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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


救急隊員のための基礎講座 10   2000/1月号

熱傷・溺水・熱射病

今回は環境異常をまとめて講義する。熱傷と溺水、そして熱射病も解説する。

熱傷

 熱傷とは、熱作用による生体の損傷である。重症熱傷では、皮膚という外界とのバリアーが破壊されることにより、呼吸循環体液とあらゆる影響が現れる。その侵襲はあらゆる外傷のうちで最大となる。熱傷となると、ショック、肺炎、創感染、栄養管理、手術などわれわれには大変なことばかりで、こんなに苦労しても結局はみんな死んでいくという思いが先に立つのだが、これは救急に携わる者に共通した認識だろう。生き残っても醜い瘢痕と関節拘縮に悩まされる。

 熱傷の重症度はその広さと深さで決定される。

深さ

 皮膚損傷の程度によって受傷度が決定される。I度は表皮のみの発赤。日焼けが典型。II度は真皮の熱傷で水泡ができ、深さにより浅II度(水泡ができる。水泡下は赤い。2週間以内に治癒し、瘢痕を残さない)と深II度(水泡ができる。水泡下は白い。4週間で瘢痕を残して治癒する)に分かれる。III度は皮下組織に達する壊死で、焼けた部分はなめし革のようになっている。完全に炭化したものも含む。皮膚の神経も焼けてしまうため触っても痛くない。皮膚は周辺の健常部から広がってくるので、治癒に長期間必要とする。植皮の対象となる。

 状況から深さは判断できる。受傷の状況を聞く。お湯をこぼしてあわてて冷やすとII度になり、服が燃えるとIII度になる。深さは焼けた瞬間に決まるのではない。焼けた後も熱が残っていると深くなってくるし、感染を起こせば生き残った皮膚まで死んでしまい深くなる。冷却と感染予防が大切な所以である。

広さ

 広さで簡便なのは「9の法則」である(図1、事例1)。どこにでも載っていて、どこでも役立つので必ず覚えるように。小児は頭が大きく足が小さいので誤差が大きい。そこで、小児では5の法則が用いられる(図2)。ほかに、患者の手の大きさがその人の1%として計算する方法もある。誤差が大きいのが欠点だが、あっちこっちに散らばる熱傷や小さな面積には有用である。非常に広い熱傷では、残った広さを測るほうが簡単である。

重症熱傷

 Artzの基準では、II度熱傷で30%以上、III度熱傷で10%以上で重症熱傷とされ、入院加療が必要である。発表から40年以上経っているが、未だに有用である。これは、熱傷治療が進歩していないことを示している。ぼかに、Burn index やPrognositic Burn Index が用いられる(用語1)

気道熱傷

 熱気や有毒気体の吸引で呼吸器系が障害を受けることをいう。高温気体を吸入することにより咽喉頭、気管が焼けるのを上気道型といい、気道の浮腫によって機械的窒息の恐れがある。有毒ガスにより気管支や肺胞が化学的に損傷されるのを肺胞型という。気道熱傷を疑う所見は、閉鎖空間での受傷、煤の混じった痰、鼻毛が焼けている、顔面の熱傷、かすれ声、呼吸困難である。

 気道熱傷を疑ったら、経鼻エアウエイの用意をする。唇に少しでも浮腫が見られたら、エアウエイ挿入を考慮する。気道熱傷は、初診時には大したことないなと思っても、経時的にどんどん呼吸が困難になっていくため、先回りした処置が必要である(図3、4)

全身への影響

 熱傷により、その部分は浮腫となる。熱傷の面積が大きいほど浮腫も大きくなり、その結果出血性ショックと同じく低容量性のショックとなる。違うのは、出血性ショックでは赤血球は減少しているが、熱傷では血漿成分のみ失われるため採血してみると多血症になっていることである。浮腫発生の勢いは受傷直後がピークとなる。

 気道熱傷では口咽頭が浮腫になり、機械的に窒息する恐れがある。また、有毒ガスの吸入により肺の機能が障害されたり、胸郭の浮腫により呼吸運動が障害されたりする。

観察

 バイタルサインを確認する。見た目には軽傷でも、有毒ガスを吸っている可能性がある。呼吸状態が悪いときは、迷わず気道確保を行う。受傷した場所と発生時間も確かめる。閉め切った部屋では気道熱傷を起こしている確率が高い。熱傷の範囲と程度を迅速に把握する。服の焼け具合から熱傷の程度を推定する。焼けた服を無理に脱がせることはない。水泡が破れる危険がある。そのときは服を切断する。

