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論文の書き方 4. 学会発表

玉川 進
旭川厚生病院麻酔科
078-8211 旭川市1条24丁目111番地3
tel 0166-33-7171
fax 0166-33-6075

はじめに

救急隊員の発表の機会はいっぱいあります。全国レベルでは日本救急医学会、日本臨床救急医学会、全国救急隊員シンポジウムが、地方レベルは北海道では日本救急医学会救急隊員部会、日本救急医学会北海道地方会があります(以下、組織である学会と発表の場である学会を区別して、発表の場を「学術集会」とします)。

これだけ学術集会があるのに、発表の方法は進歩しているのでしょうか。抄録をみても何を言いたいのかわからない、会場に行ったら抄録とは全く違うことを話している、スライドは字が小さすぎて読めない、発表時間を無視してしゃべり続ける。「意見発表会の域を越えていない」という意見1)には謙虚に耳を傾けるべきです。

発表は学術集会でも会議でも同じです。今回は学術集会発表に関するノウハウを時間に沿って講義します。発表の内容については、「論文の書き方1〜3」2-4)をご覧下さい。

5つの大切なこと 1)発表は楽しい

同期や同郷の救急隊員の前で、一段高いところから学問を垂れる。あなたは周りより一回り大きい人間になります。聴衆は口に出さなくても、心ではうらやましいと思っています。何だあんなの、と言う人もいるでしょう。言うのは簡単です。同じ壇に上がったうえで批判して下さい。

学術集会参加中は基本的に自由行動です。発表が終わったら観光に行くなり、仲間と旧交を温めるなり、思いっきり楽しみましょう。

2)自分の体験を発表する

「〜についての一考察」という机上の空論を発表する人がいます。抄録を見ると「〜ついて考察した」とわずか2行で終わっています。聴衆は演者の講義を聴きに来たのではありません。演者の体験を自分の活動に活かすためにわざわざ時間を割いて来ているのです。小さくてもいいですから、自分が体験したこと、研究したことを発表しましょう。体験したことは説得力が違います。

3)抄録をしっかり書く

抄録は単なる予告ではありません。他に引用される「論文」です。必ず内容を具体的に示し、抄録だけで演者の考え方が分かるように書きましょう。救急隊員部会でよく見られる、「〜について救急活動を行った事例(おわり)。」という、内容のまったくないものは紙の無駄です。事例についてのあらましと救急隊員の得た教訓を必ず書くべきです。

4)スライドは5行まで

小さな字で20行にもわたる文章を見せる人がいます。小さな字は誰も読んでくれません。演者自身が内容を整理できないのに、聴衆が理解できるわけがありません。一目でわかるように、大きな字を5行以内の箇条書きに並べましょう。

5)同じ演題は一回限り

全国会と地方会で同じ抄録、同じ内容で発表している人がいます。これは二重投稿(二股かけている)です。倫理上許されません。言い分を聞くと、全国会と地方会で聴衆が違うからとか。全国会の聴衆は年々増加しています。いい発表なら必ず地方にも情報は流れてきます。

学術集会とは 学術集会は、自分の経験した事例や研究を手軽に、しかも確実に聴衆に伝えることのできる機会です。論文ならば、発表しても反響がないことも、誰も読んでないこともあります。でも、学術集会なら、少なくともそこにいる人たちは聞いてくれます。論文は文献を揃え表現に気を配って神経をすり減らしますが、学術集会ではそういった負担はかなり軽くなります。論文は雑誌をとっている人しか見ませんが、学術集会、特に地方会では全ての消防本部に抄録が行き渡り、自分が発表することは全員に知れ渡ります。

私は、学術集会は小学校の学芸会と同じだと考えています。先生に当てられるか、自分で手を挙げて出し物を決めます。当日、児童は日頃の練習の成果(=演題)を舞台の上で演じます。観客席で身内は声援を送り、他人はおもしろい出し物を期待してみつめるのです。おもしろければ大きな拍手(=反響)を受けます。つまらなければ白々とした空気が流れます。観客となって参加するのもいいでしょう。でも、大勢の前でスポットライトを浴びて自分の技を披露するのは快感です。同じ技なら、大向こうをも唸らせる見事な技を見せましょう。

