OPSホーム>投稿・報告一覧>救急隊員のための基礎講座3(1999/6月号)小児科の救急

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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


救急隊員のための基礎講座

第3回 小児科の救急

前回の産科の講義を受けて、今回は小児科の講義を行う。後段では被虐待児症候群を取り上げて救急隊の注意を促すことにする。

1 小児の特徴

1)小さい

新生児は身長50cm、体重3kg。それから大きくなっていく。身長体重だけでなく、その中にある臓器も全てコンパクトに作られている。

2)進行が早い

さっきまで元気でいたのに、急激に症状が悪化することを経験する。

3)回復力が強い

脳挫傷を受けても失った機能が他の脳細胞により回復する可能性が大きい。心停止に陥っていても、完全社会復帰する可能性は常にある。あきらめないこと。

2 観察の要点 1)機嫌

ものを言えない小児では、症状の軽重を機嫌で判断して誤ることはない。どんなに親が慌てふためいていても、機嫌良く笑っていれば心配は要らない。機嫌が多少悪くても食事の量が変わらなければ問題は少ない。不機嫌ですぐ泣き、おっぱいも欲しがらないのなら何らかの疾患が隠れている。

2)心拍数と血圧

正常でも年齢が若いほど心拍は速く血圧は低い(表1)。年齢によりだいたいの見当を付けておくと大騒ぎしなくて済む。心拍数でも血圧でも、高いことより低いことのほうが危険である。それは、低いことは心停止に近いためである。心拍数60以下では小児科ではとても危険な状態である。頻脈では年齢により異なるが、およそ170以上だと危険な徴候である。

心拍数は上腕動脈か股動脈に触れて測定する。血圧は乳児だと正常でもうまく測れないことがある。その場合には、心拍数が正常ならば血圧も正常範囲にあるとみなして良い。

3)呼吸

回数と呼吸の様子を観察する。正常では腹式呼吸である。呼吸数が少ない、もしくは止まっている場合はすぐ蘇生処置をする。逆に呼吸回数が多いのは、呼吸困難があることを示す。何らかの異常呼吸が観察できるだろう。さらに呼気と吸気の長さを見る。正常は呼気1に対して吸気は1〜2である。呼気が異常に長ければ喘息などの閉塞性肺疾患、吸気が異常に長ければ上気道閉塞が考えられる。

4)体温

小児の体温は高い。37℃位で平熱である。

3 症状と疾患 1)呼吸困難

a. 観察

「息が苦しい」とは少なくとも幼稚園児になっていないと口に出せない。年齢の小さい子ではこちらが見て判断しなくてはならない。

呼吸回数をチェックする。頻呼吸になっているうちはまだ良いが、呼吸回数が極端に低下していると、それは呼吸中枢まで異常をきたしたと考えられるため、非常に危険である。呼吸は規則的かチェックする。不規則な場合も呼吸中枢の異常が窺われる。

呼吸は楽に行われているか。何とか呼吸しようと力を込める呼吸を努力呼吸という。そのうち、息を吸うときに腹部が持ち上がって鎖骨周辺や喉が落ち込むのをシーソー呼吸という。原因は上気道閉塞、異物や扁桃・喉頭蓋の炎症が多い。 喘鳴は呼吸時にヒューヒューと音がするもの。吸気時に音がすれば上気道の閉塞が、呼気時に音がすれば下気道の閉塞が原因である。 指先や唇のチアノーゼは必ず観察する。汗をかいているかも見る。

b. 処置

原因を突き止めることが第一。考えるべきは喘息と異物。異物に関しては月を改めて講義する。 喘息では、一般成人と何ら変わるところがない。患児の望む姿勢をとらせる。年長になれば、起きあがって起座呼吸をしていることが多い。その時はそのままの体勢で病院に搬送する。ベッドに移動するときでも寝かせてはいけない。寝かせると肺がうっ血するのと腹部臓器で横隔膜が押されることで、さらに呼吸が困難になる。

酸素投与はチアノーゼが出ている場合には躊躇なく行う。チアノーゼがない場合には酸素を投与しなくてもよい。酸素投与によって呼吸が止まるのではないかと心配する隊員がいる。慢性の呼吸不全、例えば老人の肺気腫ではそういった心配は必要でも、急性の呼吸困難の場合には酸素投与によって呼吸が停止する可能性はまずない。喘息では、呼気時に一致して外から胸郭を押してやる「胸郭圧迫法」(用語)が有効とされている。手技は簡単で危険もないことから勧められる方法である。痰や唾液が呼吸の妨げになるため、口腔内の吸引も行う。

吸気時にヒューヒューし、嗄れた声なら喉頭炎や喉頭蓋炎が考えられる。これらは急激に悪化し、窒息の危険性がある。酸素を投与し、必要ならばバッグマスクで補助換気を行う。 呼吸が減弱している場合や無呼吸の場合には補助呼吸を行いながら口腔内の検索を行う。口腔と鼻腔の吸引によって呼吸が再開することもある。