処置

 火がついている患者には水をかけるか毛布をかぶせるかして速やかに火を消す。服が皮膚について取れない場合にはそのままで搬送する。現場での創処置は清潔なガーゼで被うだけでいい。小さな熱傷なら流水や氷枕で冷却することにより熱傷の進行が抑えられ、痛みが軽減する。10%を越える広範囲熱傷では体温低下をきたす可能性があるので、痛みがやわらいだら冷却を中止する。

 搬送時には、受傷部位を圧迫しないように注意する。また、低体温にならないよう保温に心がける。

溺水
 溺水は、液体による窒息である。病態は2つに分けられる。一つ目は乾性溺水で、上気道に液体が侵入すると咳反射が生じ、声門が閉鎖し窒息する。そのため低酸素になり心停止する。二つ目は湿性溺水であり、これは意識消失とともに声門が開き液体が肺内に入るものである。また、救出時には良好な呼吸状態であっても時間経過とともに呼吸状態が悪化するものがある。これは二次溺水といわれる。

古典的には、川や湖などの淡水の溺水では、肺から水が吸収されて赤血球が膨れ上がって破れるため、高カリウムと心室細動が起こるとされ、一方海水での溺水では肺に入った海水が浸透圧で体内の水分を引き込み肺水腫が問題になるとされた。しかし、実際には肺に流れ込む水は多くはなく、治療法も淡水・海水で変わりはない。 低体温も問題となる。直腸温で33℃以下になると心室細動を誘発する危険がある。

観察と処置

 プールや浅い場所での溺水では頚髄損傷や頭部外傷を併発している可能性がある。頚椎保護は必須である。救出された溺水者の意識状態とバイタルサインを調べる。口腔内を喉頭鏡で点検し、汚物や砂があれば掻き出す。呼吸停止にはバッグマスクを、心停止には心臓マッサージを行う。意識があり呼吸がしっかりしている患者でも、二次溺水の恐れがあるのでパルスオキシメータをつけ観察を怠らない。体温を測り低体温の場合には保温する(表1、事例2)。低体温自体は脳保護作用を有するので蘇生に有利に働く。
熱中症
 熱中症は、体温の上昇を伴わない日射病と熱痙攣、体温の上昇を伴う熱疲労と熱射病に分けられる。体温の上昇した患者には速やかに冷却を試みる。

 熱の産生が熱の放散を上回ると体温が上昇する。発汗などにより循環血液量は低下し、皮膚や筋肉の酸素需要の増大により心臓の負担は増大する。高体温により細胞の働きが阻害され全身の臓器が障害されるため、重症患者では死亡する。

観察

 高温に曝されたこと、精神神経学的異常、高体温について観察する。

バイタルサインを確認する。頻脈、頻呼吸である。皮膚は暖かく乾燥している場合も冷や汗をかいている場合もある。神経学的には譫妄、けいれんが起こる。

体温は最も重要である。体温が上昇していなければ、1%食塩水(1Lの水に食塩小匙2杯。かなりしょっぱい)を飲ませ、安静を保たせる。体温が上昇している場合には、意識障害がなければ食塩水を飲ませる。そして速やかに冷却する。冷却方法は、まず可能な限り裸にする。汗はふき取らない。シーツ、ガーゼやタオルを濡らし患者にかけ、扇風機で空気を送って冷却する。水の代わりに消毒用アルコールを使うと効率がいいが、容器からそのまま出して使っては患者の皮膚が荒れたり、まわりに強烈なアルコール臭が立ちこめるので、2倍程度に薄めて使う。


図1 9の法則
どこにでも書いてある。必ず覚えるように。
図2 5の法則
5の法則。幼小児には9の法則より正確である。

用語
熱傷の重症度判定

1. Artzの基準(抜粋)
程度重症中等度軽度
II度熱傷≧30%15-30%≦15%
III度熱傷≧10%≦10%≦2%
その他気道熱傷

重症:一般病院に転送し入院加療、中等度:一般病院に転送し入院加療、軽度:外来加療


2. Burn Index (BI)
BI = II度熱傷面積(%)/2 + III度熱傷面積(%)
10-15以上を重症とする。


3. Prognostic Burn Index (PBI)
PBI = BPI + 年齢
BPI=100で死亡率50%。120をこえると救命困難。

 *実際に救命困難な患者が運ばれてきた場合どうするか。通常は鎮痛剤(モルヒネなど)の投与のみで何もせず看取る。100%熱傷で助かった症例もあるが、あくまで論文での話。

 *重症熱傷で助かる確率は1歳でも若いほど高い。実際には20歳が一番助かるようだ。

表1 低体温と生体の反応
直腸温症状
36〜35℃ふるえ
35〜32℃軽度意識障害、血圧脈拍低下、呼吸抑制の出現
32〜28℃意識障害、低血圧、徐脈、呼吸抑制、不整脈
〜28℃昏睡、反射消失、徐脈、心室細動、心停止