抄録を作る 1)抄録とは

抄録とは、400〜1000字で演題の予告をする文章のことです。抄録の受け付けが学術集会の発表受け付けとなります。全国会では6カ月前、地方会では3カ月前に演題申し込みの〆切が来るので、それまでに抄録を郵送します。

2)抄録の構成

構成は一般の論文と変わりません。しかし、字数が限られていますので、簡潔に自分の言いたいことをはっきり言いましょう。今までの抄録集をひっくり返し、構成のしっかりした抄録を見つけてその真似をします。

事例報告では

・「はじめに」    発表の目的を明らかにします。
・「事例」    今回の発表で言いたいことに関連することだけを挙げます。蘇生例なら蘇生に関与したと考える救命行為を、器具なら使った場面を中心に書きます。
・「考察」    多くの考察は書けません。自分でこうと思うことを書きます。
・「結論」    1行で言い切るようにします。

研究報告では

・「はじめに」
・「対象(材料)と方法」  人間相手なら対象、人間以外なら材料となります。結果に結びつく最小限度の記載をします。
・「結果」     研究で発見した結果を簡潔に書きます。
・「考察」
・「結論」

字数に余裕がない場合は「はじめに」「事例」などのタイトルは省略します。さらに余裕がない場合には「考察」を省くことがあります。字数を削るのはしんどい作業ですが、自分の最も言いたいことを常に念頭に置けば、何とか削れるものです。紋切り型になっても仕方ないでしょう。

書き上がったら、同僚に見てもらい、発表の内容が想像つくか聞いてみましょう。今まで述べたような形式を踏んでいれば、必ず理解してくれます。

3)抄録の印刷(図1)

抄録用紙は薄い水色の罫線の印刷された紙です(一部では原稿用紙での提出やインターネットでの提出があります)。字を書く左上の角は青く塗りつぶしてあり、ここに学術集会の主催者が演題番号を入れます。

抄録用紙に直接印刷する必要はありません。ワープロを使って別の紙に印刷します。紙と抄録用紙を、ちょうど透かし絵をなぞる要領で重ねて、抄録用紙の枠内に印刷したものがピッタリと入るように行間や字幅を調節します。次に、印刷した紙から文章をカッターで切り取り、糊で抄録用紙に貼り付けます。枠からはみ出てはいけませんが、余白は許されます。主催者は送られてきた抄録を写真にとって製本するので、はみ出た分は印刷されません。罫線は無視しても構いません。罫線上に字を乗せても罫線は印刷されません。

どうしても字数が超過するときには、行間を狭くしたり字を1ポイント小さくしたりして枠内に押し込みます。でも、あまり字をぎゅうぎゅう詰めにすると読みづらくなりますので、文章を削るほうが賢明です。

スライドを作る 1)スライド作りの定石(図2) 学校で教師が黒板に字を書くところを想像します。

・生徒(聴衆)が興味を持つように
・黒板(背景)は黒〜青
・図を多用して
・色は少なく
・字は大きく
・白か黄色
・5行までの
・箇条書きにする

(a)興味を持たせる
聴衆は全員ナマケモノです。仲間の発表は聞きますが、知らない人の発表は聞きません。見るのに面倒なスライドは絶対に見ません。「面倒でない」スライドを作りましょう。

(b)背景
見やすいのは暗い紺の背景で、軽くグラデーション(連続的な色の変化)をかけます。背景をきれいにすると背景ばかりに気を取られます。赤や黄色の目立つ色は禁止です。自分を主張するために隅に所属や名前を書くのもいいでしょう。でも名前だけが目立ってしまわないように地味な色にします。

(c)字
白か黄色にします。チョークの色です。字は目一杯大きくします。スライドに余白はいりません。下品と思うくらいが、会場の後ろの聴衆には親切なのです。

(d)文
箇条書き、5行まで。文章を書いてはだめです。聴衆は面倒がって読みません。5行までは一目で理解できます。5行を越えると読む必要があります。これも面倒になって誰も見なくなります。自分の発表を完全に理解しているなら、5行にするのは可能です。

