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170821気付いたら黙ってするセンス

作)ウルトラマン

この原稿を書いている3月。どこも卒業ムードだ。制服の胸ポケットにブーケを添えて、私の家の前を高校生が通り過ぎていく。彼女たちにはこれからどんな人生が待っているのだろう。この時期になると、いつも思い出す話がある。

私の子供は数年前に保育園を卒園したが、その話は、卒園式が終わった後、お世話になった先生に感謝する謝恩会が開かれた時の事だ。ある保護者の代表が先生への感謝の気持ちを話した。

ある日、お弁当の日に寝過ごしたことがあった。慌てて途中のコンビニでサンドイッチを買い息子に持たせ、保育園に送って行った。保育園の玄関で先生の顔を見たとたん、その母親の目から涙が溢れたという。先生の前で泣くのは初めてだった。

子供の毎日の体調を連絡帳に書く。汚れた着替えを取り出す。お昼寝用の布団カバーを洗濯する。そんなこまごましたことを、一つ二つ抜かしてしまう時だったらしい。仕事も育児も中途半端で、自分が嫌いになっていった。「ちゃんとできなくてもいいじゃないですか。ちょっとずつ良くなっていけば・・」と先生は慰めた。

そんなこんなで5年が過ぎ、そのお母さんはとんでもないことに気づいた。「この5年間、自分は一度も息子の爪を切ったことがない。」しかし、息子の爪を見ると、きちんと切り揃えられている。息子に聞くと、「先生が切ってくれるよ。」と言う。そしてこうも言ったそうだ。「ママが遅くなる時は、耳そうじもしてくれたよ。」と。彼女は驚きと感動で言葉を失ったそうだ。

卒園を迎える今日まで、その女性は自分の未熟さに心が折れそうになったことが何度もあったという。その度に、何も言わずに息子の爪を切ってくれた先生の笑顔を思い出していた。それが「お守り」になってこうやって卒園させていただく事ができたのだと。

 ある救急出動の時、感染防止ガウンを着るといい香りがした。ん?だれか消臭スプレーでもしたのかな?くらいにしかその時は思わなかった。何度か出動を繰り返し、次の勤務、そして次の勤務。連休が終わってさて今週もがんばろうと再び感染防止ガウンを着ると、やっぱりいい匂いがする。「誰か洗濯してくれたの?」「いい匂いしますよね。誰かしてくれてるんですかね。」何人かに聞いてみると、一人の後輩の名前が出てきた。みんなが帰った非番日、一人残って洗濯をしてくれているのだという。このメンバーで勤務するようになって1年が経ってしまった。3月になってようやく気付いた。恥ずかしい。私たちの救急活動は、彼に支えられていたと言っても過言でなないというのに。

「気付く」「気付いたら黙ってする」、これがプロのセンスなんだろうなあ。
 


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17.8.21/7:54 AM