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140809 ご近所付合い

作)みいたん

 昨今、近所付合いが希薄になってきたと言われている。都市部ではそれが特に顕著であろう。自分も在京時は隣近所にどんな人が住んでいたのか、よく知らなかった程だ。地方においても、昔ながらの近所付き合いは減ってきている。

 小さな町では救急車が傷病者宅に着くと、時間が深夜であろうと近所の方が大勢出てくる。中には心配からか家に上がり込んでくる人もおり、傷病者と近所の方の付き合いの密度が垣間見えたりする。普段は愛想っけがないように見える人が、多くの人に心配されていて驚くこともあれば、その逆もある。

 ある日の夕食時間帯、商店街の主人が具合悪くなったとの通報があり出動した。ここのご主人は70代であるが元気で、いつも明るく挨拶してくれる印象を持っていた。

 現場へ到着した。商店街であるから近所の繋がりは強いのか、いつもは多くの人が救急車が現場を離れるまで心配そうに見守っている印象が強い地域だ。この日も、いつものように多くの人が方々から顔を出していた。「車内収容時には、多くの人が救急車の周りを取り囲むようにいるのだろう」と傷病者宅に入った。

 一通り観察を終え、いよいよ屋外へ搬出し車内収容である。傷病者のプライバシーにも配慮し、駆け寄る近所の人に配慮しつつ迅速に活動しなければならない。

 ところがである、家の外に出たが人が一人もいない。視界に入ってくるのは帰宅を急ぐ通行人だけで、近所の人の姿が見えない。隊員も狐につままれたような表情をしている。質問攻めしてくる人、ストレッチャーにまで手を掛ける人など居ないので、落ち着いて車内収容することが出来たが、何故か拍子抜けしたような気分になった。

 現場出発直前に、近隣に住んでいるご婦人らしき人が近づいてきて「父さんでしょ?」と尋ねてくる。今は個人情報にうるさい時代でもある。答えを探していると「まぁ誰でも自分達には関係ないんだけどね」というような事を言って立ち去ってしまった。

 いつもはこのご主人も救急車の周りに駆けつけている一人なので、搬送中「大騒ぎになってしまったかな、恥ずかしいな」等を言っていたが、そんな心配は無用である。一人も近所の人は出てきていなかったのだから。屋外搬出時に、ご主人は目をつぶっていたので周りの状況を見ていなかったのだろう。

 「あの辺の方はみんな仲がよく繋がりが強い地域ですものね。いつも集まってくる人の多さに私たちも驚いています」と言う我々に、「昔からみんなで力を合わせて商店街を盛り上げてきたから、みんな家族のようなものなんだよ」と熱く語っていたが、どこかその言葉が虚しく聞こえた。

 その後も、退院してきたご主人には変わらずに明るく挨拶もしてくれる。近隣の人と楽しそうに談笑している姿も変わらない。そんな姿を目にする度に、近所の方の冷たい一言が思い出されて、何とも言えない気分になる。


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14.8.9/5:09 PM