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プレホスピタスケア「事例」再投稿

急性喉頭蓋炎による窒息の1事例


旭川厚生病院麻酔科
玉川 進

著者連絡先
玉川 進:たまかわすすむ
旭川厚生病院麻酔科:医長
078-8211 旭川市1条24丁目
・ 0166-33-7171
Fax 0166-33-6075

1. はじめに

急性喉頭蓋炎は細菌感染によって生じる喉頭の炎症性疾患の1つである。症状の始まりは咽頭や喉頭の痛みが多く、さらに進行すると吸気時の呼吸困難を訴える。そのまま症状が進行すると窒息死に至る1)。今回私は前医の元で窒息を起こし、救急隊員により病院間転送されてきた急性喉頭蓋炎の事例を経験した。この事例を報告するとともに、 救急隊が知っておくべき処置について考察を加えた。 2. 事例 60歳、男性。
元来健康であった。17時、勤務中に左咽頭痛を自覚した。疼痛は徐々に増加した。18時に帰宅。うがいにより左咽頭痛は軽減せず、さらに右咽頭痛と左頚部の腫脹も自覚したため19時30分に夜間当番医院を受診した。診察中に呼吸困難が出現した。20時40分呼吸停止、バッグマスクで補助換気を行ったものの心停止となったため救急隊に出場を依頼した。

救急隊知覚20時52分、出動20時53分、医院到着20時58分。救急隊到着時、JCS 300, 呼吸停止、脈拍橈骨動脈で触知不能、心電図で心静止を確認した。救急隊では救急救命士は搭乗していなかったため、経鼻エアウエイ挿入しバッグマスクで人工呼吸を行ったが、胸部挙上は得られず、胃が膨れるばかりであった。21時11分当院到着。気管内挿管を行うべく喉頭展開を行ったところ、喉頭蓋が球状にふくれあがり、披裂部粘膜も浮腫状に腫脹していた(写真1、図)。

声門部は全く見えず、盲目的気管内挿管も失敗したため気管切開を行った。21時20分気管切開により気道を確保した。アドレナリン2mgを気管内投与したところ、21時27分に心室細動を確認、除細動により40回/分の整脈が出現したため集中治療室(ICU)へと搬送した。

ICUでは人工呼吸器による換気と昇圧剤の投与を行った。また虚血性脳浮腫に対して濃グリセリンと副腎皮質ホルモンの投与を行った。ICU入室時より瞳孔は両側6mmで正中に固定し、気管内吸引によっても咳反射は起きなかった。第2病日からは体温中枢の異常によると思われる40℃の発熱が続いた。第3病日より尿崩症を起こした。第8病日、血圧低下から心停止に至った。
家族の承諾を得て病理解剖を行った。喉頭蓋の浮腫は消失し、炎症によると思われる粘膜下出血をわずかに認めるのみであった(写真2)。

3. 考察 救急隊が本事例のような患者を収容した場合、考えなければならない点は、第一にこのように急激に進行する疾患を思いつくこと、第二にすぐ気道確保を行える準備をすることである。また、死の恐怖に怯える患者と家族を励ますことも忘れてはならない。

1) 疾患を思いつくこと

上気道閉塞の原因は年齢によって異なる(表1)。小児では気道感染症によるもののほか、遊んでいる最中に異物を誤飲することが多い。成人になると腫瘍や外傷、老人では食事中の誤飲が多い2)。急性喉頭蓋炎は従来小児疾患であると考えられてきたが、現在では成人の疾患であって小児では稀であるとみられている3)。症状は咽頭痛・嚥下痛を初発症状とし、ついで含み声(声が出しにくい、押しつぶされたような声)を呈する。小児では喘鳴、咳に始まる3)。さらに進行すると呼吸困難となる。急性喉頭蓋炎は人口10万人当たり11人の発生率であり、そのうち呼吸困難を訴える事例が25%、気道確保を要する事例はわずか4%しかない(23万人に1人)3)ことから希な疾患といえるが、この疾患を疑うことで窒息の可能性を視野に入れた行動がとれる。

