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130525サイレン音

作)みいたん


 私の住む町は過疎の町だが、救急車が住宅街へ着くと「この辺りにはまだこんなに人が居たのか?」と思うほど、多くの野次馬が集まることが多い。田舎故に街の人は皆が顔見知りという感じなので、どこの誰がどんな状態なのか気になるからであろう。

 そんな理由からか、通報時に「サイレンを鳴らさないで来てほしい」と言われる事が驚くほど多い。そんな時は軽症がほとんどなので切迫感も無いが、緊急自動車であり鳴らさずに向かうことはできないと伝えるようにしている。

 ある日の深夜、「小学生の孫が風邪をひいていて、お腹を痛がっているので救急車をお願いしたい」という祖父からの通報があった。「サイレンを鳴らさないで来てほしい」と言うので、できないことを伝えると、「それなら自分で連れて行く」と言い、当番医を尋ねられ回答し電話は切られた。

 間もなくまた通報があり「当番医では小児科対応ができないと言われたので、サイレンを鳴らさないで来てもらえないか」とお願いされた。「何度お願いされてもそれはできない」と断ると、それなら自分で署まで連れていくから、そこから病院へ連れていって欲しいという。子供の状態が気になるので尋ねてみると、もう何時間も痛がっているようで、熱もあり吐いていて動けないとのこと。「それなら救急車で向かいます」と伝えたが、サイレンを鳴らされて来られても困ると言い電話が切れた。

 この通報者は会社役員時代から顔色を伺うタイプの人として巷では有名で、「仕事を辞めてからも他人の目が気になるのだろう」と隊員間で話をしていると乗用車が署の前に到着した。

 すぐに駆け寄ると、男の子が後部座席で毛布に包まれた状態で横になっていた。顔面には冷汗をかいており、熱もあるようで動けない様子。すぐに救急車に収容して観察すると虫垂炎のようで、いつから痛みを我慢していたのか腹膜炎も併発しているようだ。すぐに手術可能な病院を探すことにしたが、小学生であり夜間ということもあってなかなか見つからない。結局、三次を標榜する医療機関へ搬送することとなった。

 救急車が家に来ると近所の人が集まってくるのが嫌だという人は多い。確かにこの通報者の家も住宅街の真ん中にあり、近所に出動した際も多くの住人が集まってきた。だからといって、サイレン音が嫌という理由で、ずっと痛いのを我慢させられていた子供が気の毒でならない。

 「このような時は遠慮せずすぐに救急車を呼んで下さいね」

 そう伝えたがが、この話にはまだ続きがあったのだ。

(2013年4月号に続く)


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13.5.25/1:30 PM