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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


救急隊員のための基礎講座 11   2000/2月号

「精神科・中毒」

精神科の救急
平成11年6月に精神保健福祉法が改正された。救急隊員が直接かかわるのは、受診拒否する精神病患者を救急車に乗せ移送できるという34条である(プレホスピタル・ケア 1999; 12(3): 50-59)。これにより、救急隊員が精神病患者を扱う事例も確実に増えてくる。
異常興奮
精神分裂病、うつ病、心因反応、譫妄、躁病、ヒステリー、痴呆などが原因となるが、正常人でも暴れることはある。随伴症状として、幻覚、妄想、不安感、焦燥感、躁状態を認めることがある(用語1)。

必要なのは人手である。119番で暴れているのが分かったら出場隊員を増やす。自分たちで手に負えそうもないと判断すれば、警察官の臨場を要請する。

まずは充分な間合いを取りつつ患者の話を聞く。第三者に話を聞いてもらえるだけで興奮が収まる場合がある。患者の話は必ず家族の話の前に聞く。家族が先では、自分をないがしろにされたと暴れる可能性がある。興奮が少しでも収まり救急車に自ら乗ってくれる場合には、なるべく早くストレッチャーに寝かせる。また暴れ出したときに抑制しやすいためである。患者の興奮が収まらずに全く埒があかないときには、隙を見て全員で患者を抑制し車内収容・搬送する。抑制時には患者に「人を殴ると危険」「自分がけがをするから」などと、なぜ抑制するか説明しながら行う(聞いてくれているかどうかは疑わしいが)。抑制によって患者はさらに興奮する。しかし、圧倒的な力でねじ伏せなくてはいけない。大人数で車内に収容し、ストレッチャーのベルトで固定する。

搬送先は精神科病院とする。長期の不眠や外傷が興奮よりも身体的リスクが高いと判断すれば、総合病院へ搬送する。救急外来に患者を送り込んでも、病院側で抑制が完了するまでは帰らずに抑制を手伝うこと。

痙攣
痙攣発作には、先天性と後天性があり、通常先天性のものをてんかんという。てんかんとは脳に起因し再発を繰り返す精神発作または痙攣発作である。通常手足をがくがくさせる大発作を思い浮かべるが、片方の手だけ震えたり、意識が遠くなるだけのてんかんもある(用語2)。後天性では、意識障害を来すものは全て痙攣を起こす可能性がある。

痙攣自体が直接命にかかわることは少ない。しかし、痙攣は脳の低酸素をもたらし脳に確実にダメージを与える。そのため、搬送中には呼吸状態に注意し、搬送後は速やかに痙攣を止めなくてはいけない。

注意すべき痙攣

救急隊が痙攣で呼ばれるのは、熱性痙攣、てんかんの初発発作、成人の痙攣のどれかであろう。通行中に痙攣を起こした人にまわりが救急車を呼ぶこともある。 痙攣の原因は、家族に問診をすることによって推定できる場合が多い。今まで痙攣の既往がなく、成人になって初めて痙攣を起こした場合には、脳内に何らかの病変を抱えていると考え脳外科に運ぶ。痙攣の原因が脳内出血の場合には短期間に呼吸停止を来す可能性もあるので、慎重な観察が必要である。

観察と処置

まず、痙攣中の患者を落下や障害物のない安全な場所に移す。衣服をゆるめて楽にさせ、気道確保と酸素投与を行う。バイタルサインを確認する。瞳孔は通常散大し、対光反射は消失する。ふるえのため聴診での血圧測定が難しい場合には触診で取る。痙攣の強直期には呼吸が止まるため、患者はチアノーゼを呈する。その後呼吸は再開するが、大量の唾液や痰で気道閉塞の危険があるため、口腔内を十分に吸引する。経口エアウエイを挿入すれば気道確保、吸引、口腔内保護が同時にできていい。誤嚥の危険があるのでできれば患者を側臥位にする。ストレッチャーでは手足を他にぶつけないように適度に抑制する。 呼吸が減弱、もしくは停止した場合にはバッグマスクで補助呼吸を行う。心停止した場合には心臓マッサージをし、コンビチューブなどで気道確保を行う。

