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130525サイレン音2

作)みいたん

130525サイレン音 から続く


 救急車がサイレンを鳴らして家に来るのが嫌という理由で、お腹の痛い孫に半日以上我慢を強いていた祖父。前回の事例から半年ほど経ったある冬の休日の夕方、その家から相談のような通報があった。

 今度は、孫の小学生がスキー場で転倒したらしく、帰宅後に右の大腿部を痛がっており腫れてきているので病院を教えてもらえないかという内容だった。当地域は夜間休日は我々救急隊でも整形分野の収容先を確保するのが一苦労なので、その辺の事情を説明し、いくつかの病院を紹介した。すると祖父は「孫は二階にいるのだが動かそうとすると痛がって動かせないので、どうすればよいか」と尋ねてくる。症状を聞くと「上半身を動かしただけでも激しい痛みを訴えてどうすることもできない」と言う。「それなら救急車で向かいましょうか」と提案するが、「サイレンを鳴らして来るのなら自分で何とかする」と強い口調で電話は切れた。

 「自分達で動かすことがでなければ、そのうち要請が来るだろう」と話しながら気持の準備をしていると、また祖父から電話があった。「動かそうとしたが激しく痛がるのでやはり動かせない。救急車で来なくていいので、何人か階下へ降ろすのを手伝いに来てくれないか」というものでした。

 開いた口がふさがらなかったが、いくら住民に奉仕する消防とはいえ、我儘に付き合うわけにもいかない。「最低限の人数で勤務しているため、お手伝いに行くとその間出動態勢がとれなくなる」と説明し、毛布を使って階段を降ろす方法を教え、「救急隊には痛みが少なく降ろせる器材がありますよ。救急車で向かいますか」と再び提案してみたが、納得のいかない様子で電話は切れた。

 痛がっている子供のことを思い、その家のかなり手前でサイレンを停止して向かうことをしばらく話しあっていると、再度電話が有り、「自分達で降ろすことができた。これから署に向かうので運んでくれ」とのこと。

 見覚えのある車が署の前に到着すると、また子供は後部座席に横たわっていた。右の大腿部はかなり腫れており、明らかに骨折している様子。痛みを尋ねると、声も出さず小さく頷くだけで、相当痛かったようだ。毛布を使い階段を滑らせるように降ろし、車までは祖父が背負って乗せたとのことで、その間はひどく泣いていたらしい。

 救急車はタクシーではないので、気軽に呼ばれるのも困るが、サイレン音が嫌だからと頑なに救急車が家に行くのを拒まれるのも困ったものだ。祖父が拒否しなければ孫も半年の間に二度も激しい痛みを我慢しなくても良かったことを考えると、複雑な心境になった。


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13.5.25/1:29 PM