呼吸停止ではバッグマスクで人工呼吸を行う。マスクは小児の顔にあったものでないと換気できない(図1)。通常のバッグマスクよりジャクソンリース回路(図2)を使用したほうが高濃度の酸素を投与でき有利である。救命士ならラリンゲアルマスクを入れる。サイズは新生児では#1、その他の小児では#2を選択する。結構大きな子供であっても#2で良好な換気ができる。

2) 発熱

a. 観察

小児でも38℃を越えれば異常である。熱が出れば、そのほかの症状、頭痛とか倦怠感などが付いてくる。さらに高熱になれば戦慄し体が小刻みに震える。意識が混濁し、うわごとをいうようになったり幻覚が現れたりする。発熱したからすぐに生命に危険が及ぶわけではない。訴えで多いのは熱性痙攣である。

原因としては感染症が第一。しかし、どんな疾患でも熱は出る。リウマチであっても白血病であっても出る。また、同じ値だけ熱が出ても、子供がぐったりしている場合と、元気に遊んでいる場合がある。機嫌のいいときは問題ないと考えよう。

b. 処置

悪寒がし戦慄しているときには十分に暖める。それが過ぎ体が紅潮し汗が出てきたら熱を発散させる。氷枕はよく行われるものの熱の発散効果はない。それより動脈が体表面に出ている部位、鼠径部、腋窩、側頚部に氷枕を当てることによって有効に冷却することができる。しかし、小児では嫌がったり面積が狭かったりで無理な場合もある。

3) 頭痛

a. 観察

頻度は少ない。頭痛と訴えられないことも原因であろう。感染症、血管障害、腫瘍が頭痛の原因となる。心因性(心の病気)のものもたまに経験する。幼少児なら、不機嫌に泣いたり、頭を叩いたりする。泣き方は甲高い声になる。

発熱を必ずチェックする。意識障害や痙攣を伴えば中枢神経系の病変である。また、子供であっても頭蓋内出血を起こすことがある。頭痛の起こり方は急激か、何回も経験があるのか、高血圧と診断されていたかも問診する。

b. 処置

安静にして楽な姿勢をとらせる。頭痛よりも、随伴する症状が危険となる。高熱があれば冷却をする。嘔吐があれば誤嚥しないように昏睡位をとらせ、口腔内を吸引する。

4) 痙攣

a. 観察

痙攣には、発熱に伴って発症する熱性痙攣と、脳の病変によって発症するてんかん、その他の原因で発症する症侯性痙攣がある。また、ヒステリーや泣き入りひきつけも経験する。

熱性痙攣は主に6カ月から5歳までの小児が38℃以上の発熱を起こし、その熱が上がりかけたときか下がりかけたときに15分以下のけいれんを起こすものである。熱のピークでは通常痙攣しない。1歳以下、家族歴のあるのも、女児が再発しやすい。発生頻度は10%と高率である。体温を頻回に計る。

てんかんの場合には熱と関係なく、家族での経験もないことが多いが、一概にはいえない。どんな状況でもあり得る。てんかんでは痙攣を起こしたあとにすやすやと眠ったようになる時期がある。これは病的睡眠であって、ゆすっても起きることはない。

ヒステリーは年長の女子に多い。人目を引くオーバーかつ長時間の痙攣をきたす。過呼吸発作とともに起こすこともある。実際に診察してみるとだまされることがままある。

泣き入りひきつけは息止め発作とも呼ばれ、無酸素痙攣の一種である。1歳以前に現れ小学校入学までには消失する。怒り、欲求不満、恐怖にかられ激しく号泣した子供が呼気とともに呼吸が止まりチアノーゼを生じるか顔面蒼白となる。意識は低下し、脱力するか強直状態となる。20秒以内に再び泣き出す。全く後遺症も残らない疾患なので、心配はいらない。

何処がけいれんしたが聞く。親によっては悪寒戦慄を痙攣と思い慌てることもある。通常は体全体がけいれんする大発作であるが、手だけ、顔だけという場合には、病巣の判断に役立つ。次に、痙攣の持続時間と回数を聞く。通常は2分以内に治まるものだが、それが10分以上続くようならかなり重症の疾患を抱えている。救急隊の目の前でけいれんを起こしているのも同様に重症である。

b. 処置

衣服をゆるめ、昏睡位をとらせる。音や接触などの刺激を避ける。痙攣によりあちこちにぶつかってケガをすることがあるので、危険物はどける。よく舌を噛まないように口にタオルを入れる場面がテレビで見かけるが、換えって窒息の危険が増すだけなので何もしなくて良い。痙攣中は意識は通常消失している。呼吸も止まることが多い。チアノーゼがある場合には補助換気をする必要がある。