ヒステリー
ヒステリーの診断は難しいことがある。過換気症候群やパニック症候群は別にして、初診時には身体的な疾患と思わせるものも多い(用語3)。身体症状がヒステリーによって修飾されることもある。まずは他の身体的な疾患を除外した上でヒステリーと判断する。不自然な、大げさな症状であり、神経学的に説明の付かない症状である。また、「満ち足りた無関心(重大な症状の割にそれほど悩んでいるように見えない)」がみられる。

ヒステリーの背景には「疾病利得」が存在する。その本人が意識するしないにかかわらず、症状によって不快な葛藤や心理を意識せずにすむという回避と、症状に逃避することによって現実的支持や利益を得ることをいう。 ヒステリー自体には命の危険はない。

観察と処置

家族や周囲から症状が出現した時の状況や症状の経過を聞く。また、心理的な欲求や葛藤が最近あったかも聞く。バイタルサインを確認しつつ、目の前で起こっている症状を観察する。

ヒステリーと判断しても、身体疾患が隠れていることもあるので、観察は怠らないようにする。搬送時に家族と引き離すだけで症状が治まることがある。

中毒
ここではアルコール、睡眠薬、農薬を解説する。

急性アルコール中毒

問題となるのは、アルコールそのものによる症状、低体温、外傷である。 意識障害が主症状である。患者はよく暴れる(事例1)。その時には全員で抑制する。おとなしくなったと思ってもまた暴れ出すことがあるので、危険のないようにしっかり抑制する。

暴れているうちは生命の危険はない。急におとなしくなったらバイタルサインを確認する。特に、呼吸状態を確認する。処置で最も重要なのは気道確保である。舌根沈下と嘔吐は必発なので、昏睡体位を取らせて搬送する。口腔内に吐物があるときは指で掻き出す。唾液は吸引除去する。チアノーゼがみられたり、パルスオキシメータで90%程度しかないときには酸素投与をする。胃内にまだ酒が残っていると搬送中にも血中のアルコール濃度は上がり症状は悪化するため、慎重な観察が必要である。

酔っぱらいが往来に寝込むと低体温になる。体温のチェックは必須である。毛布などで保温に努める。

ほかに意識障害となる原因を検索する。頭部外傷、脳血管障害など、発症したときにたまたま酒を飲んでいただけという可能性もある(事例2)。頭に外傷はないかみる。瞳孔と対光反射の左右差、麻痺の有無は簡単に検査できる。また、家族や周囲の状況から、他の薬物を服用していないか疑うことも必要である。

もともとアルコール性肝障害のある患者が大量に飲酒し急性増悪することもある。この場合には栄養失調、食欲不振、全身倦怠が根底にあり、それにアルコール中毒が症状を修飾することになる。症状としては低血糖、錯乱、傾眠、手足の震えなどがみられる。一刻も早く病院へ搬送する。

睡眠薬中毒

頻用されるものは、ハルシオン、ユーロジン、レンドルミン、アモバン、セルシンなどである。

現在の睡眠薬は呼吸循環作用が弱く、また強力な拮抗薬(商品名アネキセート)が開発されている。そのため発見時に生きていればその後に死亡することはまずない。だから、救急隊員は搬送に慌てなくていい。一人を観察に張り付けた上で、他の隊員は現場を把握し周辺に問診して精神疾患の既往や自殺をほのめかす言動を聞き出すとともに、通報者とともに飲んだ薬の包装を探し出し、病院へ持参して欲しい。薬剤の名前と量が分かれば治療は容易だからである。飲んでいる薬剤は1種類とは限らない。丹念に探すこと。予後を決めるのは睡眠薬ではなく、一緒に飲んだ他の薬剤だからである。

