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原著・投稿

マニキュアがパルスオキシメーターに与える影響

北海道・旭川市消防本部:著者連絡先:〒070−0843 北海道旭川市大町3条5丁目 旭川市北消防署
   西山秀世・桑野正行・斉藤拓哉・沢田章秀・児島広勝
旭川厚生病院麻酔料
   玉川 進

はじめに

 救急隊員の行う応急処置が拡大されて6年が 経過した。その間、パルスオキシメーター(以 下POM)は、傷病者の呼吸・循環に関する重 要な情報を非侵襲的にモニターできる機器とし て救急現場において広く活用されてきた。

 POMは救急現場への導入時点から、マニキ ュアにより酸素飽和度が誤って表示される可能 性が指摘されており1)、またマニキュアの影響 を避けるためにフィンガープローブ(以下プロ ーブ)を横ばさみにする方法をすすめる総説も ある2)。しかし実際にマニキュアを塗布して検 討した報告は、調べた限りでは見当たらない。 そこで、マニキュアがPOMに与える影響とプ ローブを横ばさみにすることの有用性について 検討した。また、救急車内に積載してある物品 でマニキュアを除去するにはどの方法が最良か 検討を試みた。

方法 研究1:マニキュアの色がPOMに及ぽす影響 とプローフを横ばさみにすることの有用性に ついて

 マニキュアはカネボウ社製の11色を選択し た(塗色方法:表1参照)。

表1拡大

健康な救急隊員3 名を被検者として、左手の第1指から第5指ま でマニキュアを塗布し、プローブを正規に装着 する群、マニキュアを塗布せずにプローブを横 ばさみにする群、マニキュアを塗布してプロー ブを横ばさみにする群の3群について検出数値 と脈波形を測定した。塗り方は指尖に向かって 3回塗りとした。相対する右手の手指には塗布 を施さないで測定し、それを対照群とした。対 照から±3%以上の開きがある検出数値を異常 値とした。測定には日本光電社製のライフスコ ープL(BSM2101、測定精度は80%〜100%の 範囲内指用で±2%以内)を、センサーは同社 製のプローブ(TL101S、使用時間約500時間) を用いた。

研究2:マニキュアがPOMに及ぽす影響、特 に製造会社間の比較

 健康な救急隊員3名を被検者とした。6社 (資生堂、シャネル、花王、エスティローダー、 コーセー、カネボウ)からそれぞれ5色(エス ティローダーのみ3色)を選び、各被検者の左 右の手指5本ごとに塗布し、検出数値を記録し た(塗色方法:表2参照)。

表2拡大

対照は塗布を施す 前に測定した各手指の数値とした。対照から± 3%以上の開きがある検出数値を異常値とし た。測定にはフクダ電子社製DS−500(測定精 度は70%〜100%の範囲内指用で±2%以内) を、センサーはNELLCOR社製プローブDS− 100Aを用いた。

研究3:マニキュアの除去方法について

 研究2に引き続き行った。各手指のマニキュ ア塗布部に1cm2の正方形を作図した。救急車内 の消毒用70%エタノール、0.5%ヒビテン水溶 液、2%キシロカインゼリー、ウェルパス及びマ ニキュア除光液(資生堂)の6種類をそれぞれし み込ませたガーゼでこする方法と、ハサミの刃 で削り取る方法について、正方形の範囲内のマ ニキュアを除去する時間について測定した。

 統計処理は研究1・2では一元配置分散分析、 t検討を、研究3ではKruskal−Wallis検定、 Mann−Whitney検定を用い、P<0.05を有意とした。

結果  研究1の測定数値を図1に示す。

図1拡大

対照群でも 第1指から第5指までの手指別で検出数値に1 〜2%の差が認められた。対照 群と比較しマニキュア塗布群で は、検出数値は有意に上昇した (p=0.0013,図1)。異常値は全33 指中1指に認められた。銀色、 銀色ラメ入りでの2例で検出数 値の安定までに不安定な状態が 認められた。脈波形は、マニキ ュア塗布群で、対照群に対し振 幅の増加が15指中10指に、減少 が5指に認められた(図2−(1) (2))。横ばさみの装着では、発 光部と受光部の正しい位置への 装着が困難であった。対照群と 比較して横ばさみ群では検出数 値は有意に上昇し(p=0.0012)、 マニキュア塗布横ばさみ群では さらに上昇した(p=0.0004)。マ ニキュア塗布横ばさみ群での異 常値は21中8指であった。脈波 形ではノイズが認められた(図2−(3))。