図2、3 顔面熱傷の例。図2は搬送直後、図3は搬送6時間後。このように急激に浮腫が進行するため、気道確保は絶対必要である。


事例1  熱傷  熱傷による救急要請。私は、重症な事が多いとイメージしています。過去に要請を受けたケースを見ても火災によるものや労災のようなケース。一般的に起こる火傷は直接病院に掛かることが多いと思うのです。

 「○○町○丁目○○ですが、女の人に油がかかって火傷したので救急車お願いします。」現場は消防署から近いそば屋さんでした。通信員から詳細が無線で送られているうちに現場到着。私はそば屋さんということもあり、天ぷら鍋を足下にでもひっくりかえしたのかな?と考えていました。同時に救急II課程や東京研修所の時に一生懸命覚えた熱傷深度、BSA(体表面積)、9の法則、ルンドブラダー、Artzの基準、バーンインデックスと短時間のうちに頭の中を駆け巡りました。しかし、現実は店の玄関を開けたとたん女性がバスタオルを下半身に巻き走り寄ってきました。「熱い、熱い、何とかして」直ぐに車内にのせバスタオルを取ると両大腿、下腿前面に及ぶ熱傷でした。クーリングパットを巻きネットの包帯でおさえましたが、なおも女性は痛みを訴えます。油が履いていたズボンを臀部方向に進み、9の法則でいう1点の付近にまで達していました。精神的にもかなりの興奮状態です。同じようにクーリングパットを使い病院にむかおうとしたところもう一人女性が乗ってきました。右下腿部前面と踵部に熱傷でした。搬送中に処置をして市立病院に到着。結局、私は市立病院の救急外来へ状況、負傷部位や処置内容などの情報を入れることができませんでした。翌日、皮膚科の医師に照会したところ熱傷面積、深度や処置についての話を少しすることができました。

 36歳 女性 両大腿前面、下腿、両足底部(浅達性2度熱傷)18% 中等症

 44歳 女性 右下腿、踵部(浅達性2度熱傷)4% 軽傷

 私はその日以来、救急服の胸ポケットに熱傷観察に必要なメモを入れています。あんなに一生懸命にあの頃覚えたことが生かせなかったのが残念です。  

(留萌消防組合消防署 救急救命士 菊池智人)

事例2 溺水  支笏洞爺国立公園内にひそむ、神秘の湖、支笏湖。湖畔からその水面を覗くと、何かしら吸い込まれそうになり、4次元空間が湖底にありそうな気がする。入水自殺を企図する人はこのような事を思うかもしれない。

 平成8年の師走、50歳半ばの女性が人生を諦め入水したが、近くにいた男性により救出された。支笏湖は不凍湖だが、12月ともなると湖面水温は4℃前後、外気温は0℃が平均とされている。この女性は入水時間は僅かであったが、救出後、着衣を脱がずにそのままで近くの食堂に保護されており、救急隊現着時は毛布に包まれストーブの前で暖を取っていた。発生から救急隊到着まで約30分間は冷たい着衣のままでいた。

 救急隊到着時、JCSI−1、口唇チアノーゼ、悪寒、振戦、皮膚冷感。バイタルサインは呼吸40回/分、脈(橈骨動脈)138回/分、不整、血圧102/66mmHg、体温33.7℃(腋窩温)、呼吸雑音なし。担架上にブランケットを敷き仰臥に寝かせ、着衣を全て切断し全裸で保温した。車内では酸素4L投与でSpO2 99%。心電図上、期外性收縮18/分が見られた。病院収容までの約20分間、振戦が続き、期外性收縮は消失しなかった。車内にて「あなたは運のいい人だ、助けてくれた人に感謝して、もう身を捨てることを考えないでください」と諭した記憶がある。病院到着時の腋窩温は35.7℃、振戦も治まっていた。医師の診断は溺水の軽症であった。

 寒冷環境下暴露における期外性收縮と脈拍の関係が気になった。一般的には30℃以下で心室性期外収縮が起き除脈になるとされている。この症例は35℃〜30℃の軽度低体温の範疇であり、期外収縮と頻脈が見られた。いづれにしろ、寒冷環境下における患者の管理は容態悪化を招かぬよう保温と酸素投与、頻回なバイタルサインのチェック、心電図波形の確認である。反省点は暖かいものを飲用させたらという点である。患者さんがおかれていた環境観察は非常に重要である。

(千歳市消防本部 救急救命士 佐藤敏彦)


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