意識状態を評価する。JCS3桁の患者では、呼吸状態と血圧、体温をチェックする。気道確保を行う。嘔吐の危険があるので、エアウエイは経口よりも経鼻のほうが勧められる。搬送中に意識状態が悪くなるようなら酸素を投与し、さらに悪化するならバッグマスクで補助呼吸が必要になる。

病院では拮抗薬によって一時覚醒させることが行われる。拮抗薬によっても覚醒しないときには睡眠薬以外の原因として治療される。

農薬中毒

農薬中毒は撒布中の事故と自殺企図によるものに分けられる。撒布中の事故は、そのほとんどは対症療法で回復する。自殺企図によるものは、現着時には軽傷でも次第に重篤化することがある。

現着時にバイタルサインを確認し、心肺停止ならばCPRを行う。隊員の一人は、服用した農薬の容器を回収し、種類と服用量を確かめる。心肺停止でなければ症状を観察する。嘔吐は必発なので、誤嚥に注意し昏睡位を取らせて搬送する。

有機リン剤は殺虫剤として数が多い。症状は縮瞳、よだれ、発汗、徐脈、不整脈、痙攣、意識障害である。縮瞳は有機リンの鑑別に役立つ。ラウンドアップは咽頭痛、嘔吐、下痢など消化管症状が主で、特徴的な症状はない。パラコートは急性には意識障害、消化管症状が主で、慢性には肺線維症となり死亡する。パラコートを飲んだことが明らかな場合には、酸素を投与してはいけない。酸素はパラコートの作用を増強させるためである。


用語1:精神科の症状

幻覚:幻聴や幻視など、ないものを知覚するのが幻覚である。精神病による幻覚は「殺してやる」「死ね」という脅迫や虫に追われるなど、ほとんどが本人にとって不快な内容であり、それから逃げようとして興奮状態になる。

妄想:訂正不能の誤った思考である。被害妄想や被毒妄想など、本人にとって恐ろしい場合は興奮するし、無関係の人を襲ったりする。 躁状態:気分が高揚し、何でもできる気分である。病的になると、自分は特別であると考え、遮る相手に暴力をふるうようになる。

用語2:てんかんの痙攣の型 大発作:強直期と間代期がある。強直期とは、全身が弓なりに突っ張っている状態で、間代期にはがくがくと痙攣する。意識は消失している。舌を噛んだり失禁したりする。継続時間は2-5分、発作の間隔も様々である。痙攣後に病的睡眠に入る。

小発作:何の前触れもなく、30秒程度まばたきを止めてぼうっとしたかと思うとすぐ治る。過換気で誘発される。小児に多い。成人になるとほとんどは治る。

焦点発作:脳内に限局性の病変があり、それが焦点となって痙攣を起こす。どこに焦点があるかで症状が異なる。手だけ、足だけが勝手にふるえるが、意識はある。

精神運動発作:運動よりも精神的な症状が出る。唇を鳴らしたり口をもごもごさせながら何かを見つめ服を引っ張るといった、困惑した行動をとる。2分程度で治まる。

点頭てんかん:2歳以下の子供にみられる。頭をがくっとうなだれる。手足を曲げて震え出す。時間は数分。発作は毎日。90%は精神発達遅滞を持つ。

痙攣重積発作:最重症。痙攣が休みなく、もしくは痙攣後に意識が回復しないうちに再発するもの。脳の酸素需要が供給を上回るため、脳細胞は死滅していく。呼吸は停止し、ついで心停止することもある。

用語3:ヒステリーの症状 過換気症候群:若い女性に多い。頻呼吸、頭がぼうっとする、手が痺れる。買い物袋を鼻口に当て再呼吸させる。

ヒステリー発作:人の見ているところで起こる、長時間の痙攣発作。眼球は強く閉じられ、対光反射は正常。怪我はしない。

知覚障害:視野狭窄、失明、聴覚障害。神経支配に一致しない知覚脱出。

運動麻痺:失立、失歩、脱力。麻痺は体幹にいくほど強く、萎縮は軽度。

自殺企図:リストカット、睡眠薬。

退行:混乱、興奮、昏迷。


事例1:酔っぱらい

4月ごろこんなことがありました。酔客らしき初老の男性、ふらつき倒れた。時間は17時ごろで薄暗く、人通りの多いところでした。説得して、病院に行こうと言ってもきかない。