(e)図
文字を並べるよりグラフにしましょう。口で言うなら写真を見せましょう。写真がないなら絵を描きましょう。百聞は一見に如かず。つたない絵でも聴衆は喜びます。

2)スライド全体の構成

スライドは1分1枚です。6分の発表なら6枚が目安になります。目的で1枚、対象と方法で1枚、結果で2枚、考察で1枚、結論で1枚。事例の発表なら、事例の詳細で3枚。タイトルのスライドは作りたい人は作ります。スライドの枚数は最小限度にして、その分じっくり説明します。次々とスライドを見せられると、聴衆は疲れます。出したスライドは必ず説明します。説明なしで次のを出すということは、そのスライドは出さなくてもよいということです。

スライドの文字数はできるだけ削ります。そして、スライドの文言(もしくは項目)は必ず話すようにします。スライドに書いてあるのにしゃべらないと、聴衆は何か不都合があるのではと疑います。

3)コンピュータとスライド

現在ではほとんどのスライドはコンピュータで作られています。利点は、自分で何回も作りなおしができること、写真屋に頼むよりはるかに安価で迅速に仕上がることです。操作はそんなに難しくはないので、初めての人でも2日もあればなんとか作れます。スライドは「作品」です。自分らしいスライドを作って下さい。

フロッピーにスライドファイルはできても、専用のスライド作成器(ポラロイド・デジタルパレットなど)がないとスライドにはなりません。業者に頼むとびっくりする金額になります。ここは知っている医師に頼んで実費で作ってもらうのが賢明です。300床以上の総合病院ならだいたいは導入しているので、救急搬送先の親しい医師に聞いてみましょう。それと、自分の作ったスライドファイルがそこの病院のコンピュータに合うかもちゃんと確認する必要があります。医師はマッキントッシュがほとんどで、ウインドウズは少ないからです。

口述原稿を作る 1)分量

1分300字です。かなりゆっくりした話し方だと思うでしょうが、会場では明かりを消したりスライドを進めたりで時間が取られるので、これくらいでちょうどいいのです。 何を言いたいのか、どこを強調したいのかもう一度考えましょう。6分間で1800字ですから、よけいなことを話している暇はありません。結論は一言で言い切れるようにします。

2)書き方

スライドを見ながら、自分が話すそのままを書いていきます。「次のスライドお願いします」も書いておきます。図のスライドでは、説明する言葉もちゃんと書いてみましょう。接続詞でだらだら続けないこと。二重否定は避けること。言い切ること。結論を先に述べて、あとから理由を話すようにすると聴衆は理解してくれます。できあがったら音読してみて、つっかかるところや同音異義語で意味のつかめないところを書き換えます。

3)練習する

発表では原稿を読まず前を向いて話します。そのためには練習あるのみです。20回音読すれば、暗記できなくともまず言いたいことを落とさなくなります。実際の発表ではスライドを眺めながらしゃべるので楽です。

発表時間は厳守します。練習で発表時間も図っておきます。発表の際に時間切れを示す黄や赤のランプが目の前でつくと、すごく焦るものです。

発表する 1)発表までの雑用

全国会では演題日時決定の葉書が3カ月前に、1カ月前には地方会でも抄録集が手元に届くので、発表の日時にあわせて交通と宿泊の手配をします。地方都市の場合にはホテルが少なく泊まれないこともあるので、宿だけはきっちり押さえておきましょう。夜中に着いて朝発表してすぐとんぼ帰り、ではあまりにも寂しいので、半日は遊べる時間を設けます。滅多に行けない所なら、ガイドブックを買って予備知識を仕入れておきます。同じ学術集会に参加する友人に連絡をとって、宴会の予定も入れておきましょう。

2)予演会

発表の盛んな消防本部では「予演会」といって隊員の前で実際にスライドを使ったリハーサルを行っています。勤務の合い間をみて行ってみてはどうでしょうか。仲間から有益な指摘があることでしょう。予演会は発表の2週間前に行います。それ以前だとスライドができない可能性がありますし、それ以降だとスライドが間違っていても直す時間がないためです。

3)会場入り

学術集会当日は、受け付けと同時にスライドフォルダをもらい、自分でスライドを入れて試写します。順番、表裏を確かめたならスライドを提出します。自分の発表が近づいたら、「次演者席」と書かれた座席の近くに移動します。自分の前の人の発表で、マイクの調子やレーザービームポインターの使い方を見ておきます。

