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硲智幸、大井雅博、松田幸司、今井睦、矢野政一、長谷川有貴子、服部憲尚、玉川進:食物アナフィラキシーショックの1事例。プレホスピタルケア 2002;15(1通巻47):34-36


食物アナフィラキシーショックの1事例

硲 智幸*、大井雅博*、松田幸司*、今井 睦*、矢野政一*、長谷川有貴子**、服部憲尚***、玉川 進****

*紋別地区消防組合消防署興部支署
**興部町福祉保健課健康推進係管理栄養士
***興部町国民健康保険病院内科
****旭川医科大学第一病理学講座

著者連絡先
硲 智幸:はざま ともゆき
紋別(もんべつ)地区消防組合消防署興部(おこっぺ)支署
〒098-1607 北海道紋別郡興部町字興部710番地
Tel 01588-2-2136
Fax 01588-2-2400

はじめに

 アナフィラキシーショックは救急現場ではスズメ蜂刺創によるものがよく知られている。今回我々は飯寿司が原因と思われるアナフィラキシーショックの事例を経験した。この事例を通じ、救急活動の基礎となる観察の重要性を再認識したので報告する。

事例

 66歳、女性。
 午前2時12分119番覚知。「蕁麻疹がでて、吐き気もある」という家族からの通報。2時13分出動、2時26分現場到着。患者は自宅1階居間の床上に左側臥位で寝ており、側の洗面器内には飯粒様の吐物が少量あった。主訴は全身の痒みと腹痛、めまい、嘔気。観察の結果は、顔面やや蒼白、苦悶表情、意識清明、全身に直径2mm大の発赤が認められ(図1)、四肢は温かかった。

脈拍43回/分、血圧88/61mmHg、SpO2は測定不能。患者より聴取すると、前日の21時30分頃にお茶漬けを食べ就寝したが0時30分頃から発赤による痒みと腹痛、嘔気があり、救急隊到着までに3回嘔吐したとのことであった。また、今回のような症状は初めてとのことであった。
 搬送病院は観察結果からアレルギーによるショックを疑い、家族も連絡済であった直近の一次医療機関を選定した。
 2時31分現場出発。車内収容後、血圧低下を防ぐため足側高位とした。搬送中の状態は、意識清明、呼吸18回/分、体温36.3℃(腋窩)、SpO2測定不能、病院到着前(2時43分)の血圧116/71mmHg、主訴は変化なし。
 2時44分病院到着。高度の腹痛と嘔気・下痢を訴え、鎖骨部・上腹部・両大腿内側には発赤を伴った膨疹が見られた。医師が尋ねると夕食後に鯖の飯寿司を食べたこと、過去にも鯖で蕁麻疹が出たことを話した。病院到着直後の仰臥位での血圧110/70mmHg。呼吸音に異常はなかった。食物アナフィラキシーショックを考え乳酸リンゲル液で静脈確保するとともにテオフィリン・グリチルリチン・コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウムを投与したが血圧は低下し、最高血圧は80mmHg台となった。ドパミンを持続投与しても血圧の上昇が得られないため、二次医療機関へ転院した。

考察

 アナフィラキシーショックは決してまれな病態ではなく、有病率は人口10万人あたり30人、救急外来受診者の2300人に1人がアナフィラキシーショックである1)。そのうちアレルゲンを含む食物をとることにより体内でアレルギー反応が起こり、種々の症状を示すものを食物アナフィラキシーと呼んでいる2)。日本では原因食物として小麦が多く、牛乳、卵と続く2)。症状としては呼吸器症状として喉頭浮腫と喘息があり、循環器症状として低血圧・頻脈が、消化器症状として嘔気・嘔吐・下痢がある。皮膚症状としては蕁麻疹と鼻炎がある1)。
 救急現場で行う観察はその後の救急処置や医療機関選定を判断する上で基礎となるべきもので、ことに患者の生命に直接影響を及ぼす症状を的確かつ迅速に把握することが重要である。
 我々は患者からはアレルギーの原因物を特定する聴取をしていなかったため、医師へ渡す情報が不足した。我々救急隊員は、患者を病院へ収容した際、医師に対して観察結果、実施した応急処置及び症状の変化などの情報を伝えなければならない。特に本事例のようなアナフィラキシーショックでは病状が急激に悪化するため、医療機関到着直後から治療を開始できるよう、発症時の状況・発症した理由など医師の判断の助けとなる重要な情報は必ず聴取すべきである。
 我々の観察結果はアレルギーによるショックと一致してたが、呼吸状態も良く声のかすれもなかったことから呼吸音の聴診及び酸素投与はしなかった。しかし、アナフィラキシーショックでは、喉頭浮腫により呼吸困難から窒息に陥る場合もある1)ことから、呼吸状態を知る上で呼吸音の聴診は必要不可欠な観察であった。酸素投与については呼吸状態だけで判断するのではなく、全身発赤、低血圧、四肢が温かい状態(末梢血管拡張)から循環血液量が減少していることも考え合わせ実施すべき処置であった。
 搬送中は血圧低下を防ぐため足側高位とした。現場の血圧が88/61mmHgであったものが病院到着前に116/71mmHgと上昇したのは、この処置が有効であったものと思われる。また搬送中には患者に積極的に話しかけ励ましたことも患者の全身状態維持に有効であったかもしれない。主訴であるめまいと嘔気については搬送中の振動を軽減するよう心がけた。
 病院選定については二次医療機関が遠距離にあり搬送に時間を要すことから直近の一次医療機関へ搬送した。ショック症状を呈している患者は緊急度、重傷度が高く、少しでも早く治療が受けられるよう直近医療機関を選定しがちだが、直近医療機関とは患者の症状に適応した治療が速やかに行うことのできる最も近い病院であるという基本を忘れず、患者の救命を第一に考え病院選定をしなければならない。
 今回の事例では、救急活動の基礎となる観察の重要性を再認識するとともに、我々は、自らの対応が患者の生命にかかわる場で活動しているという自覚と責任感を持ち、更なる知識や技術の習得に努めなければならないことを痛感した。

結語

1)食物アナフィラキシーショックの事例を経験したので報告した。
2)今回の事例では観察の重要性を再認識するとともに、更なる知識や技術の習得に努めなければならないことを痛感した。

文献
1)The American heart association collaboration with the international
committee in resuscitation: Guideline 2000 for cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care. Circulation 2000;102(8s): 241-243
2)松本知明、猪原淑子:食物アナフィラキシー-食べ物が命を脅かす-. 栄養日本 1998;41(12)761-767

図1
現場での皮膚発赤の部位。2mm大の発赤が全身に見られた。


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