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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


『コンビチューブの安全な挿入方法』

月刊消防99年12月号p58〜p64

留萌消防組合消防本部・救急救命士・中路和也

  •  本誌4月号に「コンビチューブが食道を裂いていく」と題したレビュ−を掲載したところ大きな反響を得た。その中で多かったのは、「ではいったいどうやったら安全に使えるのか」という質問であった。玉川自身はコンビチューブを救急現場で使ったことはなく、私の書いた回答では机上の空論になってしまう。そこで、コンビチューブを使い数多くの論文を発表している留萌消防組合消防本部・中路和也 救急救命士に執筆を依頼した。 玉川 進
  • はじめに

  •  コンビチューブは、盲目的挿入が可能で、気管、食道どちらに挿入しても換気が可能な気道確保器具であり、迅速かつ容易に気道の確保が完了できるため、救急救命士に広く使用されている。しかし、実際に挿入してみると、抵抗を感じることもあり、粗暴な盲目的挿入操作は気管、食道、喉頭の損傷を引き起こす可能性もある。そこで、コンビチューブの安全な挿入について述べる。

     尚、コンビチューブの種類と構造、一般的な取り扱い方法については、説明書1)や文献2)を参考にして頂きたい。

     今回紹介する臨床研究は、救急救命士生涯教育研修時に実施され、 全身麻酔下で手術が予定された患者29例(男性7例、女性22例)を対象としたものである。手術室入室後、仰臥位で全身麻酔導入し、X線透視下でコンビチューブを挿入した。

    (写真1)以下の5項目の調査を標準タイプ・SAタイプ(以下、標準・SA)に分けて実施した。

  • 1.頭部ポジションと挿入の難易度について

  • 方法
  • :X線透視下で患者の頭頸部側面を観察しながら下顎と舌根を垂直に持ち上げコンビチューブを挿入した。前屈位、中立位、後屈位と挿入し、強い抵抗があり、透視で挿入が危険と判断されたときには挿入を中止した。
    結果(図1)

  • :準標・SAともに、前屈位では全例挿入不可能であった。中立位では半数以上で挿入可能であり、後屈位では標準の1例を除き挿入可能であった。
    考察
    :前屈位の場合では、全例でチューブ先端部が咽頭後壁に当たり抵抗が大きく挿入は不可能である。基本は中立位であるが3)この場合でも後屈位に頭部ポジションを変更すると容易に挿入可能となった。SAは標準より細く柔らかいため、チューブ先端部が咽頭後壁に当たると容易に曲がり抵抗が減少し、力の方向が変わるため、標準に比べて中立位であっても頭位変更することなくスムースな挿入ができた。しかし、SAでも中立位で2例挿入不可能の症例があり、頭部ポジションを後屈位にすることにより容易に挿入できた。鈴木ら4)も抵抗を感じた場合にはやや後屈にすると挿入が容易になると報告している。透視で挿入経路を確認すると、チューブの弯曲と頸椎の弯曲、食道の向きが後屈することによって一致することがわかった。これらの結果より、コンビチューブであっても可能な限り後屈位で挿入すべきと考えられた。
  • しかし、1例で後屈位でもチューブ先端部が咽頭後壁に当たり(写真2)挿入できないと考えたためラリンゲアルマスク(LM)に変更(写真3)した症例も経験した5)。
    *ポイント

    *事例
    電柱の倒壊事故でワイヤ−が2本道路を横断する形になり、数分後に通りかかったバイク運転者の前頸部に引っ掛かった事故で、気道確保器具の選定に一考を要した。頸部・頸椎損傷を考慮しコンビチューブを選択したが前頸部の隆起、咽頭の狭窄のため挿入困難。頭部後屈を行わずLMを挿入した。6)

  • 2.チューブ挿入マークと門歯部の位置について

  • 方法
    :透視で良好な位置を確認した時点で、正中位での口側チューブ挿入マークと門歯部の距離を測定した。
    結果(図2)
  • :標準では挿入マーク内で固定された症例はなく。SAでも3例であった。 考察:深さの基準である挿入マークは付いているが、挿入マークまで押し込むことは損傷の可能性があり危険である。三好ら7)は外見上で咽頭カフの固定位置を推測後挿入する方法を発表している。
    *ポイント
  • 3.咽頭カフ容量とリーク率について

  • 方法
    :咽頭カフ容量の基準量(標準:100ml.SA:85ml)時、加減時の各値を記録しリ−ク率(%)を計算した。
    結果(図3)
  • :標準で110mmHg、SAでは115mmHgで最低であった。
    考察
    :標準は咽頭カフ内圧100mlまでは咽頭壁に密着する度合いが高いためにリーク率も低下した。ところが、110ml以上になると透視所見からカフが咽頭口を狭窄したためにリーク率も上昇したと考えられる。エアリ−クの多い場合は、カフ容量を増加させると報告があるが4)、過度のカフ容量はかえってリ−クを助長させる8)(写真4.5)ことになり注意が必要である。
  •  SAでは、基準量時にカフは充分に膨らんでおり、舌骨部の圧迫も認められず、咽頭口 の閉塞を起こす可能性は少ないと考える。
    *ポイント