隊員のH君が、ちょっと話したところ、ずいぶん意気が合って彼に任せることにしました。男は路上に座って、私は男の右隣、H君は左隣にしゃがんでいました。と、そのうち男の口調が興奮気味に。あっ!と思ったら、男が腕を振り回しH君の側頚部に「バコッ!」と鈍い音が。殴られちゃったのです。私はすかさず後ろに回って男を羽交い締めにしてました。H君は怒る怒る。「H!あぶないから離れてろ!」私はさらに説得していましたが、そのうち警官が来て、男と話を始めました。

そのとき学んだのは、警官は決して横に並ばない。正面の、そして手の届かない位置で対応していたのです。「なるほど」と関心しました。

さて、男のことですが、どうして急に怒ったのか、帰ってからHに聞きました。彼は、男が教師をしていると言うんで、「ほぅー、先生なの。校長先生かい?」と言ったそうです。そしたら、突然腕がとんできたと。

旭川市消防本部 救急救命士 玉田伸二


著者考察
事例1から学ぶ、異状者の対処のしかた
  1)疑うこと。相手の言動から、酔っぱらいや異状者を早く見極める。
  2)間合いを取る。異状を認めたら、不測の攻撃に備えて間合いを十分に保ち対処する。
  3)複数で対応する。決して一人にはならない。
  4)不用意な言動はしない。怒らせない。
  5)警察に臨場を要請する。
      ・手に凶器様の何かを持っているとき
      ・救急隊の人員では制止できないとき
      ・傷病者に不審な点があるとき,喧嘩、事故、傷害、薬物など。

事例2:関係者の不審な行動

「繁華街で路上に50歳位の男性が意識がなく倒れている」真冬の夜中に突然起こされ時計を見たら午前2時13分。通報要請者は通信員が聴取するも名乗らない。不審に思いながら急性アルコール中毒と低体温を考え出動した。

雪の降る現場に到着したところ人影はなく、人が歩いた形跡もないため患者の検索活動を実施した。間もなく依頼場所の反対方向から女性が「こっちこっち」と走ってきた。声のする方を見ると患者が男性2名により引きずられてきた。

長時間雪の中にいた形跡は認められなかった。車内に収容するため仰臥位にしたところ顔面は腫れぼったく、チアノーゼ(+)、JCS300。観察を継続する傍ら、詳細について関係者に聴取しようとしたところ、「関係ないからお願いします」というだけで立ち去ろうとする。

不審に思い警察官が到着するまで何とか引き留めなければと思い、質問を続けたが要領を得ない。車内での観察状況報告では呼吸不規則で12回、SpO2 86%、対光反射(-)、瞳孔左右差(+)、血圧触診で240mmHg、脈拍は硬く72回、体温は38.8℃、外傷(-)。アルコール中毒では昏睡、血圧低下、顔面蒼白、心機能障害がみられる。ところが、観察結果は昏睡以外の項目は正反対であり脳疾患を疑った。血圧上昇防止のため頭部高位と過換気を指示したものの、関係者の不審な行動が気になり、警察官の到着を心待ちにしながら質問を再開した。2時22分に警察官が到着、警察官に引き継ぎ病院に向かった。病院での検査結果は広範囲な脳出血であった。

今回の救急事例では、通報内容と異なる事態が発生したため、初動体制から戸惑いがあったこと、また状況把握のため、不自然な態度をとる関係者に隊員を張り付ける必要があったことが収容時間の浪費につながった。患者を守る意味では、今回の症例での救急隊の取った行為は、患者に不利益を与えたのかも知れない。これからは、今回の経験を生かし救急業務の円滑化のために、通報内容から判断し積極的に消防隊などと同時出動体制の確保が必要であると痛感した。

留萌消防組合消防本部 救急救命士 三好正志


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