AEMLデータページから引っ越してきました
HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします
救急の現場において、医師と救急隊員との間で日常的に交わされているこのような会 話が北海道の片田舎「興部」(図1)でも聞かれるようになるまでには長い年月を要した。
この歴然とした格差を目の前にして田舎の消防職員は思うのである。
「都会と同じようにできるわけがない。」と。
確かにその通りかもしれない。体制があまりにも違いすぎるのである。だが、そのこ
とを理由に努力を怠っていては、いつまでたっても進歩がないのではないか。救急に
関して恵まれていない環境にあっても、職員の「意識」次第では都会の救急隊と遜色
のない活動がある程度はできるのではないか。いつからか私は、このような考えを持
つようになっていた。
幸いなことに「意識改革」にはお金が掛からない。それならば今日からでも始められ る。でも、何をどう変えていけば良いのか?
ただ、いきなり難しいことを始めようとしても無理がある。我々にもできること、そ して欠けていたこと「傷病者観察(バイタルサインの確認)」から始めてみた。 最初のうちは気後れしながら傷病者にマンシェットを巻いていた。当然のことだが誰 でも初めて行うことに自信など持てない。だが、経験が自信へと変わってきたとき、 職員の間に小さな「変化」が生まれ始めた。自分が実際に目にした、耳にした傷病者 の観察結果がどんな病態を示唆していたのか、また、その後病院ではどのような処置 がなされどういった経過を辿ったのか。医師や看護婦からはどのような評価を得てい るのか。いろいろなことが気になってきた。
ちょうどそのような思いを抱いていたとき、地元の町立病院の院長が看護婦を対象に 院内で勉強会を開くとの話を知り合いの看護婦から耳にした。思い切って、「病院で の勉強会に救急隊員も参加させて貰えないでしょうか?」と婦長を通じてお願いして みたところ、院長からあっさりとOKを頂くことができた。医師との間に見えない「壁」 を作っていたのは、もしかして我々の方だったのかもしれない。
この勉強会はもともと、町立病院が「ライフスコープ」を購入したことに伴い、院長 が看護婦に対して心電図に関する講義を行うという形のものであった。しかし、蓋を 開けてみると救急隊員への質問責めで講義が展開され、主役であるはずの看護婦は “そっちのけ”といった感じであった。院長の救急に対する熱意が伝わってくると同 時に、我々のレベルが問われているようにも感じられた。
また、病院に足を踏み入れ、話をしてみて初めて分かったことがあった。それは「都 会」であっても「田舎」であっても救急隊員に寄せられる「期待」には変わりがない ということ、そして、「救命」という同じ目的を持つパートナーとして手を携えてい けるということである。
勉強会をとおして・お互いの顔が見えてきた・ことの効果も、少しずつではあるが現 れてきた。我々の変化としては、傷病者の観察を積極的に行うようになったこともあ り、病院での医師への申し送りを臆することなく行うようになった。また、勉強会に 参加する前と比べて、救急隊に対する看護婦の理解が深まったせいか、院内での協力 もスムーズに行えるようになった。
これらの取り組みは、「町」の規模に関わらず「搬送する側」と「受け入れる側」の 努力次第で救急業務のレベルアップが可能であることを示唆しているのではないか。
「興部」は今、小さな一歩を踏み出したばかりだ。しかし、一歩前に踏み出さなけれ ば、いつまでも現状を打破することはできない。救急の地域間格差を「職員の意識改 革」と「病院との連携」によって少しでも解消していければと願っている。
最後に、病院での勉強会に救急隊員が参加する機会を与えて下さった、興部町国民健 康保険病院の阿部俊英院長に深謝申し上げます。