  • 咽頭カフの入れすぎはかえってエアリ−クを増やす
  • 咽頭カフ容量の増減、固定位置や頭部ポジションの変更をする
  • 4.血液ガス分析について

  • 方法
    :橈骨動脈や大腿動脈から動脈血を採血し血液ガスを測定した。また、採血中の呼気終末炭酸ガスを記録した。
    結果(図4)
  • :動脈血炭酸ガス分圧と呼気終末炭酸ガス分圧はほぼ一致した。
    考察
    :適切な位置で挿入完了し、胸部聴診により換気が確認できれば充分な換気量が確保されていると考える。
  • 5.手術中の状態と手術後の咽頭痛について

  • 方法
    :手術中を通して顔のうっ血と舌のチアノ−ゼを観察した。チュ−ブ抜去の前後に嘔吐した症例と、チュ−ブに付着した血液の有無を観察した。
    術後1日目に患者と面接し、その時点での咽頭痛の程度を問診した。
    結果(表)
  • :顔のうっ血はなく、舌のチアノ−ゼ所見はSAで2例みられたがチュ−ブ抜去後速やかに消失した。嘔吐した症例は標準1例、SA3例、有意な出血は標準3例、SA1例、有意な咽頭痛は標準2例あった。
    考察
    :SAではチュ−ブが柔らかく細くなったため、抵抗が少なくなり出血も抑えられた。後屈位にすることにより、さらに挿入がしやすくなるため出血の可能性は少なくなる。
     舌のチアノ−ゼ所見は、挿入時間が2時間以上を経過したためであり。2時間以内の処置であれば静脈灌流の障害は少ないと考える。術後の咽頭痛は、気管内挿管によっても大部分の患者で経験する9)ことを考えると、特に多いとはいえない。盲目的挿入であっても頭位を変換することによって愛護的な挿入は可能であると思われる。
  • 6.よくある質問

     人によってさまざまな意見を持っている。それらの意見を列記する。

  • Q1:親指を口腔内に入れ舌とともに下顎を持ち上げればチュ−ブが簡単にはいるという解説がありますが、有効なのでしょうか。後屈位で挿入するほうが簡単なのですか。

  • *下顎を持ち上げることにより大きく開口され挿入がしやすくなる。また、やや後屈位にすることが必要。
    *舌部は粘液等により滑りやすい状態になっている。また、舌根沈下状態では親指1本を口腔内に入れて舌と下顎を持ち上げることは困難と思う。盲目的挿入では下顎のみを持ち上げて挿入する。
    *挿入の妨げは歯だと思う。顎とともに舌も持ち上げることができれば、口腔内が広がり挿入は容易になると思う。また、頭部後屈により挿入角度が緩やかになり容易になる。
  • Q2:指を口腔内に入れることによって感染の危険性はないのでしょうか。

  • *感染の危険性はある。必ずディスポのゴム手袋を使用する。
    *現場で対応する傷病者は基本的に全員感染者という認識で処置に当たる。感染の危険性はあると思う。ゴム手袋を使用することを勧める。手指に傷がある場合は交代する。しかし、救命士が1人の場合は注意深く挿入する。
    *挿入側の手指に傷がある場合はプラスチックグロ−ブ着装でも挿入はさけた方がいいと思う。また、プラスチックグロ−ブを重ねて使用する。
  • Q3:実際に現場で使ってみて、救急医療ジャ−ナルの解説2)と違っていることがあったら教えて下さい。

  • *基本的にはありません。安全が確保できればもっとアバウトに使用してもいいと思う。
    *救急救命士テキストと同じ挿入法であり基本となっている。口腔内吸引後(喉頭鏡使用 )、挿入を行うため、喉頭鏡を用いた挿入をしている。テキストと現場経験からの応用である。
  • Q4:気管に入ることはあるのですか。


    *ないと思う。学会発表(医師)でSAを直視下で挿入した場合は小柄な女性を除いて気管内挿入が可能とありました。
    *経験上1回もありません。気管に入ったという報告は読んだことはある。
    *盲目的挿入で95%が食道挿入となっているが、傷病者の体型により可能と思う。また 頭部後屈によりチュ−ブ先端屈曲部が、咽頭前壁をなぞり喉頭に向かう可能性があると思う。

  •  
  • Q5:チュ−ブのコネクタ−部分は簡単に折れ曲がります。チュ−ブの固定で注意する点を教えて下さい。
  • Q6:リ−クが多いときはどうしたらよいのでしょう。

  • *咽頭カフ容量の増減、固定位置の変更、頭部ポジションの変更。
    *同上、リ−クが多い場合は抜管しバックマスクを使用する。
    *同上、リ−クが多い場合は抜管しLMを使用する。 *換気を確認しながら咽頭カフ容量の増量を行う。しかしカフの拡大により鬱血することや、リ−クが多くなることもある。
  • Q7:挿入時に喉頭鏡を勧める論文もありますが、喉頭鏡は必要でしょうか。
  • Q8:頭部が揺れるとリ−クは本当に増えるのですか。

