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今井睦、硲智幸、長沢博、大井雅博、矢野政一、玉川進:指血圧計は救急現場で使えるか.プレホスピタルケア 2002;15(1通巻47):37-41


指血圧計は救急現場で使えるか

今井 睦*1、硲 智幸*1、長沢 博*1、大井雅博*1、矢野政一*1、玉川 進*2  
*1紋別地区消防組合消防署興部支署
*2旭川医科大学第一病理学講座

著者連絡先:
今井 睦(いまい あつし)
紋別地区消防組合消防署興部支署
〒098-1607 北海道紋別郡興部町字興部710番地
Tel 01588-2-2136
FAX 01588-2-2400

はじめに

 血圧測定は救急患者観察において重要である。通常は上腕にマンシェットを巻いて聴診法にて測定するが、原則として着衣を脱がさなければならず1)、また、救急車内など騒音や振動の多いところではコロトコフ音が聞こえず測定不能の場合もある。これに対し玉田ら2)は手首血圧計を患者に使用し救急現場での応用を論じている。市販されている血圧計としては手首血圧計に加え指血圧計もある。これは輪の中に指を入れスイッチを押すだけの簡単な操作で血圧を測定できる。今回私達は、健康者及び病院入院患者に対し指血圧計にて血圧を測定し聴診法と比較した。また、走行時・停車時の救急車内においても同様に比較を行い、指血圧計が救急現場において使用できるか検討した。

対象と方

 研究に先立ち筆者らの一人が本研究の目的を対象に説明し同意を得た。

研究1:救急車外での比較
 健康者を健康群、病院入院患者を患者群とした。健康群は支署職員と職員の家族、町役場職員と町内の中学生合計9名を対象にした。患者群は興部町国民健康保険病院に入院している女性9名を対象にした。救急車内における測定対象者は、支署職員と町役場職員の健康者合計12名を対象にした。

図1 拡大

 測定中は両群とも安静にしてもらい、指先、腕、体を動かさないようにお願いした。

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まず、アネロイド式血圧計を使用し、裸腕上腕部にマンシェットを巻き聴診法により仰臥位もしくは座位で測定した。指血圧計(NISSEI デジタル血圧計ヘルストップFS-40D、図1)では、左手人差し指を用い同じく仰臥位または座位で測定した。対象によっては筆者が手で指血圧計を支持することもあった(図2)。

図2
指血圧計では左手人差し指を用い仰臥位または座位で測定した。対象によっては筆者が手で血圧計を支持することもあった。

アネロイド式血圧計ではマンシェットの位置を、指血圧計では測定中の左手をともに心臓と同じ高さに保つように心掛けた。
 測定項目はアネロイド式血圧計と指血圧計においての
1)最高血圧と最低血圧
2)筆者が被検者の上腕もしくは手掌を保持したかどうか
3)血圧計に対する被検者の使用感
4)測定での注意点
である。

研究2:救急車内での比較 
 消防署興部支署の職員とその家族12人を対象とした。防振ベッド上に仰臥位で安静にして、アネロイド式血圧計と指血圧計について走行時の場合と停車時の場合のそれぞれで測定を行った。
 統計処理にはt検定をを用い、p<0.05を有意とした。

結果

研究1

 健康群・患者群測定対象者背景を表1に示す。


表1
研究1の対象

健康群                   
人 数  9名               
男:女  7:2
年 齢  8歳〜 38歳(平均 26歳)
身 長130B〜190B(平均166B)
体 重 20L〜 80L(平均 61L)

患者群
人 数  9名               
男:女  0:9
年 齢 62歳〜 86歳(平均 74歳)
身 長140B〜155B(平均145B)
体 重 30L〜 68L(平均 44L)


1)健康群、患者群ともにアネロイド式血圧計と指血圧計の間で測定値に有意差はみられなかった
2)アネロイド式血圧計では上腕を保持することが皆無であったのに対し、指血圧計では手掌を保持したのは健康群で3名、患者群で6名であった。
3)血圧計の使用感では、指血圧計に対して患者群の1名が合成ゴムである指カフに指の汗が付着して不快感を訴えた。
4)測定時の注意点としては、指血圧計で手掌ばかりでなく上腕全体を固定して体動を抑えることが最重要かつ必須であった。

研究2
 救急車内測定対象者背景を表2に示す。


表2
研究2の結果
t検定では有意な差が見られた。
走行時
最高血圧 アネロイド式血圧計>指血圧計(p=0.0118)
最低血圧 アネロイド式血圧計=指血圧計(p=0.9518)
停車時
最高血圧 アネロイド式血圧計>指血圧計(p=0.0001)
最低血圧 アネロイド式血圧計>指血圧計(p=0.0355)


 結果を図3に示す。


図3
血圧計の違いによる、最高血圧と最低血圧の変化。
健康群、患者群ともにアネロイド式血圧計と指血圧計の間で測定値に有意差はみられなかった(t検定)。しかし、健康群では両血圧計の間で血圧はほぼ一致したのに比べ、患者群では二つの血圧計の値にばらつきが見られた

