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151109饒舌な関係者

作)ゆうたん

 意識状態の悪い傷病者を搬送する際には、関係者から得る情報は我々にとって非常に重要なものとなる。鵜呑みにするわけではないが、その情報を元に搬送先の選定をしたり医師に引き継いだりと、とても貴重なものであるため、特に家族からの情報は盲目的に信用してしまうことが多い。

 先日早朝、30代男性の意識が無いと妻からの通報があり出動。

 傷病者は意識レベル3桁で、左上下肢の麻痺を認めたため脳外科へ搬送することとした。

 しかし、瞳孔所見に気になる点があったことや年齢が30代前半ということもあり、薬物の可能性や睡眠薬の服用等も考え、その痕跡を探すことを試みた。家の中はゴミ屋敷と見間違うほどゴミが散乱しており、ゴミ箱を探したが見つからず、布団の周りにもゴミしか見えず薬包は確認出来なかった。大失禁していたことや部屋に漂うゴミの匂いで、呼気にアルコール臭がしないこと位しか分からなかった。脳疾患以外を否定する材料にはやや弱いが、脳外科搬送が適当と判断した。

 さて、足の踏み場も無いような部屋で寝ていた妻にも驚いたが、異常な鼾に気付いたという妻から色々と情報を収集しなければいけない。

 まずは気付いた時の状況等を聞き、既往や現病での通院状況に話が及んだ時である。

 「夫は昔精神を病んだ時期があって、薬を飲んでいましたが今は飲んでいません。」

 「病気もしていなくて、風邪くらいです。風邪薬も滅多に飲みません。」

 「普段もサプリメントのようなものは飲んでいません。」

 次から次へと私達が聞きたいことが分かっているかのように、饒舌に受け答えをしてくれる。若干違和感を感じたものの、我々にとってはありがたく、欲しい情報をほとんど聞き出すことが出来た。当初懸念していた脳疾患以外を否定する材料が豊富で、自信を持って脳外科へ到着した。

 医師にも情報を引継、初診ではやはり脳疾患であろうとの見解で、即検査することとなった。しかし、出血も梗塞も見当たらない。我々も長時間病院に留まるわけにもいかず、もう少し詳しく検査してみますという医師の言葉に後ろ髪を引かれながら病院を引き揚げた。

 後日届いた収容書に書かれていた病名は「薬物中毒」であった。病院に尋ねてみると、睡眠薬のようなものをかなり大量に服用したらしいとのことである。

 饒舌な妻の回答に抱いていた違和感はこれだったのだ。

 家族が意識を消失した状態で救急要請してくる場合、大抵は動揺しているものである。こちらが聞きたいことを尋ねても、要領を得ない回答であったり、頭が混乱しているのか詳しくは思い出せないということが多い。しかし、この時の妻はそのようなこともなく、やけに落ち着いて見えたのを思い出した。そして我々に薬物の大量服用と悟られないように、饒舌に語っていたのだとようやく理解出来た。おそらく薬包も我々が到着する前に処分していたのだろう。

 「犯人はよく語る。」

 推理小説や刑事ドラマ等でよく耳にするが、その場面を思い出すとともに「なるほど」と思わず頷いてしまった。


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15.11.9/11:43 AM