  • *思わない
    *増える場合と減る場合がある。
    *コネクタ−が固定されている場合は、遊びがないためリ−クはある。固定されていない場合は、口唇部の固定がしっかりしているとない。
  • Q9: チューブ固定で押し気味に固定すると本当にリークは減るのですか。

  • *手で押し気味に押さえるとリ−クが減ったことはある。しかし、テ−プで固定しただけでは効果が薄いと思う。
    *挿入後リ−ク確認した後で、チュ−ブを押し気味に固定するのは望ましくないと思う。
  • Q10:食道を破くとどういった症状が現れるのですか。
  • A *経験ありません。
  • Q11:LMとコンビチューブの使い分け(教科書に載ってないこと)のノウハウを教えて下さい。

  • *既往症、特に食道疾患、肝疾患、大酒飲み等は少し考える。あとは教科書どおり。基本的にコンビが好き。
    *使い分けは食道疾患の有無、頸損の有無、嘔吐の有無等教科書に載っているが、特に食道疾患の有無について。基本的には好みの問題。LMの方が使い易くリ−クも少なく感じている。しかし、挿入手技においてLMの方が感染の危険性は高い。
    *食道疾患、頸損、身長120cmを基準とする。
  • Q12:口の開きづらい人にはどうやって入れたらよいのでしょう。

  • *喉頭鏡、開口器を使用する。だめなら無理に開口しない。
    *可能な限り開口を試み、だめなら挿入を断念し経鼻エアウエイ等を使用しバックマスクで換気する。ごり押しは厳禁だと思います。
    *指交差法で開口しにくい人は手掌部で顎を足部方向に押す、開口器を使用、喉頭鏡を使用する。
  • まとめ

    事故を防ぐためには、充分なトレ−ニングを積むことと常に学習を怠らないことである。

     当消防署では8名の救急救命士が現場活動しているが、心肺停止患者搬送症例数が少ないため、病院スタッフの協力を得て6ケ月毎に2週間の病院研修を継続している。特に手術患者に対する気道確保や静脈確保は、多くの重圧の中で行うため、現場では得られない大変貴重な経験が沢山あり、徐々に自覚と自信が身に付いてきている。

     今後も病院との密な連携の上で、プレホスピタルケア領域でのより安全、確実な気道確保器具としていきたい。

    【文献】

    1)日本光電梶F食堂閉鎖式コンビチュ−ブ取扱説明書.1995

    2)益子邦洋,肥田誠治:救急医療機器の使い方コツとポイント・コンビチュ−ブ.救急医療ジャ−ナル 1998;6(5):48−51.

    3)杉山貢:救急医療器具を使いこなす・気道確保のための器具.救急医療ジャ−ナル   1994;2(6):74−79.

    4)鈴木孝,須藤和則,廣田幸次郎,他:コンビチュ−ブによる人工呼吸管理症例.プレ・ホスピタル・ケア 1994;7(2):39−44.

    5)中路和也,梅澤卓也,三好正志,他:ツ−ウエイチュ−ブ挿入困難の1例・その原因と対応策について.プレ・ホスピタル・ケア 1997;10(1):45−46.

    6)三好正志,小柳悟,三上勝弘,他:気道確保器具の選定に一考を要した頸部損傷例. プレ・ホスピタル・ケア 1997;10(1):19−21.

    7)三好正志,梅澤卓也,中路和也,他:ツ−ウエイチュ−ブの固定位置を決定する方法 .プレ・ホスピタル・ケア 1998;11(2):42−44.

    8)梅澤卓也,中路和也,三好正志,他:ツ−ウエイチュ−ブ挿入におけるカフ容量とリ−ク率の変化.プレ・ホスピタル・ケア 1996;9(4):51−53.

    9)天羽敬祐,山村秀夫:吸入麻酔法.山村秀夫編.臨床麻酔学書.金原出版,東京,  1978,pp507−560.

     


    (図1)頭部ポジションと挿入の難易度について 標準・SAとも後屈位、中立位、前屈位、の順で挿入は容易となる。前屈位や中    立位であってもその時点で後屈を加えることによって容易となる。

    (図2)チュ−ブ挿入マ−クと門歯部の位置 平均で標準2.7p、SA0.5p。固定位置は身長、体重と相関はない。

    (図3)咽頭カフ容量と咽頭カフ内圧、チューブ内圧、リーク率

    (図4)血液ガス分析 (表)手術中の状態と手術後の咽頭痛

    (写真1)コンビチュ−ブ挿入完了時の写真(レントゲン撮影側面像) 咽頭カフは舌骨に接して頭側にある。

    (写真2)コンビチュ−ブ先端が食道前壁に当たっている状態(レントゲン撮影側面像)

    (写真3)ラリンゲアルマスク挿入完了状態(レントゲン撮影側面像)

    (写真4)咽頭カフ容量80mlの状態(レントゲン撮影側面像)

    (写真5)咽頭カフ容量120mlの状態(レントゲン撮影側面像) 咽頭カフが舌骨を押し下げ喉頭入口部が狭窄を来し、さらに咽頭カフがが膨満     し喉頭側へ落ち込んでいる(矢印)


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