5) 意識障害

a. 観察

意識障害は広範囲の脳のダメージが原因で起こる。そのため、生命に危険なあらゆる症状が出現する可能性がある。すぐ蘇生を行える体制で搬送する必要がある。脳の局所病変と代謝性疾患が原因となる。またいかなる病気でも末期には意識障害をきたすことが多い。

代謝性疾患で代表的なのは糖尿病である。既往がなく、意識障害が初発症状のこともある。薬物による意識障害、とくにシンナーではその匂いから判断は容易だが、何かわからないものを飲み込んで意識消失をきたす場合もある。

低体温は見逃しやすい。小児は体表面積が大きいため、すぐ体温が下がる。

b. 処置

意識障害があるときには嘔吐により誤嚥を容易にきたすので、昏睡位で搬送する。また、昏睡位は舌根沈下による気道閉塞にも有効である。心電図をモニターし、心拍数を監視することも忘れてはならない。パルスオキシメーターは指に挟むのではなく手のひらを大きく挟むと波形を拾いやすい。年少ではJCSは使いづらい。しかし、基本的に刺激を与えてどう反応するかを見て、意識障害の程度を把握する。

6) 被虐待児症候群

a. 概念

長期間にわたり反復して子が親から虐待行為を受けるもの。虐待とは世話する人によって引き起こされた子供に有害なあらゆる状態をいい、親が子供を嫌っているかは問題ではない。死亡は医療機関で10%以上あり、受診時だけでなく退院後に多い。再発は40%にみられる。大人になったときにわが子に同様の虐待をするものが30%にみられ、愛された経験の有無がその子の一生を決めるといえる。

患者は病院を転々とするし、親は医者をうまくだます。救急隊は最初に患者家族と接し、しかも現場を確認できる。少しでも怪しいと感じたら医師に伝えて欲しい。それが子供を救う可能性につながる。

b. 発生機序

虐待では、以下の4条件が常にそろっている。これらの一つでも好転できれば虐待は軽減する。

1)虐待しやすい親があり、精神疾患や知的障害もあり得るが、子供時代に愛されていないことが多い。

2)生活にストレスが累積し、育児負担、経済不安、夫婦不和、葛藤が多い。

3)社会的精神的に孤立し、育児の相談者や援助者がいない。

4)親にとって望まぬ子や育てにくい子である。

c. 症状

身体的虐待、養育拒否、心理的虐待、性的虐待に分類される。成長障害は養育拒否で最も大きく、心理的虐待では低身長がおきやすい。子供は不潔で衣服は汚れ季節やサイズが合っていない。常に怯えて不安で抑うつ的で、表情に乏しく目だけで周囲を警戒する。見捨てられる不安から大人にいやらしく媚びる。

皮膚症状としては、体罰に用いられた物の形をした皮下出血斑、タバコやアイロンの痕がみられる。骨折はによる円形の熱傷や鞭などによる皮下出血が多い。他人に知られないように、手や顔などの露出部を避ける傾向がある。骨折は四肢や肋骨、頭蓋骨に見られる。これも陳旧性の骨折がレントゲン写真によって確認できる。死因の半数は頭部外傷、特に硬膜下血腫が多い。殴られなくとも頭を揺さぶるだけでも出血は起こる。この場合には上腕や胸部に捕まれた痕が残っている。腹部は殴られ蹴られることによって臓器が損傷する。肝破裂、脾破裂、腸穿孔等がおき、全て死因となる。

d. 親の特徴

親は、子供が死んだとき、もしくは死にそうな時しか救急車を呼ばない。呼んでも搬送拒否をすることもある。親の説明は曖昧かつ矛盾に満ちている。1カ月で寝返りする、ベッドから落ちる、よく転ぶ、たくさん食べるなど。外傷は子供自身がした、もしくは自分以外の誰かがやったと言う。重症なのに救急隊を呼ぶのが遅れる。親は子供の症状の程度を気にかけておらず、見通しの質問もしない。重症で入院を嫌がり、すぐに子供を連れて帰ろうとする。

e. 病院の対応

少しでも被虐待児と疑われる場合には理由を付けて入院させ、虐待している親と引き離す。虐待の可能性がある場合には親元への退院はさせられない。しかし、現実には親権を主張してむりやり引き取る親がほとんどであり、法的、社会的整備が求められる。

小児の心拍数、呼吸数、収縮期血圧

年齢心拍数(/分)呼吸数(分)血圧(mmHg)
生後1日14035-6060
7日1303580
6カ月1203090
6歳10025100
12歳9020115


図1
小児用マスクのいろいろ
新生児用はドーナッツ型をしている。新生児は鼻が低くて頬が高いためこれでも空気が漏れない。生後3カ月くらいから見慣れた形のマスクを使う。
図2
バッグマスクとジャクソンリース回路
バッグマスクは病院で用いているアンブ社のもの。これに小児用のマスクをつけると、バッグの重さが直接子供の顔にかかりとてもやりにくい。ジャクソンリース回路ならバッグが離れているので操作が楽。


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