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130815心無い一言

作)ゆうたん



 とある深夜、70代男性が胸の苦しさを訴えているという通報があった。

 現場へ到着すると居間のソファー上に仰臥で居り、すでに落ち着いているので救急車は必要ないと言う。顔色がやや悪いことが気になり、隊員にバイタル測定を指示し発症の経緯などを聴取。バイタル的に顕著な異常は無く、脈拍を触診したところ不整も無かったが、突然の発症や胸の痛みを感じた部位・顔色の悪さ等から、心臓虚血疾患(ACS)を疑った。

 こんな症状は初めてだという傷病者を家族は心配し、病院へ行くよう話をしていたが、商店主でもあるからか「店を閉めるわけにはいかない。」と搬送に応じようとはしない。

 傷病者に、心疾患であるかもしれないので病院へ行くよう説得し、搬送の同意を得ることができた。隊員に車内収容を指示し、自分は病院選定をすることにした。

 深夜なので搬送出来る循環器科は限られており、この日は1時間ほど離れた町の循環器科のある二次機関と循環器専門病院のみである。

 「70代男性のACS疑いです。」どちらの病院にも現在のバイタルと発症の経緯を伝えたところ、驚くような返事が返ってきました。

 「それは救急隊の判断でしょう?ACSと確定しているわけではないので、当院では診ませんので、他の病院をあたって下さい。」茫然としてしまいましたが、病院を探さなければなりません。車内にて心電図波形をみたところ、テントT波形が出ています。やはり疑った通りACSのようです。

 断られた2つの病院に再度アタックしてみます。
「心電図波形でもテントT波形が出ているのですが、受入れてもらえないでしょうか?」
「救急隊の判断では確定していませんから、他の病院でまず診てもらって下さい。」

 私たち救急隊は医師ではないので、明らかに骨折している傷病者でも「骨折の『疑い』があります。」と収容依頼します。現場では検査機器もありませんので、バイタルや症状・訴え等から疾患を予想し収容依頼するしかありません。時にはオーバートリアージになることもありますが、それを信頼してもらえないと収容依頼は受けてもらえません。

 時間をかけて真っすぐにより遠方にある3次医療機関まで搬送することも考えましたが、まず地元の二次機関で初診してもらうこととなりました。

 検査の結果やはりACSであり、すぐに転送となりました。

 救急隊が断られた循環器病院へ転送依頼の電話を当直医がかけたところ、「そんなに重症であれば、真っすぐ来てくれたら診た。」との答えだったそうで、先方の意思を叱りつけるようなかなり大きな声を電話口であげています。その当直医に救われた気分でした。

 「救急隊の判断だけでは診れないよ。」

 この冷たい一言がしばらく耳から離れませんでした。


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13.8.15/9:18 AM