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HTMLにまとめて下さいました粥川正彦氏に感謝いたします


【私たちの研究】

特定行為指示における衛星電話の利点と欠点

横川正明、水谷修一、深川敏、有働裕妃、椋井義友、岡田伸、野原恵一、遠藤公幸
【深川地区消防組合深川消防署幌加内支署】

著者連絡先
横川正明:よこかわまさあき
北海道雨竜郡幌加内町字平和:救急救命士
TEL:01653-5-2246  FAX:01653-5-2248

1、はじめに

当支署は職員14名(救急救命士4名、II課程又は標準課程修了者9名、I課程修了 者1名)で消防隊兼務で救急隊を編成し幌加内町全域を管轄している。幌加内町は南 北63キロメートル、東西24キロメートルの縦長の地形で名寄・士別・旭川・深川 など12の市町に隣接する広大な面積を有し、山岳に囲まれた盆地のため内陸性の気 候で夏は高温多湿、冬は厳寒で昭和52年2月には−41.2度を記録、降雪量は2 0mを超え北海道でも豪雪地帯として知られている。

図1 図2
平成10年1月に高規格救急車を導入したが、当時は携帯電話のエリア外で、救急現 場での特定行為指示要請はおろか、心電図伝送もできない状況であった。このため、 救急車に衛星電話を積載することにより(図1、2)、医師との電話連絡が可能になっ た。

当町は消防無線の不感地帯も多く通信手段として衛星電話を使用することもあり、峠 などの山間部で衛星電話の通話中に会話が困難になったり、通話が切断することが あった。

今回私たちは、実際に山間部を走行して衛星電話の利点と欠点を調べることにした。

2、対象と方法 救急車に積載している衛星電話を使用し、心電図伝送に要する時間や場所を移動して の伝送状態、通話状態等について調査した。調査地点は通話が切断される可能性のあ る山間部と消防庁舎前とし、救急車から幌加内町国保病院の受信装置へ心電図を伝 送、着信までの時間を計測した。また、同様の条件で携帯電話を使用し、衛星電話と 比較した(図3)。 3、結果  表1に衛星電話で心電図伝送してから受信装置に着信するまでの時間を示す。
(1) 伝送装置の送信ボタンを押してから受信装置に表示されるまで1分の時間を要する。
(2) 救急車の電話を衛星電話に切り替えてから電話が使用可能になるまで10秒を要する。
(3) 救急車から衛星電話をかけて(ダイヤル終了)から呼出音が鳴るまで8秒を要する。
(4) 携帯電話では(1)〜(3)を合計して1分を要する。
(5) 救急車内での電話音量は非常に小さく聞き取りづらく、音声遅延や反響状態により更に通話が困難となる。
(6) 救急車の衛星電話の電波受信状態(受信レベル)は、アンテナの南方に鉄筋コンク リートの壁がある場合は圏外になり使用不能で(図4)、樹木などの障害物がある場合も圏外になり使用不能になったり、レベルが落ちることがある(図5)。
(7) 山間部(峠)では走行中の伝送状態は非常に不安定で、レベルが頻繁に変化(圏外〜III)し、場所により心電図波形が途切れたり、切断し伝送できない場合がある。
(8) 救急車から衛星電話で心電図伝送しながら走行し、交差点で方向変換中に波形が途切れた状態になる場合があった。
(9) 衛星電話で通話中にトンネル(和幌トンネル)を通過したところ、救急車がトンネルに入った時点で切断した。
図4図5

表1 衛星電話で心電図伝送してから受信装置に着信するまでの時間
場所地形伝送状態着信状態結果
江丹別峠幌加内側峠下平地走行中に伝送55秒
江丹別峠幌加内側上り口峠上り走行中に伝送切断
江丹別峠幌加内側中腹峠上り走行中に伝送55秒
江丹別峠頂上峠上り停車中に伝送55秒
江丹別峠旭川側頂上付近峠下り停車中に伝送し走行切断
江丹別峠旭川側峠下平地停車中に伝送54秒
江丹別峠旭川側上り口峠上り停車中に伝送し走行切断
江丹別峠旭川側中腹峠上り走行中に伝送切断
嵐山三叉路から幌加内方面平地(山間)走行中に伝送切断
江丹別市街から幌加内方面平地走行中に伝送69秒
江丹別峠旭川側峠下から上り口平地〜峠上り走行中に伝送着信後切断55秒
江丹別峠幌加内側頂上から中腹峠下り走行中に伝送着信後切断53秒
消防庁舎前平地停車中に伝送53秒

4、考察 幌加内支署救急車に衛星電話は2台積載している。1台はヘッドセットを使用して通 話し心電図伝送ができるようになっており、もう1台は普通の電話受話器を使用し通 話するようになっている。2台とも車内固定式でアンテナは衛星を自動的に追尾する ので方向や角度の調整は不用である。衛星電話は携帯電話と切り替えて使用する。携 帯電話のエリア内では自動的に携帯電話(地上方式)の電波を使用し、携帯電話のエ リア外または手動で切り替えた場合に衛星電話(衛星方式)を使用できるものであ る。

特定行為指示を受ける場合、衛星電話は携帯電話のエリア外であっても使用できると いう利点があるが、今回の調査結果では、衛星電話切り替えに約10秒、ダイヤル操 作終了から呼出音が鳴るまで8秒、心電図が伝送されるまで約1分を要した。これに 対し携帯電話の場合も心電図伝送されるまで約1分を要した。

通話状態は音声遅延や反響状態などがあり難がある。また、峠や山間部走行中は電波 受信状態が安定せず、心電図波形が途切れたり、通話が切断するという欠点がある。 また、衛星電話は車内でしか使えないため、現場で指示を受けるには現場と車内を往 復する必要があることや、1回線では心電図を伝送しながらの通話ができないため、 伝送後もう1回線を使って電話をかける必要がある。

衛星電話を使用し特定行為指示を受ける場合、携帯電話と比較して余分な時間を要す ることや、状況によってはまったく通話も出来ないこともある。これは、1分1秒を 争う救急現場では大きなハンディキャップとなる。傷病者の救命のためには、医師か らの指示を受けなくても救命士が特定行為を実施できるよう法律の整備の必要があ る。

5、結論 (1)衛星電話を使用し特定行為指示を受ける場合、携帯電話と比較して余分な時間を 要し、状況によってはまったく通話が出来ないことがある。

(2)医師からの指示を受けなくても救命士が特定行為を実施できるよう法律の整備が 必要である。


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