4)発表する

発表は学芸会だと書きました。観衆が喜び自分も喜ぶように、日頃の成果を十分に発揮しましょう。しかし、うまくしゃべる必要はありません。誠実に、自分の思うことをそのまま話せば聴衆は好感を持ってくれます。

順番が来たら発表原稿とボールペンを持って壇に上がります。レーザービームポインターを触って、ポインターのスイッチを確かめてから発表を始めます。原稿は手元に置いておきますが、できるだけ読まないように。自分でゆっくりすぎるかなと考えるくらいが聴衆にとってはちょうどいい速さです。スライドと会場に均等に目を移して発表を続けましょう。図のスライドは発表のヤマです。ポインターを使って、時間をかけて説明します。

はじめはどうしてもあがります。本を読むと、準備することが大切だと書いてあります5)。あがらないための特効薬は、積み重ねによって得た自信であるとも書いてあります6)。私は場慣れが1番、練習が2番、内容が3番だと思います。場慣れと練習は当然。内容に自信があれば、教えてやってるんだぞという気持ちで発表でき余裕が持てます。そのためにも、発表の内容を絞り込んで、自分の言いたいことをスパッと言い切るようにしましょう。酒を飲んで発表する、精神安定剤のセルシン2mgを30分前に飲むなども効果はあるそうですが、私はやったことありません。

5)質問を受ける

発表が終わると聴衆や座長から質問を受ける時間があります。私も初めは恐怖の時間でしたが、慣れてくると質問が楽しみになりました。聴衆から何も質問がなくて、座長がお義理に質問してくるのでは、自分の発表が無視されているのと同じです。

会場から手が挙がるとびっくりしますが、そこは心を落ちつけて質問者を見つめます。手にはボールペンを持って、質問内容を発表原稿の余白に書き留めます。質問は1人ひとつとは限りません。複数の項目があると、答えている最中にあとの質問を忘れてしまうからです。

自分の思う通りに回答します。「実は...」といって裏話をしてもよいでしょう。砕けた話のほうが印象に残りますし、ためになることもあります。わからないことは、素直にわかりませんといいましょう。知らないことは恥ではありません。知っている振りをするほうが恥です。共同演者が回答できそうだと考えたら、壇上からその人を指名しても構いません。

自分の発表が終わっても、少なくとも座長が同じうちは会場に留まって発表を聞いて下さい。自分と同じような演題が並んでいるので、きっと得るところはあるでしょう。

帰ってきて 1)整理をする

思いっきり楽しめましたか。反省点はあるでしょうか。良かったこと、悪かったことをメモにして保存しておきましょう。次回の発表に必ず役立ちます。お世話になった医師には礼状を出しましょう。

2)論文にする

発表しただけでは記録に残りません。「プレホスピタル・ケア」を見ても、演題は題名しか載っていません。ぜひ論文に仕上げて投稿して下さい。雑誌に載れば、何年経っても仕事が残ります。私の指導している消防本部では、学術集会までに投稿を終わらせており、多くは論文掲載後に学術集会に臨みます。「プレホスピタル・ケア」が季刊のため、投稿から掲載まで期間が長いためです。

おわりに 4回シリーズで「論文の書き方」を講義してきました。必ずやこれからの学術活動の参考になると信じます。わからないことがあればファックスかEメールで質問をお寄せ下さい。 執筆の機会を与えて下さった桂田菊嗣先生はじめ編集委員の先生方、編集室の石井文子さん、アンケートと執筆に協力下さいました留萌と旭川の救急隊員の皆様に感謝いたします。
引用文献

1) 匿名: Letters. プレホスピタル・ケア 1998; 11 (1): 91.
2) 玉川進: 論文の書き方 1.総論. プレホスピタル・ケア 1999; 12 (1): 印刷中.
3) 玉川進: 論文の書き方 2.原著・投稿. プレホスピタル・ケア 1999; 12 (2): 印刷中.
4) 玉川進: 論文の書き方 3.事例報告. プレホスピタル・ケア 1999; 12 (3): 印刷中.
5) 諏訪邦夫: 発表の技法. 講談社, 東京, 1995
6) 砂原善文: 科学者のための研究発表のしかた. 朝倉書店, 東京, 1985, pp48.


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