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170820そのピースを捨ててはいけない

作)ウルトラマン

 「そのピースを捨ててはいけない」
 その指示が上司の傲慢と捉えるか、自分達を思っての愛の手なのか、その判断は得てして難しい。
 救急隊といえども消防という会社の一人の社員であって、階級が低いほど、年齢が若いほど雑用が増える。夕食の食材注文から、来客のお茶だし、ゴミ捨て、台所の掃除。「おい!コーヒー切らしてるじゃねえか!」「反対の班から台所が汚いって言われたぞ。ちゃんと掃除してないだろ!」先輩から叱られれば、返事は「はい」か「YES」と決まっているのが消防の世界である。
 「ってかコーヒー飲んでるのあんたでしょ。自分で注文しろよ!無くなったら、せめてその時に教えろよ。」「俺、あんたの使用人じゃないし!」彼の心情はきっとこうだ。表情がそう言っている。まあ、わからなくもないけど。
 
 作家の喜多川泰さんは、著書「賢者の書」の中でこんなたとえ話をしている。
 ある人がジグソーパズルの1個のピースを手にした。それはシマウマの頭の部分の絵柄だった。次に手にしたピースはシマウマの首の絵柄だった。
 「これはここだ!」、喜んでそれを頭のピースの横にはめ込む。ぴったり合うと嬉しいので、またその隣のピースを捜し求める。
 ところが次に手にしたのは黒一色のピース。どこの部分なのか全く分からない。もし完成図が分かっていれば、そのパズルを完成させるのに必要なピースであることは分かるのだが、完成図のないパズルだったら、それがパズルの一部であることすら分からないので、それを大切に取っておくこともしないかもしれない。
 
 「賢者の書」に登場する少年は、「賢者」からジグソーパズルの話を教えられる。
 「大きな絵、つまり大きな夢を描く。そしてその夢に実現のために行動を起こす。行動の結果、手に入るものは失敗でもなく成功でもない。絵を完成させるために必要不可欠なピースの一つである」と。
 「一個のピース(行動の結果)は、自らの思い描いた絵を完成させるためにどうしても必要なのだ。絵が完成したときに、あのわけの分からなかったピースがどこでどう使われているのかようやく分かるんだ。あのつらい経験がここに使われることになってたんだな。あの失敗が無かったら、ここを埋めることができなかったんだな、といった具合に。」
 
 消防に就職して15年。今なら分かる。コーヒーを切らしたことにすら気づかないことの意味。ゴミ捨てから学ぶスケジュール管理、台所の物品配置と救急現場での資機材配置の関連性。先輩から渡された一見不要に思えるパズルのピース達は、私の成長に全て関わっている。
 この本、20代の時に出会っていたかった。今はもう退職してしまったけど、いつも怒っているあの先輩からは常に逃げるようにしていたし、どうしても好きなれなかったあの人からうんざりするほど聞かされたセリフが大嫌いで、いつも耳を塞いでいた。きっとたくさんのピースをゴミ箱に捨ててきたことだろう。

 どんなにムカついても、どんなに理不尽でも、ゴミ箱に捨ててしまう前に一度考えて欲しい。悪いことは言わない。深く考えないでそのピースはそっと胸ポケットにしまっておこう。


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17.8.20/5:48 PM