2) 気道確保をすること

呼吸困難の程度は体位によって変わる。患者は起座呼吸し、顎を突き出し、口を大きく開けて舌を突き出し、よだれを流す3)。呼吸筋の動きを妨げるような着衣は除去し、十分に胸部が広がるようにする。患者の最も楽な姿勢をとり、急激な体位変換は避けること。体位変換により喉頭蓋が喉頭に嵌頓して窒息する危険性があるためである。窒息は患者を仰臥位にしたときに多い4)が、いつどこで窒息するか全く予想がつかない3)。

呼吸困難が高度な場合には酸素投与はフェイスマスクではなく、高濃度の酸素投与を投与するためリザーバー付きのバッグマスクを用いる5)。患者の吸気に合わせてバッグマスクで酸素を送り込むようにすると、患者の呼吸仕事量が軽減される。意識障害が出現し、舌根が沈下してきた場合には経鼻・経口エアウエイが有効であるが、エアウエイが長すぎると喉頭蓋を喉頭に押し込む可能性があるため、適切な長さのエアウエイを選択する。

呼吸停止した場合にはツーウエイチューブかラリンジアルマスクを用いた気道確保を行うことになるが効果は悲観的である。これは、急性喉頭蓋炎では気道閉塞の原因が喉頭にあるためで、咽頭に空気を送り込むだけの気道確保では喉頭で空気はブロックされてしまう。報告した患者では救急隊員がバッグマスクで換気したところ胸部は挙上せずに胃ばかり膨満した。可能ならば完全に窒息する以前に気管内挿管や気管切開を行う。

3) 励ますこと

患者は死の恐怖と闘っている。恐怖は自律神経を刺激し、呼吸困難の増強をもたらすため可能な限り緩和する。常に患者の傍らで患者を励ますとともに、パニックになっている家族家族に対しても声掛けを行うことが必要である。

4. まとめ 急性喉頭蓋炎のため窒息した事例を報告し、留意点を述べた。急性喉頭蓋炎で呼吸困難に陥った場合には特定行為で認められている気道確保器具では救命できない。私は今回報告した事例を通して、一日も早く特定行為が拡大されることを要望したい。 謝辞 本報告について助言をいただきました旭川市南消防署豊岡出張所・中農 潔 副長と留萌消防本部・中路和也、梅澤卓也 両救急救命士に感謝します。
文献
1) 福田宏之: 外来で必要となる救急処置 急性喉頭蓋炎における急激な炎症. JOHNS 1997; 13 (7): 1035-1037.
2) 刑部義美: 上気道閉塞. 救急医学 1995; 19 (4): 392-393.
3) 鶴田至宏: 急性喉頭蓋炎. JOHNS 1994; 10 (8): 1089-1094.
4) 山本英一, 東祐史: 成人の急性喉頭蓋炎と急性声門下喉頭炎症例. 救急医学 1998; 22 (4): 492-494.
5) 小野寺紀幸、菊地和実、玉川進: バッグマスクにおける酸素流量と吸入酸素濃度の関係. プレ・ホスピタル・ケア 1997; 10 (4): 41-44
写真1
ICU入室時の喉頭展開の写真。わずかに見えているのは、球状に腫脹した喉頭蓋である(矢印)。声門部は全く見えない。

写真2
病理解剖によって切り出された患者の喉頭。浮腫は消失している。披裂部に粘膜下出血を認める(矢印)。


写真1の説明。

気道閉塞の原因2)

 原因特徴
小児仮性クループ嗄声、犬吠え様咳、吸気時喘鳴
喉頭蓋炎高熱、嚥下時疼痛
ジフテリア嗄声、犬吠え様咳
異物誤飲呼吸困難
扁桃肥大いびき、口呼吸
成人腫瘍頑固な咳、喘鳴
外傷外傷の既往
老人異物誤飲食事中もしくは食後に咳と喘鳴


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