図2拡大

研究2の測定数値を表2に示す。対照群でも 第1指から第5指までの手指別で研究1同様1 〜2%の差が認められた。

同じ色でも会社間で 色合いが異なっていた。資生堂黒色で対照 97%に対し93%を、シャネル紺色で対照97% に対し94%を示した。異常値は全28指中2指 に認められた。黒色と白色の2指で検出数値の 安定までに不安定な状態が認められた。会社間 で重複の多かった色を図3に示した。検出数値 の増減と会社間との間に一定の傾向は見い出だ せなかった。

図3拡大

 研究3の測定結果を表2中に示す。

除去方法 拡大

除去方法 は除光液が最も早く、以下ウェルパス、ハサミ、 消毒用エタノールの順であった。ヒビテン液、 キシロカインゼリーでは除去不可能であった。 各方法間では有意差が認められた(p=0.0027)。

会社間での除去時間 拡大

除去の時間には会社によっての有意差は認めら れなかった。

考察  吸光度は、散乱がなければ吸光物質の濃度と 厚みに比例する。これがLambert−Beerの法則 であり、POMの測定 原理である3)。酸化ヘ モグロビンと還元ヘモ グロビンの吸光係数が 異なることから、2つ の波長の光を当て吸光 度を測定することによ り、酸化/還元ヘモグ ロビンの比率を計算す ることができる3)。

 研究1では同じマニ キュアを塗布しても被 検者により検出数値に違いが見られた。黒色塗 布において被検者Aで100%の値を示したが、 他では見られなかった。研究2では同じ色でも 会社により検出数値が異なった。これらから、 マニキュアが及ぼす影響の予測は困難と考える べきであると思われた。

 マニキュアで検出数値が変化するのは、マニ キュア塗布により指全体の吸光度が変化するの が第1の原因と考えられるが、会社と色が同じ ならば吸光係数も同じはずで、研究1のばらつ きが説明できない。第2の原因として、発光部 からの光がマニキュアに遮られることにより、 酸化/還元ヘモグロビンの吸光度を測るための 透過光の強度が不足したため、測定誤差につな がったと考えられる。ただ、研究1・2を通し て異常値を示したのは58指中3指で5.1%にと どまり、また脈波形も表示していたことから、 マニキュアを付けている傷病者であってもまず プローブを装着し、検出数値を確認してから、 他の手指のマニキュアを除去し、プローブをつ け替えるべきであると思われた。

 プローブを横ばさみにすることにより検出数 値が上昇する理由はわからないが、装着の困難 性が否めない。またマニキュア塗布横ばさみ群 の異常率は38.0%となることから、用いるべき でないと思われた。

 マニキュアの最良の除去方法は、救急車に除 光液を積載し、それを用いることで、除光液が ない場合はまずウェルパスを考えるべきである と思われた。消毒用エタノールも時間は要する が除去は可能である。なお、ハサミによる除去 は、マニキュアのみならず爪の一部も削るので 推奨はできないが、他に有効な手段がない場合 に用いるべきであろう。

まとめ 1 マニキュアのパルスオキシメーターに与え る影響を検討した。

2 マニキュアはパルスオキシメーターの検出 数値に影響する。また、その色と検出数値に 関連は見られなかった。したがって、マニキ ュアが及ぼす影響の予測は困難であった。

3 手指に対し横にはさむ方法は、装着の困難 性、検査値の高い異常率から用いるべきでな い。

 マニキュア対策としてイアープローブを用 いるなどの工夫は当然である。しかしながら、 フィンガープローブを用いて測定する際はマ ニキュア対策として、救急車に専用の除光液 を積載して用いることが最良の方法である。 除光液がなければウェルパスを用いる。

【文献】
1)山越芳雄,朝日信夫:応急処置別救急活 動要領等検討委員会報告書.消防庁, 1992,PP12−15.
2)中溝徳夫:パルスオキシメーター.救急 医療ジャーナル1996;4(21):54−58.
3)青柳卓男,鵜川卓二:パルスオキシメー ターの構造と原理.Clinical Engineering 1996;17(2):102−110.
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06.10.28/4:36 PM