苦慮したが、家族の強い希望により脳外科へ搬送する事となった。後日届いた収容書に書かれていた傷病名を見て、一同声を失なった。そこにあったのは「詐病」との二文字。

 近年、心の病気を発症する人が多いとも言われているが、これも一つの症状なのだろうか。傍目には幸せそうに見えるこの傷病者に思いをはせると、何か深く沈んだ気持ちになってしまう。

 翌日会社へ行きたくなかったのか?家で嫌な事があり逃げ出したかったのか?

 色々と余計な事まで考えてしまいそうになるが、仮病で寝込んでいるだけならまだしも、救急要請で搬送先の病院まで巻き込むような事になると、問題は一個人に留まらなくなる。ストレス社会と言われる現代だが、これからこのような疾患が増えていくのだろうか。私たちの心も折れそうだ。


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12.6.10/8:39 PM