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120610 タクシー

作)ゆうたん



 「タクシー代わりの救急車利用はやめましょう」という、近年の増加傾向にある軽症者の安易な要請による救急出動に歯止めをかけようと、様々な広報が各所でなされていますが、我が町のような田舎でも、そんな利用が後を絶たないのが現実です。

 そんな中、とある夏の真夜中に一台のタクシーが署の前に止まりました。通信員が窓の外を見ていたところ、降車した一人の乗客が荷物を手に玄関へ向かってきます。観光時期という事もあり、「道案内かな?」などと様子を窺っていると、どこかで見覚えのある顔つきの人が玄関の中へ入ってきました。

 「熱が高くて具合が悪いので救急車でかかりつけ病院へ連れていってくれますか?」駆けつけによる通報です。しっかりとした足取りで歩いてきたために、一瞬通信員も唖然としたようですが、追い返すわけにもいきません。「来たタクシーで病院へ行けませんか?」と問いただす間もなく、タクシーはすでにその場に居ませんでした。

 この傷病者は60代の女性で独り暮らし、今年に入り安易な通報で頻回利用していた所謂「常連さん」で、悪質とも思えるような軽微な事での頻回利用が続き、役場担当部局と打合せをした後に訪問した事もある人でした。訪問後は、要請が無くなり安心していたところでのこの深夜の訪問に、当番者一同狐につままれた気持でした。

 しっかり自分の足で歩け、入院の準備とおぼしき荷物も持参しているこの傷病者を、まずは車庫へ案内し救急車に乗車させます。熱があって具合が悪いという訴えなので、まずは体温を測定。体温は37℃台後半で、他に主訴は無し。「私、ベットに寝て行くと車酔いのようになって具合悪くなるのよ。」といい、そのまま後部座席に座りこみます。熱はあるもののバイタルは安定しています。

 救急隊は近医での受診を勧めますが、かかりつけの病院である小一時間程の距離にある都市部の二次医療機関にはすでに電話を済ませてあると言い、そこへの搬送を強く希望します。仕方なく収容依頼の電話をすると、「救急車で来るんですか?」と驚いた様子。

 収容の確認も終わり、そのかかりつけ病院への搬送となりましたが、病院到着まで元気に隊員と会話を続けていました。「タクシーで病院まで行くと、夜だから1万円以上かかるでしょ。だから、救急車で連れていってもらおうと思ったの。」と悪びれた様子もなく言ったのには閉口しましたが、それが本音だったのでしょう。

 病院到着し、自分の足でしっかり処置室へ歩いて入りました。対応の看護師も、当初は驚いた表情をしていましたが、病院引揚間際「救急隊員さんも大変ですね、お疲れ様でした。」と優しい言葉をかけて頂き、少し救われた気持になりました。

 タクシー代わりの利用に出くわす事はありますが、タクシーの乗り替わりのような利用には驚きました。安易な利用もここまでくれば、出てくる言葉もありませんが、このような悪質とも思えるような利用を断固拒否出来る権利が我々にあればなぁと感じたりします。

 この事案があって以降、署の近所に深夜タクシーが止まるとドキっとするようになりました。


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12.6.10/8:35 PM