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140809やりきれない気持ち

作)みいたん

 ある夜、「50代の父が睡眠薬を多量に服用したようで意識が朦朧としている。」との通報があり出動した。独居の50代男性、離れたところに暮らしている息子が毎晩様子を見に通っていたそうです。

 どこかで見覚えのある傷病者だなと思いつつ観察を始めると、アルコール臭もしています。意識が朦朧としているというよりは、泥酔に近い状態。息子から差し出された空の睡眠薬のシートや聴取では、服用したのは2?3錠程度と推察され、3次対応も考えていた我々は少し安心しました。

 しかしここからが大変でした。

 「病院に行って診てもらいましょう。」と声をかけた我々に、「病院なんて行かないぞ!俺は死ぬんだ!殺してくれ!」と大声で暴れ始めました。少し落ち着くのを待つことにしましたが、一向に興奮状態が収まる気配も無く、押さえようとする息子も激しく振りほどきます。仕方なく警察官の臨場を要請することにしました。

 程なくして警察官が現場へ到着。その頃には少し興奮も収まってきたようでしたが、相変わらず病院へ行くことは激しく拒否しますが「病気で仕事も失ったし、もう俺は生きている価値が無いんだ。」等と、身の上話を大声で話すようになりました。

 落ち着きつつある傷病者を隊員と警察官に任せ、詳しい話を息子から聴取して愕然としました。一年ほど前にドクターヘリ搬送で、見事救命できた傷病者だったのです。

 それは夕方に傷病者の勤務先からあった通報で、その段階から心疾患を強く疑うものでした。傷病者に接触すると、明らかなショック状態を呈しており、すぐにドクターヘリを要請しました。車内収容して心電図をモニタリング、心疾患の疑いは確認に変わり、フライトドクターへの引継もスムーズに行え、心停止前に決定的な治療ができた良い事例でした。傷病者の顔に見覚えがあったはずです。

 無事に救命されたのを家族も喜んでいたのもつかの間で、小さな会社だからなのでしょうか、なんとこの入院と通院・しばらくの間は身体に負荷がかかる仕事は禁止と言われたことを理由に勤務先を解雇されてしまったそうです。

 その後は家に閉じこもりがちになり、酒を多量に呑むこともしばしばで、時には家族に対し暴力的な振る舞いをするようになったようです。そのため、この傷病者を一人家に残し、家族は離れたところに引っ越したようですが、父親を案じた息子が毎晩様子を見にきていたとのことでした。

 我々は傷病者の転帰まで把握できることはありますが、大きな外傷を除きほとんどの場合、その先にある生活にまで思いを巡らせることはありません。

搬送中「あの時死ねばよかった。」と言った傷病者の言葉を遮り、息子が言った一言に少し救われました。

「あの時、皆に助けてもらえたから、どんなに苦しくても今こうやっていられるんだよ。」


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14.8.9/5:11 PM