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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


プレホスピタル・ケア 13巻5号 19-21

足背動脈を聴取する血圧測定の問題点

宮越俊明1、菊地和実1、玉川 進2

1 北海道 旭川市南消防署 豊岡出張所
2 旭川医科大学第一病理学講座

著者連絡先
宮越俊明:みやこしとしあき
旭川市南消防署 豊岡出張所:救急救命士
078-8234北海道旭川市豊岡4条3丁目
tel 0166-31-4603 fax 0166-31-4631


はじめに 血圧は、呼吸、脈拍、体温と並びバイタルサインのひとつで、傷病者の循環動態を知る上で重要な情報の一つである。児島ら1)は前腕と下腿での血圧測定を行い、上腕と比較することによってその有用性を報告している。しかし同時に児島ら1)は、下腿での血圧測定ではコロトコフ音の聴取が難しいことを指摘している。

今回私たちは、血流確認のために超音波血流計を使用して血圧測定(ドップラー法)を行い、足背動脈での聴診法による血圧測定は可能か、ドップラー法と聴診法で最高血圧が一致するか検討を行った。

対象と方法 本研究は旭川厚生病院において、救急救命士生涯実習時に行った。

年齢11歳〜82歳の同病院入院患者男性20名に対し、医師から本研究の目的の説明を行い、本人の同意を得て行った(表1)。

仰臥位で3分間安静を保った後、上腕聴診法、上腕ドップラー法、下腿聴診法、下腿ドップラー法を行った。上腕聴診法とは上腕に標準カフ(上腕用13cm幅)を卷き上腕動脈を聴診するもので、上腕ドップラー法とは上腕聴診法の後に肘窩でドップラープローベを上腕動脈に当て最高血圧を測定するものである。

解剖図 拡大

また、下肢にあっては下腿部に標準カフを卷き、足背動脈を聴診する方法を下腿聴診法とし、その後同部位をドップラーを使用し測定を行うものを下腿ドップラー法とした(図1)。

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使用機材は、水銀血圧計、ダブルヘッド型聴診器の膜型部分、ドップラー(林電気株式会社・ES-1000SP II)を使用した(図2)。

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統計処理にはpaired t test, Fisherの直接比率検定法を用い、p <0.05を有意差ありとした。

結果

結果を表2に示す。

上腕での測定では、20名中19名が上腕ドップラー法で測定が可能であり、全体的に収縮期血圧は上腕聴診法での測定の方が高かったが、双方の有意差はなかった。

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表2拡大

足背動脈での下腿聴診法は難しく、20名中9名が測定不能であった。下腿ドップラー法では2名が測定不能で、下腿聴診法より測定不能者が少なかった。測定されたもので比較すると、下腿聴診法の方が低く測定されたが、双方の有意差はなかった。

測定不能者の比較では、上腕聴診法に比べ下腿聴診法で測定不能者が有意に多かった(p<0.05)

考察 今回の研究では、上腕及び下腿とも聴診法とドップラー法での測定値は有意差がなかった。しかし、足背動脈では、下腿ドップラー法では血流が証明され血圧測定が可能であったのに対し、下腿聴診法ではコロトコフ音が聞こえづらく、上腕動脈と比較して有意に測定不能者が多かった。この理由については、次のことが考えられた。

(1)足背動脈ではコロトコフ音が小さく聴診されない。
(2)足背に聴診器の膜が密着しないため、隙間からの雑音を拾い聴診できない。
(3)聴診器を強く押し当てたため、血管をつぶし血流を止めてしまい聴診できない。
(4)聴診器の性能または測定者の聞き取りが悪い、使用機材(ドップラー)取り扱いになれていない。

これらの問題を解決するためには、次のような工夫が必要である。

(1)下腿聴診を行う場合、後脛骨動脈で行う。児島ら1)は足背動脈だけでなく後脛骨動脈でも触診を行い、51例全例で血圧測定を成功させている。
(2)聴診器はベル型を使用するか、または膜型でも膜が密着するように小児用を使用する。今回の研究では膜型ヘッドを用いた。これは救急隊員の多くが膜型のみのシングルヘッド聴診器を持っていることによる。膜型ヘッドでコロトコフ音の聴取が不能な場合にもヘッドの選択により聴取が可能となる場合がある1)。
(3)聴診器は皮膚に適度に押し当てる。
(4)パルスオキシメータを使用し脈波の出始めで測定する2,3)。この方法は聴診法が不可能な場合に有用である3)。また、個々の救急隊員が普段から血圧測定に熟達する必要がある。

足背動脈や後脛骨動脈の聴診は無理でドップラー法を用いるか、動脈拍動を触知して測定するのが通常4)である。今回行った足背動脈の聴診での血圧測定は聞き取りが悪く、その方法を使用して救急車内などで測定をした場合、エンジン音、振動及び騒音などで聴診法は困難が予想される。よって、足背動脈を用いた聴診法で血圧を測定することはできる限り避けること、足背動脈で血圧測定を行う場合は触診法を用いるべきと考える。

まとめ

足背動脈での聴診法による血圧測定は可能であるが、測定不能が20例中9例であった。足背動脈での聴診法は困難が予想されるため、血圧測定には触診法が好ましい。

文献

1)児島広勝、杉浦康裕、鈴木晶、他:救急現場における、前腕・下腿を用いた血圧測定の可能性について。プレホスピタル・ケア 2000;13 印刷中

2)稲田英一:血圧計とその測定原理。救急医療ジャーナル 1999;12(1): 48-51

3)桑野正行、斎藤拓哉、玉川進:パルスオキシメーターによる血圧の測定について。プレホスピタル・ケア 1999;12(1): 47-49

4)月岡一馬:血圧の測定部位は?。救急マイスタディII 1995;3(5):38-39


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06.10.28/5:24 PM