拡大


機種間の血圧の比較では走行時の最低血圧以外機種間で有意な差が見られた。また、走行時における指血圧計の測定では、測定を繰り返した場合が4例あり、測定不能のものもあった。

考察

 指血圧計はオシロメトリック法により血圧を表示している。この方法は、動脈の拍動がカフに伝わりその振動を感知して血圧を表示するもの3,4)で、聴診器やマイクロフォンが不要なため雑音に強く4)装置を小型化できる。その反面外部からの振動に弱い。
 指血圧計は上腕における聴診法より最高血圧・最低血圧ともに高値を示す5)。しかし、今回私達の結果では、二つの測定方法で血圧に有意差は見られなかった。これは、過去の報告とは機種が違い、私達の用いた機種は血圧計として進歩したためと考えられる。オシロメトリック法での振動の出現点・消失点は最高血圧・最低血圧と一致しないし、それらを結びつける理論的根拠も存在しない3)。指血圧計での血圧は振動の状態からコンピュータが実際の血圧を予測したものであり、プログラムや計算機能・圧測定技術の進歩により正確な血圧予測が可能となる。
 健康群ではアネロイド式血圧計と指血圧計で測定値がほぼ一致したのは、測定中指血圧計を台の上に安定して置くことができたのが原因と考える。それに対し、患者群ではアネロイド式血圧計と指血圧計で測定値が乖離していることが多かった。この原因としては、手指の冷たい人、動脈硬化が進んでいた可能性のある人、基礎疾患や高齢、振戦などが考えられる。また、ベッドサイドということで指血圧計を安定したところに置くことができなかった状況もあり、わずかの振動で誤差を生じたと考える。
 指血圧計の利点としては、露出度の高い指を用いるので、服を脱がすこともなく瞬時に測定することができる。また、サイズもコンパクトで携帯にも便利であり、簡単な操作を覚えれば誰でも測定することができる。指カフ内のゲージ基準(18mm〜22mm)に合った指であれば、測定可能である。広範囲熱傷で手指だけ受傷を免れた場合には効果的かもしれない。救急現場で指血圧計が使えそうな場面は、暖かい屋内で安静にしている患者に対してであるかと考える。また、ショックなどの末梢循環不全では上腕での聴診法による血圧と指血圧計での血圧を比較することにより、患者の状態の評価に使える可能性がある。
 しかし、今回の研究では、いくつかの欠点も明らかとなった。
 最大の欠点は動かすことによって測定値が不正確になることである。これはオシロメトリック法の欠点といえるが、指血圧計の場合にはカフがとても小さいため、僅かの体動によってもカフに大きな振動が伝わってしまう。静止状態であれば信頼できる数値が測定されるが、救急現場やさらに救急車内では、体動・振動があるので測定できないと思われる。研究2において、走行時救急車内で指血圧を用いて測定すると、振動があったためエラーが生じ、測定を繰り返し行った。このことにより、測定時間の延長と測定不能になった対象もいた。興奮状態で動きを抑制できない人も同様に測定できない。また停車時においてもアネロイド式血圧計と有意に異なった値を示したのは、車内が狭いため指血圧計を安定して保持できなかったためと考えられる。
 さらに、使用温度が10℃〜40℃であるため、冬期間の屋外など低温環境では使えない。露出度の高い手指を用いることで寒冷に暴露されると血管が収縮して、血流量が減少するので指血圧計は使用できないと考える。同様に動脈硬化の進んでいる人でも使用は制限される。しかし指の血流量の観点からは、指血圧計を末梢血流循環測定法として捉え、末梢循環の検査機器として用いる報告5)もある。

結論

今回の研究によって、指血圧計の利点と欠点が分った。
利点は、手指を用いるので、瞬時に測定できる。サイズがコンパクトで携帯に便利で操作も簡単である。欠点は走行時においては、振動によりエラーが生じ、測定を繰り返し行わなければならなかった。また、測定不能もあった。これにより、測定時間の延長がおきた。指血圧計は、暖かい屋内の安静にしている患者など使用条件が揃えば有効活用できる。しかし、体動・振動など多種多様の条件の救急現場や救急車内での使用は難しい。

文献

1)鈴木晶、児島広勝、玉川進:衣類の上からの血圧測定について-タオル等を利用したコントロールスタディ-。プレホスピタル・ケア 2000;13(2):44-49
2)玉田伸二、川原淳二、工藤淳一、他:手首血圧計の検討。プレホスピタル・ケア 1999;12(4):45-47
3)伊藤寛志:特別講演I 間接法による血圧測定の進歩と現状。臨床モニター 1992;3s:9-15
4)嶋津秀昭:血圧測定法はどのように進歩したか。OPE nursing 10(5):420-425
5)小高秀夫、近藤東郎:血圧測定法に関する比較研究。健康管理 1993;463:33-37

図1
左は指血圧計(NISSEI デジタル血圧計ヘルストップFS-40D)、右はアネロイド式血圧計。

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06.10.8/11:27 AM