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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


自殺企図を繰り返し、3度目に死亡した自損行為の症例


大塚貴久、川井博士、高田重信、菊地貴代和、鳥井英樹、木村 学、工藤朝生
南空知消防組合 長沼支署

連絡先
 大塚 貴久:おおつか たかひさ
 南空知消防組合長沼支署:救急救命士
 所属所在地:北海道夕張郡長沼町本町
       北1丁目2−17
 電話:01238−8−2819
 ファックス:01238−8−0009


はじめに
当支署は北海道のほぼ中央部、空知支庁の南部に位置し、南空知消防組合を他3町で構成している。平成10年5月より救急救命士活動を開始し、昨年の救急出場に対する、自損行為の割合は約2.1%で年々増加傾向にある。今回、1年半の間に3度の自損行為を繰り返し3度目に死亡した症例を経験したので報告する。


事 例
 年齢(50歳) 性別(男性)
出場1:平成10年12月、奥さんから「夫が居間で倒れている」と救急要請。現着時、男性は居間で仰臥位の状態、JCS−10、脈拍60回/分、血圧149/109mmHg、Spo294%。本人は救急隊の問いかけに協力的ではないが、奥さんは落ち着いており、精神科に通院中で、普段から降圧剤と精神安定剤を服用し、今日は薬の効きが悪く謝って量を増やして飲んだらしいので大げさにはしたくないなことなどを聴取する。病院には服用した思われる薬を持ち搬送する。診断名は急性薬物中毒だったが現場で本人には自殺企図かは確認しなかった。
出場2:平成11年7月、奥さんから「浴室で洗濯洗剤を飲み嘔吐し倒れている」と救急要請。現着時、男性は浴室に腹臥位で洗剤の泡状の物を嘔吐しておりJCS−1、脈拍114回/分、血圧102/81mmHg、Spo296%であった。数年前より、うつ病で地元、近隣の精神科に通院しているが、社会的地位のある立場のため隣、近所には知られたくないこと、現在は入院中だが自宅外泊中で目を離したすきに洗剤を飲んだことを聴取した。本人は死にたいと泣くだけで聴取できず、周囲の状況も洗剤の他は特定できなかった。地元、入院中の病院に洗剤、嘔吐物を持ち搬送する。搬入後、担当医師から前回の搬送も自殺企図だったと知らされる。診断名は急性薬物中毒で洗剤の他にシャンプー、ヘアースプレーを飲んでいた。
出場3:平成12年2月、奥さんから慌てた様子で「外出から戻ると居間で首を吊っている」と救急要請。男性は居間に仰臥位の状態で、首を吊ったビニールロープは切断されていた。JCS300、呼吸なし、脈拍なし、瞳孔左右6mm、心電図心静止状態で下顎に軽い硬直、右手背から前腕部にかけて数個所をナイフで切った切創があり、数時間はたっていると思ったがストーブが横にあり体は温かい。奥さんの動揺は激しいため上手く聴取できない。CPRを実施しながら、途切れ途切れだが朝から本人を残して外出し夕方帰ると居間で首を吊っているのを発見したこと、今回も入院中で自宅外泊して間もなくであることを車内収容までに聴取する。途中スミウェイWBを挿入するが喉頭蓋付近で抵抗があり中止しCPRを継続して収容開始するが廊下狹隘個所があるため近所の住民に協力を要請する。現着から現発まで17分を要した。病院で処置後、死亡確認された。
 
考 察
(1) 守秘義務
傷病者、族の秘密は口外してはならないが活動中には難しい場合もある。今回車内収容時、病院搬入時は病態、処置などを周囲の目にさらしてしまった。
今後の課題
_通常の救急出場(3名乗車)で出来ることは現場到着前、危険が無ければピーポサイレンを早めに停止して、付近の住民に現場を特定しずらくする。            
_救急隊員の増員または消防隊の応援を要請
することにより家族、関係者以外を排除でき
迅速かつ的確な搬送を行える。結果的に周りから病態、処置等を判らないよう配慮する。

(2) 情報収集
自殺企図現場では家族の動揺が激しく正確な情報を把握しずらいため、現場処置、車内 収容の時間浪費につながる。今回は本人から
の聴取が難しく、社会的地位や背景を考慮せずに、奥さんからの情報を鵜呑みしたため、
自殺企図に結び付けることができなかった。
 今後の課題
_自殺企図者の搬送については、台帳登録することにより覚知時点で既往歴等を把握できるため通報内容により救急隊の増員、または消防隊を出場させる。
_応援消防隊は傷病者と家族の距離をとり、動揺を鎮め、状況を聴取することができる。救急隊は処置等に専念でき収容時間の短縮につながる。            
(3) 接遇              
緊迫している現場では家族の感情的な言動等
に注意がある。短時間に応急処置・救命処置
を行うことにとらわれてしまったため、傷病者、家族に対するメンタルケアは十分でなかった。  
 今後の課題              
_救急隊は病院とは違い、非常に短い時間しか傷病者や家族と接触することができない。当然、十分なメンタルケアは出来ないが救急隊の自信のない言動、家族を失望させる言動などは避けなければならない。信頼される救急隊であるため冷静、沈着な行動、言動が必要である。            
_精神科スタッフと連絡を密接にすることにより繰り返す自殺企図者やその家族に対して適切な対応が出来るようにしなければならない。                 
 
結 語
精神科疾患が原因で自殺企図を繰り返す傷病者の搬送を経験した。自殺現場は救急隊にとって特別の配慮が必要であるとともに、傷病者や家族に対する適切な対応が求められる。



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