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170820救急隊の強み

作)ウルトラマン




 餅は餅屋がついたものが一番美味しいし、酒は酒屋に茶は茶屋に。上手とはいえ専門家にはかなわないという先人の教えである。

 救急隊や医師、看護師等の医療従事者を交えて行う症例検討会で、医師のコメントが気になった。「救急救命士はミニドクターじゃないんだから、観察に時間をかけないで搬送したら?」

 ベテラン救急救命士は、そういった類のコメントに耐性があって全く気にしない。でも若手救命士は別だ。
「救急救命士ってなんなんですかね。」
 次の日、神妙な顔つきで私の隣に座った彼は、救命士研修所を出たばかりの若手だ。たくさん勉強して救急救命士になったのに、やる気が無くなったのだと言う。
「結局僕ら、下層の人間なんだよね。」
悩む彼に便乗して、これも若手の救急救命士達が私の周りに群れてくる。彼らの顔もまた神妙だ。

「緊急放送です。対応可能なスタッフは、○○病棟の廊下に集合して下さい。」 

たまたま非番日に大学病院にいた私は、コードブルーの院内放送を聞いた。たまたま知り合いの教授と一緒にいたので、君も興味あるだろうからちょっと見に行ってみようという話になった。読者諸兄はどのような現場を想像されるだろうか。ICLSよろしく「除細動!胸骨圧迫交代!」などと指示を飛ばしている様子を思い浮かべるだろうか。

 現場が見てきた。患者の総頸動脈を触れているのは医師だ。右橈骨動脈は看護師が触れている。別の医師が左総頸動脈を触れ、また別の看護師が左橈骨動脈を触れている。ん?なんだかとっても奇妙だ。定番の除細動器、救急カートは人だかりの外にあって、人が邪魔で近づけない様子。もう一度説明するがここは救命センターのある大学病院だ。

 救急救命士の私は患者を見た瞬間、内因性CPAであることに気づいている。
「ちょっとまずいね。これ。」
 一緒にいた教授はそう話すと、私から離れて患者の元に走っていった。

 まず状況評価だ。患者は階段下の廊下に倒れていて点滴スタンドも倒れている。点滴は抜けてない。点滴スタンドがあるのに階段を降りるとは考えにくいから、階段から落てはいない。右上腕にはシャントが見えるから透析患者だ。嘔吐もしている。脳出血か?あの顔色に表情、患者はCPAだろう。足元にいる顔がそっくりな女性がきっと親だ。何か情報を持っている。接触してCPR。除細動の適応を確認したらまずは気道をなんとかしたい。まず気管挿管して、薬剤入れて救急処置室にGOだ。

 状況判断、病態評価、処置の必要性と優先順位、そして搬送。救急隊はこの筋のプロフェッショナルである。知人の看護師は言う。「救急救命士の判断力には敵わない。」救急現場に来た医師は言う。「救急救命士さんに任せる。必要な処置があったら教えて。」と。

「この前さあ。医師でも看護師でもなくて、救急隊が一番優れてるなあって感じた出来事があったんだよ。」

 後輩に話はじめた私を見て、事務所の奥にいる先輩がニヤニヤしていた。そういえばこの悩み、あの先輩に相談したことがあったなあ。


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17.8.20/5:42 PM