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140809 忘れられないクリスマス

作)ゆうたん


 きっと自分がいくつになっても、クリスマスが来るたびに思い出すであろう事案がある。

 その年も、クリスマスが勤務に当たり「俺、クリスマスはろくな出動が当たらないんだよな」などと朝のうちは軽口をたたいていた。

 午前中は比較的平穏に過ぎ、昼食も済ませて一息入れていた時に一本の119通報があった。

 「40代男性が首を吊っている」というものであった。

 その男性とは、友達と言えるほどの付き合いではなかったが、共通の話題も多く親しくさせてもらっていただけに耳を疑う通報だった。

 現場へ到着すると、母屋の離れの一室でスーツのネクタイを外し、それで首を吊っていた男性の姿があった。

 縊頸の救命は困難と承知してはいたが、祈るような気持ちでCPRをした。

 男性の同僚である通報者に話を聞くと、朝はいつも通り出勤してきたが、ちょっと家に戻ると言ったまま外出したきり戻ってこない男性を心配し、携帯電話に電話をしても応答が無いため家を訪問。奥さんと中学生の息子は在宅しており「帰宅していない」と言うものの、男性の車は家の前付近にあるために離れを覗いて、変わり果てた男性を発見したという。

 奥さんはかなり取り乱しており、息子も茫然としていた。

 結果は無念だが救命出来ず、知り合いということもあり後味の悪さのようなものだけ印象に強く残る事案であった。

 葬儀も終わり落ち着いた頃に、家族から話を伺う機会があった。

 普段の生活からも自損をするような予兆は何も無く、前日のイヴも家族でパーティーを楽しく過ごしていたらしい。中学生の息子は高校受験を控えており、息づまるような時期でもあったが、それを忘れるような楽しい一時であったという。

 家族も同僚も、原因に思い当たる節が全くないと言い、そこに至った経緯はきっと本人にしか分からないであろうとは思う。可哀相なのは高校受験を控えた長男であった。クリスマスの時期で暮れも押し迫っており、進学校を目指しているとのことで勉強にはかなり真剣に取り組んでいたことと思う。この年頃は、自分の過去を振り返ってもかなり多感で微妙な年齢だ。相当ショックを受けていたようで、明るく活発だった性格が正反対になってしまったとも聞いた。

 「お前も来年からは高校生になるのだから、クリスマスのプレゼントはこれが最後だぞ」と、息子が欲しかったものをプレゼントしたそうだが、この言葉に何とも言えない意味を探してしまう。

 クリスマスと言えば、多くの若者が楽しみにし、理由の如何は問わず気分が高揚してしまうものであるが、きっと息子はクリスマスが近づく度にこの出来事を思い出してしまうのかと思うと、なんとも言えない哀しい気持ちになる。

 いつか克服出来る日が来ると、姿を見かけるたびに応援している。


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14.8.9/5:00 PM